ファミリーマートが、デザイナーの落合宏理さんの監修で取り組んでいる「いい素材、いい技術、いいデザイン。」をコンセプトとしたオリジナルブランド「コンビニエンスウェア」に、文房具の分野でコクヨとコラボレーションした製品を発売しました。 「コンビニで衣料品を買う文化を作ることを目的に始まったブランドが、コンビニエンスウェアで、デザイナーの落合宏理さんと一緒に続けて2024年で4年目になりました。 おかげさまで好評をいただいており、次の商品に広げていこうとなったときに、身近に感じて、機能とデザインもしっかりしていて、ファッション性もある文具はどうかという案が出てきました」 と、企画の始まりを解説してくださったのは、ファミリーマート 商品本部の永松秀一さん。 いわゆる「町の文具屋さん」が減っている今、デザイン性や機能性に優れた文具を買おうとすると、電車に乗って大きな文具店に出かけていかなければならないということも増えています。 そんな中、こだわりの文具を身近にあるファミリーマートで買える、そういった提案をしたいというのがスタートだったそうです。 文具メーカーはそれぞれに得意ジャンルが分かれていて、ひとつのメーカーでトータルに文具の開発を行っている会社となると、いくつかに絞られます。 その中で、コクヨは文具を幅広く扱っているだけではなく、品川オフィスの1階でカフェをやっていたり、文具だけでなくインテリアなども扱っていたりと、ライフスタイルを提案していこうという姿勢を感じたのだといいます。 「私たちとしても、ありがたい話でした。文具をトータルで提案するというのは、コクヨが強みとしている部分でもあります。 そこを世の中に発信していけるのは当社にもメリットがありますし、良い文具、かわいい文具が身近に買える場所が増えるというのは、文具業界としてもいいことだと、そういう点でも共鳴しました」 と、今回のプロジェクトのコクヨ側の開発担当となったコクヨ グローバルステーショナリー事業本部の矢野智子さん。
コンビニの文具に新しい便利と遊び心を
ただ、ファミリーマートでは従来から文具も売っています。それこそ、ボールペンのインクが切れた、シャープペンの芯がない、ハサミが必要になった、接着テープを買わないと、といったときに、コンビニは心強い存在です。 「まずは、ファミリーマートの“コンビニ”としての需要があります。インクが切れた、シャープペンの芯がなくなった、といった緊急時の需要ですね。 その実績のある商品群と、コクヨさんが持っている“何が市場として売れているか”という膨大なデータが合わさると、チャレンジするかいのあるマーケットを作ることができるのではないかと考えました」とファミリーマートの永松さん。
コンビニなので当然、棚のスペースは限られています。ただ、コンビニとしてどうしてもそろえておく必要のある文房具というのもあります。例えば、ハサミやカッターナイフ、のり、ノートなどは外せません。 そして、従来のコンビニには置かれていなかったけれど、今回、新しくラインアップに入れた文具もあります。 「ハサミを買いに来られたお客様には、このコンビニエンスウェアのハサミを買ってくださいということになります。ファミリーマートではハサミは、自信のあるこの商品を買ってくださいというところなんです。 普通のハサミとスライド式の携帯用ハサミの2種類を用意しています。このスライド式ハサミも、文具好きには見慣れたアイテムですが、コンビニのお客様にはすごく斬新なアイテムに映るんです。 実際、『買ってみたら便利だった』という声をたくさん聞いていて、いい提案だったなと思います」とファミリーマートの永松さん。
コクヨの従来品をベースにしながら、ファミマでしか買えない新しさをプラス
今回の製品は、基本的にはコクヨの従来品がベースになっています。ところが、よく見ると少しデザインなどに変更が加えられています。 例えば、ホッチキスやスライド式ハサミなども、エッジの部分に少し面取りのような具合で角度が付けてあります。
「今回のアイテムに入っているシャープペンシルは、ベースはコクヨさんの『鉛筆シャープ』なんです。この鉛筆の形は小学校時代に使ったことのある形ではないでしょうか。 この形に、懐かしさも新しさもあると考えて、鉛筆のようなエッジを共通のデザインとして全てのアイテムに取り入れています。それが落合さんのデザインポイントのひとつでもあるんです」と永松さん。
アイテムの選定は、ファミリーマートとコクヨの間で何度もやり取りを重ねながら決めていったと言います。 「イメージを落合さんから伺って、それを元にコクヨでたたき台を作りながら、キャッチボールをして合わせていくような感じでした。 週に1回以上、およそ10カ月間、コクヨのオフィスに落合さんがいらして、こんな風にしたい、あんな風にしたいとお話しされるのを聞いて、コクヨで試作品を作るという感じでしたね」とコクヨの矢野さん。 打ち合わせの次週には試作品ができ上がっている、そのスピード感に落合さんも永松さんもビックリしたそうです。 「今回は、最初から“かなりの量を作る製品”として開発する必要がありましたし、細かいデザインが要求されるので、コクヨとしても全く新しい取り組みとして、体制も新しくしました。 弊社は、モノによって開発担当者も異なるため、さまざまな担当者を横断して開発するというのは本当に新しいチャレンジでした」と矢野さん。
1日の空の色の変化に注目した「マーカーセット」
そうしてでき上がったアイテムでまず注目したいのは、限定の「マーカーセット 空と時間(5色入り)」(990円)でしょう。 このセット、今回のプロジェクトのために考案された色をセットにしたもので、単体では売っていない色なのです。 「空と時間の色」をイメージしたという、「夜明けの黄」、「晴天の青」、「夕焼けの橙」、「夕暮れの紫」、「夜空の紺」の5色セット。ソフトカラーのインクを使った細い文字書きとラインマーカーの2WAYタイプ。 「このマーカーセットのような、遊び心のあるエモーショナルなアイテムは、コンビニにはなかなか置きづらいんです。ただ、こういう商品を定番品の中にちりばめているというのが、ファミリーマートらしい品ぞろえかなと思っています。 一般的に、コンビニにマーカーは1本100円のピンク色と黄色のものしかありません。もちろんそれが売れるからなのですが、今回のマーカーセットが実際売れているんです。 そういう需要があるということは、従来の品揃えだったら気が付かなかったと思います」と永松さん。 実際、オリジナルカラーのマーカーセットは、かなり大きな文具店に行かないと売っていません。限定品とはいえ、それがコンビニで手に入るというのはかなり画期的なことです。 しかも、落合さんが実際に撮影した空の色を参考に、コクヨがこの製品のために作った色なのです。それはいわば、コクヨのマーカーペンの新製品と言っていいのかもしれません。 「SNSなどで、名付け方がいいという反響もありました。こうした色の名前なども社内だと気が付きにくい部分なんです」と永松さん。 「実際に使っている人の方が気が付きやすい部分なのかもしれません」と矢野さん。
コクヨらしさとファミマの思いをつなぐ新デザインの『キャンパスノート』
コクヨの人気商品、キャンパスノートはコンビニエンスウェアでも「キャンパスノート」として販売されています。ただ、これも今回のために作られた新しいデザインになっています。 中紙などの「キャンパスノート」としてのアイデンティティーはそのままに、例えば、ロゴが下ではなく上方に付いています。 これは、売り場で表紙を正面に向けて陳列したときに、下の部分が隠れてキャンパスのロゴが見えなくなってしまうことを避けるため。 「キャンパスノートは、ある意味、『普段使いの道具』の象徴だと考えました。文具売り場にキャンパスノートがあるという安心感は絶対にあると思ったんです。 なので表紙が横にずらっと並ぶように置いて、しかもキャンパスのロゴもしっかりと見せたくて。表紙や裏表紙は大幅なデザイン変更をお願いしたのですが、快く引き受けてくださいました」と永松さん。
そのキャンパスノートは、実は、今回かなりのバリエーションがコンビニエンスウェア文具として販売されています。ロゴ自体も形は同じなのですが、 そこに遊び心でファミマカラーを入れたりと、おなじみのデザインだけど少し違うという楽しさがあります。 また、使い方に合わせてどちらからでも使えるように裏表紙にもロゴが入っているのがコンビニエンスウェア文具のキャンパスノートの特徴です。 その他、開いてパソコンの手前のスペースに置ける、リングタイプで横長のキャンパスノートもラインアップされています。 「コンビニでは綴じノートは、B5サイズが定番なんです。でも今回は、サイズも豊富にそろえた上に、罫線もA罫とB罫の両方を用意しました。 学生さんは、用途に応じてサイズや罫線を使い分けているので、そういう部分もしっかり充実させました。 また、キャンパスノートは親御さんも使っていたノートですから、世代を超えて会話を弾ませることもできるのではと考えました。それが一番できるのがキャンパスノートだと思います」と永松さん。
他にも、全てのアイテムにこっそりとテーマカラーに定めたブルーが入っていたり、消しゴムはファミマカラーの緑、白、青3色に合わせて3個入りにしたり、パッケージは紙や一部にバイオマスプラスチックを使用したりと、定番品でありつつ、ファミリーマートならではのサステナビリティーの姿勢や、コクヨならではの使いやすさが詰め込まれています。 コンビニでは珍しい、針なしホッチキスがあるのも、サステナブルの取り組みの一環です。 まるで、文具専門店が身近にやってきたようなラインアップは、コンビニで文具を選ぶ楽しさも味わえるようになったということですね。
納富 廉邦プロフィール
文房具やガジェット、革小物など小物系を中心に、さまざまな取材・執筆をこなす。『日経トレンディ』『夕刊フジ』『ITmedia NEWS』などで連載中。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方、選び方を伝える。All About 男のこだわりグッズガイド。 (文:納富 廉邦(ライター))