【社説】自衛隊70年 変容と拡大、今こそ検証を

 陸・海・空の自衛隊の創設から7月1日で70年になる。

 その任務は多様化しつつ拡大し、阪神大震災をはじめとする災害派遣を通じて国民の信頼を高めてきた。緊迫化する世界情勢と岸田政権が打ち出した「5年間で43兆円」という防衛費の大幅増はさらなる変容をもたらすだろう。

 多国間の安全保障協力も加速するが、憲法9条に基づく平和国家の防衛力のありようは海外の軍隊とは異なる。ここで立ち止まり、今の時代に自衛隊が果たすべき役割を開かれた議論で検証すべきだ。

 この70年を振り返ると自衛隊の変容を象徴するのが海外派遣だろう。1991年の海自掃海艇のペルシャ湾派遣、続く国連平和維持活動(PKO)としてのカンボジアへの陸自派遣は国民の強い反対論を押し切って行われた。

 発足を前に自衛隊法などを審議した参院は海外出動は行わないと決議していたが、うやむやになった。海外派遣が常態化する転機となったばかりか、重大な任務見直しなのに、なし崩し的に既成事実化していく歴代政権の手法の先例になったとも言えよう。

 むろん時代のニーズに応じて組織や装備を一定に変えることは必要だ。だが2014年の集団的自衛権行使容認、15年の安全保障関連法、そして22年の安保関連3文書と、立て続けに打ち出された防衛政策の大転換を踏まえた現場の急速な変化と肥大化には、危惧も抱かざるを得ない。

 日本の国是である専守防衛を逸脱しかねない正面装備も含まれるからだ。「いずも」型護衛艦の事実上の空母への改修であり、「反撃能力」と称する敵基地攻撃能力の保持である。その主力のスタンド・オフ・ミサイルは中国をにらんで南西諸島に増強する部隊に配備される。それ自体が緊張を招く可能性が高い。

 陸海空を一元指揮する統合作戦司令部も近く新設され、空自は宇宙領域の防衛をにらんで「航空宇宙自衛隊」に改称する計画だ。その流れの中で日米両政府は自衛隊と米軍の指揮統制の統合強化を議論している。これまで以上に米軍事戦略と一体化するなら専守防衛など形骸化しよう。

 艦船の後方支援の役割を担ってきた海自の呉基地の役割がさらに重くなるのは間違いない。南西地域への部隊移動も担う陸自・海自の共同部隊の司令部が新設される。また日本製鉄の製鉄所跡地には、何らかの部隊の活動基盤や弾薬庫も含む複合防衛拠点とする構想が防衛省にはある。

 ただ自衛隊全体を見渡せば任務の拡大にマンパワー確保や訓練が追い付かない現状もあるようだ。定員の充足率は92%余りで、募集難は深刻と聞く。日本全体が人手不足とはいえ若い世代に敬遠されているとすれば、今後の自衛隊の行方が読みにくいことも背景にあるのではないか。

 防衛省は基地開放などには力を入れる半面、自衛隊に関するさまざまな情報を開示する姿勢は後退した、との指摘がある。国民の理解を深めたいのなら「開かれた自衛隊」を徹底し、反対意見や不安の声にも耳を傾けてほしい。

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