意外と身近なAR/VR ゲームだけじゃない、AWE 2024で見た日常を豊かにする技術4選

筆者の知人のほとんどは、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)、複合現実(MR)、あるいはそうした没入型技術を包括する用語であるエクステンデッドリアリティー(またはクロスリアリティー:XR)のことを意識していない。

用語のせいで敬遠しているというわけではなく、XRが自分たちの世界にどう関係するのかを、よく知らないのだ。

筆者はテクノロジー畑の人間で、たまたまXRについても執筆しているので、ソフトウェア開発者や広報担当者と付き合う日々の中、自分では現在進行形でその影響を感じている。だが、それはあくまでも自分の限られた感覚だ。家族や友人にとってXRはいまだに、高価なヘッドセットとバーチャルゲームというイメージの付いた、遠くの現実としか受け取られていない。

しかし、カリフォルニア州ロングビーチで開かれた「Augmented World Expo」(AWE)でも分かるように、XRはそれよりずっと大きな存在だ。まだXRに関心がないという方のために、筆者が2024年のAWEで出会った、XRを見直したくなるような展示をいくつか紹介しよう。

XRはゲームだけではなく、生産性向上に役立つ

XRが息苦しく感じられるという考えは、その選択肢がほぼ重たいヘッドセットしかないからだろう。確かに、そうしたヘッドセットを何時間もずっと装着しているのは快適とは言いがたい。

SightfulのARノートPC「Spacetop」は、ゲーミングや動画再生ではなく、仕事と生産性を最優先して開発された。そのため、装着するのは、重くて煩わしいヘッドセットではなく、Ray-Banのサングラスに似た、しゃれたARグラスだ。ディスプレイを廃したノートPCのキーボードにそれを接続して使う。

SpacetopのARグラスを装着すると、100インチ相当の仮想キャンバスが出現する。そのキャンバスいっぱいにさまざまなウィンドウを並べることができ、それがすべて目の前の現実世界に重なって表示される。ウェブブラウザーでできることならほぼ何でもできるうえに、プライバシーも守られ、しかも従来のノートPCよりはるかに広い画面を使いこなせる。本体をどこに持っていっても、たくさんの画面を開いて仕事ができると想像すれば、Spacetopの魅力が分かってくるだろう。

最大サイズのノートPCでも、これほど多くのウィンドウを同時に開くことはできない。ARといっても、遠くの惑星を訪れたり、ゾンビを退治したりするだけではないのだ。今までより没入できる環境でメールをチェックしたり、業務メッセージを送ったり、プレゼン資料を作成したりできる。飛行機の中でも、ソファでリラックスしているときでもだ。

XRが美術館でより没入的な体験を生み出す

XRは、目で見るものを置き換えるだけではない。目で見えるものを拡張もする。

一部の美術館や博物館に行くと、魅力的な音声ガイドが用意されていて、鑑賞の楽しみを広げてくれることがある。ヘッドホンを着けておくと、会場で見ている展示について、より詳細な関連情報をその場で聞くことができる。では、これが音声に限らず、もっと没入感につながる視覚的な体験になったらどうだろうか。

AWEで筆者は、軽量なARグラス「Magic Leap 2」をかけて、美術作品が並ぶ即席の展示スペースを歩くという経験をした。現実世界のものはすべてはっきり見えているが、Magic Leap 2をかけたまま特定のオブジェクトに近づくと、突然、関連情報が仮想空間に出現する。一部のオブジェクトは操作することもでき、ボタンを押すと詳しい情報が表示されたり、他のオブジェクトを表示したりできた。

XRを使った展示はすでに存在するが、より多くの美術館・博物館やギャラリーでこうしたテクノロジーの採用が広がれば、訪れた人にいっそう豊かで没入感のある体験を届けられそうだ。

XRが創造性を発揮する場に

Appleの「Vision Pro」は、生産性を前提に開発されたが、クリエイティビティーのためのツールという面も打ち出されている。顔面にヘッドセットを着けたまま創造性を発揮するといったら、厄介に感じられるかもしれないが、VRでものを書いたり絵を描いたりするときに、こうしたヘッドセットが使われ始めている。仕事やゲームだけの世界ではないのだ。

Logitechの新しいスタイラス「MX Ink」は、「Meta Quest」向けに作られた、仮想空間での創作に役立つスマートな物理ペンであり、Meta Questでできる制作の幅を広げてくれる。もちろん、Meta Questの標準コントローラーを使っても、ある程度はスタイラスの機能を代用できるのだが、MX Inkの方が精度は高く、それは制作において重要な要素だ。

ヘッドセットに付属する標準のVRコントローラーでも、ぎこちない手つきで創作はできる。しかし、MX Inkなら、VRやARで線画やスケッチ、彩色する際に、細かいコントロールが可能になる。タブレット上で指を使って何かを描く方がマウスを使うより直感的でやさしいように、ペンはより高い精度と最新の機能で創作者にさらに大きな可能性をもたらす。

XRでホームデバイスの操作も便利に

ハンドジェスチャーは、外界とのコミュニケーションにおいて驚くほど優れた基本的手段である。人を手招きすることもできるし、車を走らせているとき腹が立つことがあればハンドジェスチャーで表現できる。特に、言葉で伝わらないときには便利だ。ARの世界では、そこに映し出されたものを扱うとき、例えば、宙に浮いているウィンドウを動かしたり、動画を再生したりというときに、ハンドジェスチャーがシームレスで直感的な手段になる。だが、身の回りのものを操作する方法はいつでもあり、それが仮想のものとは限らない。

Doublepointはタッチインターフェースを専門に扱う会社で、同社の「WowMouse」アプリを使うと、「Wear OS」対応のスマートウォッチとシンプルなハンドジェスチャーで、自宅のあちこちにあるデバイスを操作することができる。スワイプするように手を動かして、テレビで再生中の「Spotify」で曲をスキップしたり、手首をひねってランプのスマート電球を暗くしたりできるのだ。Bluetooth経由で、スマートウォッチをほぼどんなスマートデバイスにも接続でき、それを操作できるようになる。

これがXRの概念に収まるかどうかは議論の余地があるものの、同じようなハンドジェスチャーが「visionOS」や「Meta Horizon OS」の仮想空間での操作に使われている。そして、仮想ディスプレイがなくてもそのハンドジェスチャーを使えるということは、余計なハードウェアに大金をつぎ込むことなく、家庭にXR空間を取り入れる素晴らしいきっかけとなる。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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