『GEMNIBUS vol.1:ゴジラVSメガロ』上西琢也監督 自宅の布団の上でモーションキャプチャ【Director’s Interview Vol.417】

東宝が新たに手掛ける才能支援プロジェクト「GEMSTONE Creative Label」。本レーベル初の劇場公開作品として、4人の新進気鋭の監督たちによって創り出された短編オムニバス映画『GEMNIBUS vol.1』が、6月28日より公開される。その中の1本が本作『ゴジラVSメガロ』だ。

全世界1,070万回再生を超える『ゴジラVSガイガンレクス』待望の続編として昨年YouTubeで公開され、早くも470万回再生を超えたショートフィルム『ゴジラVSメガロ』。現代に蘇った守護神メガロが、〈シネマティック・バージョン〉としてより精緻かつ迫真の映像、そして5.1ch音響となってスクリーンに登場する。

ゴジラ-1.0』(23)でアカデミー賞視覚効果賞を受賞した白組に所属する上西琢也氏は、『シン・ゴジラ』(16)、『シン・ウルトラマン』(22)等を手がけ、『ゴジラ-1.0』にも関わってきたCGディレクター。監督として手がけた『ゴジラVSメガロ』は、如何にして作り上げたのか。上西監督に話を伺った。

起きている間はずっと作品を作っていた


Q:このプロジェクトにはどのような経緯で参加されたのでしょうか。

上西:「ゴジラ・フェス」でメガロ生誕50周年に向けて作品を作っていこうというのが最初にあり、その後GEMSTONEの企画に合流した感じです。

Q:白組に所属されていて、CGディレクターをされているそうですが、ご自身で監督をしたいと、社内で手を挙げた感じだったのでしょうか。

上西:今回は完全に個人活動の流れだったので、逆に白組に仕事を持って来た形になります。将来的に自分で何かを作りたいと思いCG業界の門を叩いたので、今まさにそのタイミングが来たのかなと。

Q:白組の仕事と自主制作の両立はいかがでしたか。

上西:それはもう大変でしたね(笑)。とにかく時間が無くて、起きている間はずっと作品を作っているような生活でした。ただこれまでも、ライフワークとしてプライベートで怪獣を作り続けていたので、それがそのままゴジラになった感じでした。

Q:白組のスタッフとはどのような作業分担をされたのでしょうか。

上西:前作の『ゴジラVSガイガンレクス』は、ほぼ一人で作ったのですが、今回は実写合成のパートや、ゴジラとメガロが戦っている周りの背景はスタッフにお願いしました。そのおかげで自分は怪獣バトルに専念させてもらえました。

Q:今回は、実写合成の部分とフルCGの部分はどれぐらいの比率なのでしょうか。

上西:前半は実写合成シーンがメインで、後半はフルCGがメインになっています。比率で言うと、CGパートが6割で残り4割が実写含めた合成部分ですね。

自宅の布団の上でモーションキャプチャ


Q:『シン・ゴジラ』(16)も担当されていたそうですが、ゴジラの造形はメインでやられていたのでしょうか。

上西:そうですね。CGのゴジラ3形態分を担当していました。第3形態は手伝ってもらいましたが、第2形態と第4形態は自分の手で仕上げています。

Q:今回のゴジラのデザインは、ベースにした時代などあったのでしょうか。

上西:自分は『ゴジラ』(84)から『ゴジラVSデストロイア』(95)までの世代なので、そのゴジラをベースに、『シン・ゴジラ』のディテールも入れつつ、歴代のゴジラを参考にしてバランスを整えました。

初代ゴジラは原爆のキノコ雲からデザインされていてデザイン画も残っている。そういう爆発煙のディテールを入れることで、ゴジラのキャラクター性が出来てくるんです。それで今回は、まずCGで爆発を作り、その爆発のもくもくした煙をCG上で物体として固め、その固めた形状を顔や体に貼り付けていきました。だから、煙を体に貼り付けて作った感じがありますね。

『GEMNIBUS vol.1』Ⓒ2024 TOHO CO., LTD.

Q:レジェンダリー版ゴジラにはどんな印象がありますか。

上西:あれはあれで楽しく観させてもらっていますが、CG技術者的にはパッと画を見るだけでその裏にある膨大なお金が一瞬で分かっちゃう。それを享受できるのはすごく良いですけどね(笑)。

Q:メガロは着ぐるみ感がありましたが、あえて意図されたのでしょうか。

上西:メガロとゴジラの動きは自分でモーションキャプチャーでやっています。「フルトラッキング」という、バーチャルVチューバーの方たちがよく使っているVRの機材があるんです。それを使って、スタジオなどではなく、自分の家の布団の上でやりました(笑)。

プレビズを作って臨んだ実写撮影


Q:電車越しに見るシーンが臨場感があって素晴らしかったです。あのシーンは実写を撮った上で合成されたのでしょうか。

上西:そうですね。いろんな電車に乗って都内をぐるぐる回って撮りました(笑)。“生活空間越しの怪獣”というのをやりたいんです。今回は規模的に断念しましたが、もっと大きな作品で怪獣をやるなら、室内越しや屋上越しの視点を作りたいですね。

Q:戦車が来るシーンは渋谷と恵比寿の間ですよね。あれは風景だけを撮られたのでしょうか。

上西:まさにその場所です。現場では人止めをしてもらい、電車がいい具合に通るときを見計らって撮らせてもらいました。カメラを動かして撮っていますが、後でCGで合わせられるように「こういうルートで、こう撮ってください」と細かくお願いして撮っていただきました。

Q:実写部分の撮影はいかがでしたか。

上西:自分の監督作で実写を撮るは初めてだったので、事前にCG上でプレビズを作っておきました。人と建物の配置をする場合の距離など、事前に全て調べて撮影に臨んだので、撮影現場で迷うことはありませんでした。なるべく現場で困らないように、やれる準備は全てやっておきました。

Q:自衛隊の部隊が一斉射撃をするシーンがありますが、あれは実写でしょうか。CG上で人を動かすのと、実際の人に指示をするのでは勝手が違いそうですね。

上西:あれは実写ですね。人の体の動きってそれぞれ癖があるので、指示が難しかったです。あのシーンも頑張れば全部CGでいけたのですが、自分に無い引き出しはまさに人の動きだと思うので、あえて実写でトライして良かったと思います。

『GEMNIBUS vol.1』Ⓒ2024 TOHO CO., LTD.

Q:バトルシーンのアクション演出はどのようにされたのでしょうか。

上西:怪獣好きな人って、脳内で怪獣を戦わせるじゃないですか(笑)。そこの精度をひたすら上げていって、頭の中でバトルを構築させた段階で一旦CG上で再現するんです。その後、どこにカメラを置いたら映えるかをCG上で検証していく感じです。怪獣が組んず解れつしているラフを作って、それに対してカメラをたくさん置いて、その素材を全部並べて編集していく。だから、コンテ通りにやっていく感じではなかったですね。

Q:実写と違ってカメラアングルが無限なので、決め打ちが難しそうですね。

上西:やっていると「これいいな!」っていうアングルは大体決まってくるんです。意外と絞れますよ。

庵野監督から学んだもの


Q:CGディレクターとして他の監督と一緒にゴジラを作ることと、ご自身で監督して作るときでは違いはありましたか。

上西:『シン・ゴジラ』で庵野秀明監督と一緒にやらせてもらい、いろんな影響を受けました。NHKのドキュメンタリー番組等でやっている通り、庵野さんのスタイルは大変なのですが(笑)、本当に良いものを作りたいんだという気持ちや、それを模索する姿勢を学ばせていただきました。一緒に作業して大変だったところは改善しつつ、良いものを作っていきたいという姿勢はそのまま受け継げればいいなと。そう思いながら作業をしていました。

Q:構図なども影響を受けているように感じました。

上西:かなり影響していますね(笑)。

Q:ゴジラは国内外でいろんなシリーズが作られてきたこともあり、ゴジラの見せ方も多岐に渡ると思うのですが、『シン・ゴジラ』の影響はかなり強いのかなと思いました。

上西:『シン・ゴジラ』の影響もあるのですが、『シン・ウルトラマン』もやらせていただきまして、そのときに庵野さんから「ウルトラマンの、この話とこの話はピカイチだから絶対に観とけ!」みたいなリストをもらったんです。それを観るとやっぱりメチャクチャ良いんですよね。庵野さんが良いと思って映画に落とし込もうとしている元々の作品に触れることが出来て、そこで学んだものは大きかった。それは自分の作品にも反映できたらと思っていました。また、他社さんの作品ですが『 ガメラ』シリーズの雰囲気も好きなので、良いところは色々と参考にさせてもらっています。

Q:日本のCGクオリティは『シン・ゴジラ』で突然上がったように見えたのですが、実際の現場はどうだったのでしょうか。

上西:白組で言うと、ゲームのムービーやCMやMVなどを日々作っていて、特にゲームのムービーは作り込みが多い。そこで培った技術とゴジラというコンテンツが合わさって、『シン・ゴジラ』が出来たという感じでした。だから技術的に突然レベルがあがったということではありません。

Q:『シン・ゴジラ』も『ゴジラ-1.0』も、もはやCGなのか実写なのか素人には見分けがつきません。

上西:僕らでも分からないときの方が多いですね(笑)。『ゴジラ-1.0』などもそうですが、ゴジラ自身や、出てくる兵器、破壊された街などはCGだと分かりますが、役者さんが演じているセットの続きの部分まではなかなか気づかない。全部はセットで作れないので、途中からCGになっていることが多いんです。気づかないのはVFX冥利に尽きますね。上手くいけばいくほど気付かないですから。

Q:『ゴジラ-1.0』のアカデミー賞視覚効果賞受賞はどんな思いがありましたか。

上西:ニュースを見てビックリしましたね。調布のスタジオのスタッフは「今か、今か、」と発表を待っていて、皆で大騒ぎをしていたみたいです。

Q:今後はどのようなキャリアを想定されていますか。

上西:それはもう、長編怪獣映画が撮れたらいいなと思っています。

監督/脚本/VFX:上西琢也

1987年生まれ。2013年株式会社白組入社。CGディレクター。映画『シン・ウルトラマン』ではキャラモデルスーパーバイザー・CGディレクター、『シン・ゴジラ』ではゴジラモデリング・コンポジットを務める。『寄生獣 完結編』『ゴジラ-1.0』他ゲームやMVにも多数参加。『ゴジラVSメガロ』と同じく脚本・監督・VFXを務めたシリーズ前作『ゴジラVSガイガンレクス』は、YouTube再生回数1000万回を突破している。

取材・文:香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。

撮影:青木一成

『GEMNIBUS vol.1』

6月28日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷、TOHOシネマズ 梅田にて2週間限定公開

配給:TOHO NEXT

Ⓒ2024 TOHO CO., LTD.

© 太陽企画株式会社