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名古屋市出身の陸上選手が、独自の走り方と陸上理論で、夢の9秒台、そしてオリンピック出場を目指します。勝負の一戦に密着しました。
試行錯誤の末にたどり着いた9秒台への秘策 「9秒台出して初めて本当のスプリンター」
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オリンピック選考となる日本選手権前、最後のレースに挑む地元スプリンターがいました。陸上100m・名古屋市出身の本郷汰樹(ほんごう・たじゅ)選手、25歳です。本郷選手が目指しているのは、まだ日本人で4人しか越えていない9秒台の壁。
陸上100メートル 本郷汰樹選手:
「やっぱり9秒台ですね。9秒台出して初めて本当のスプリンターみたいなところがあると思うので」
本郷選手はおととし愛知県記録の10秒12をマーク。1年で自己ベストを3回も更新し、去年の日本選手権は5位と、一気にトップ選手と肩を並べた急成長株です。
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今年4月。本郷選手の練習を覗いてみると、競技場に独特な足音が響いていました。つま先に穴が開いてしまうほどに地面をこする走り方。これこそが本郷選手の真骨頂なのです。
去年1月、中京テレビ「キャッチ!」が初めて取材をした時、自分の走り方を「地面を力強く蹴る走り方ではなく、足をするような“転がす”イメージ」と説明していました。地面を蹴り上げるのではなく、転がすように走る。それが試行錯誤の末たどり着いた、9秒台への秘策です。
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本郷選手は自分自身と向き合いながら競技をしたいと、大学院時代からあえて指導者をつけず、自分で考えて練習しています。そして、学業と両立して競技を行うことにもこだわってきました。
そのこだわりは現在でも変わりません。去年から地元の電気施工会社「オノテック」に就職し、総務の仕事や採用業務を担当しています。陸上部などはなく、アスリートは1人だけ。競技活動を応援してくれるアットホームな会社で、日中しっかり仕事をし、夕方から名古屋大学で練習をする生活を送っています。
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本郷選手が陸上だけに集中しない理由。それは、母・正恵(まさえ)さんの「陸上だけではダメ」という教えが大きく関係していました。
陸上100メートル 本郷汰樹選手:
「いろんな事を知ることで、学んだり知ったり関わっていくことで、より深い人間になる。“いい人間になりたい”というポリシーがあるので。それは親の影響かもしれないですね」
そんな本郷選手、今年は9秒台突破への自信をつけていました。
海外での武者修行で見えたものとは…?
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大会のない冬場にオーストラリアやニュージーランドへ飛び、ひとり、武者修行をしていた本郷選手。飛行機・宿・練習場所を自分で確保し、サポート無しで現地の大会にも出場。海外経験を増やして、見えたものがありました。
陸上100メートル 本郷汰樹選手:
「初戦(ニュージーランド)10秒22で走って、手応えが結構あったので、あのレースの感じでキレを上げていけば、もっといいタイムが出せる。9秒台も見えなくない」
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本郷選手は6月2日に鳥取で行われた「布勢スプリント」にエントリーしました。これが日本選手権前、最後の大会です。
鳥取入りした本郷選手の元へ行ってみると、翌日の試合に向け、ホテルで1人準備をしていました。緊張で張り詰めているのかと思いきや「直前でスイッチ入れる方が好き」といい、思いのほかリラックスした様子です。
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この日の2日前、サニブラウン・ハキーム選手がノルウェーの大会(ダイヤモンドリーグ・オスロ大会)で9秒台を出し、いち早くパリオリンピック内定を決めました。そのニュースについて触れると、本郷選手は知らなかったようで、早速ニュースをチェック。
陸上100メートル 本郷汰樹選手:
「2着だったんだ、すごいじゃん! (サニブラウン選手を)意識してないと言われるとうそになる。同級生だし誕生日も近いし、同じガーナのハーフ。意識しないわけがない。やっと同じ舞台に立てるチャンスがあるから、立ちたいなと思います。ここで立てなかったら、また架空の存在になっちゃう。同等の存在でいたい」
本郷選手がパリオリンピックに出場するためには『6月末までに10秒00の派遣標準記録を切ること』『日本選手権で最低でも2位以内に入ること』この両方を達成しなければなりません。
「布勢スプリント」で9秒台を出すことができれば、パリへの大きな一歩となります。
選考会前に派遣記録突破へ! 強力ライバルたちと大勝負
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大会当日は試合直前までザーザー降りの雨。足もとのコンディションが決して良いとは言えない状況になりました。本郷選手は、よくアドバイスをもらっているコーチや、愛知から駆けつけてくれたトレーナーとも話し合いながら、入念にアップを行います。
決勝は、去年の日本選手権チャンピオン・坂井隆一郎選手や、自己ベスト9秒台の桐生祥秀選手など、日本トップレベルの選手が出場します。ここで9秒台が出れば、パリオリンピック出場条件を一つクリアすることができます。
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9レーンからスタートした本郷選手ですが、後半伸ばしきれず、タイムは10秒18(追い風参考・6位)。9秒台には届きませんでした。声を掛けると「…まだまだっすね。何やってんだよ自分って感じ。もっとやれるだろって」と悔しさを滲ませました。
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しかし、地元・名古屋に戻り、動画で自分のレースを振り返った本郷選手は、すでに次のレースで、9秒台で走る自分の姿を思い描いているようでした。
陸上100メートル 本郷汰樹選手:
「(布勢スプリントでは)やりたいことの5割くらいしかできてない。逆に言えば5割で戦えている。10割できたらどうなるのと、自分で期待しているのがそこです。やりたいことがやれたら勝てないわけがない」
オリンピック内定が決まる運命の日本選手権、男子100mは6月29日に予選・準決、30日に決勝が行われます。本郷選手がオリンピックに出場するためには、日本選手権で9秒台を出すことが絶対条件。全力で応援しましょう!