自らゴジラを熱演『ゴジラVSメガロ』上西監督が込めたアツすぎるVSシリーズ愛

映像・音響共にパワーアップして上映される『ゴジラVSメガロ』 - (C) 2024 TOHO CO., LTD.

シン・ゴジラ』『ゴジラ-1.0』など多くの作品で活躍している白組のCGディレクター上西琢也の監督作品『ゴジラVSメガロ』が、短編オムニバス映画『GEMNIBUS vol.1』の一篇として6月28日(金)~7月11日(木)までTOHOシネマズ日比谷、TOHOシネマズ梅田で限定公開される。1973年公開の『ゴジラ対メガロ』をモチーフにした本作は、ゴジラとメガロがビル街で激突する怪獣バトルムービー。小学生の頃からゴジラに夢中だったという上西監督に、本作に込めた思いや見どころを聞いた。(神武団四郎)

『ゴジラVSメガロ』はゴジラとガイガンの死闘を描いた『ゴジラVSガイガンレクス』(2022)に続く上西監督のショートムービー第2弾。「ゴジラ・フェス 2023」で上映され、ダイナミックな映像で絶賛された痛快作だ。上西監督は白組のCGクリエーターとして活躍する傍ら、独力で自主制作ショートムービー『Gvs.G』(2019)を制作。才能発掘オーディション・プロジェクトGEMSTONEで入賞を果たした。「賞のひとつが、東宝さんとの新規企画開発でした。話し合いの中で、拡張版として『ゴジラVSガイガンレクス』を作ることになったんです」。『ゴジラVSガイガンレクス』はYoutubeにアップされると全世界で再生数1,080万回を突破する大ヒット。メガロ50周年に合わせた2023年、よりパワーアップした『ゴジラVSメガロ』が制作されYouTubeで470万回再生を記録、今回劇場公開に合わせ「シネマティック・バージョン」として映像・音響共にパワーアップした。

そんな上西監督がゴジラ作品に携わることになった原点を尋ねると、「樋口真嗣監督の『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』(2015)に参加中に、『シン・ゴジラ』(2019)の製作が決まったんです。何とか参加できないかと樋口監督に直訴するためゴジラのデモ映像を自主制作しました」と上西監督。「ところが完成させた時には、すでに白組がVFXで関わることが決まっていたという(笑)。意気込みを見てもらえたので、少しは役に立ったかなと思います」

上西琢也監督

1987年生まれの上西監督がゴジラと出会ったのは物心がつく前だった。「最初は3歳くらいの頃で、父親が買ってくれたソフビのゴジラにすごく反応したらしいです(笑)。意識したのは小学生の時で、ちょうどVSシリーズ(平成ゴジラ)が毎年公開されていた直撃世代なんですよ」と上西監督。出てきたら必ず勝つ、圧倒的な強さこそゴジラの魅力だと力説する。『GODZILLA ゴジラ』(2014)以降のハリウッド版もお気に入り。「2014年のゴジラが咆哮する姿がすごく好きで、何回も劇場に足を運びました『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019)から背びれが初代ゴジラに似た形に変更され、そこもお気に入りです」

当然のように上西ゴジラはVSシリーズの流れを汲んでいる。「ゴジラでいちばんこだわったのは顔つきですね。大好きな『ゴジラVSビオランテ』(1989)と『ゴジラVSキングギドラ』(1991)のデザインのいいとこ取りをしようと頑張りました」。造形だけでなく動きにもこだわりは反映された。「ゴジラの手の向きと動きは、VSシリーズでスーツアクターをされていた薩摩剣八郎さんの演技を踏襲しました。手のひらは前を向き、つねに前に出ていく“ゴジラ拳法”といわれる動きです」。いっぽう戦い方でこだわったのは原典『ゴジラ対メガロ』だった。「当時はプロレス人気が高かったそうなので、怪獣バトルにプロレス技がたくさん使われています。メガロをやるなら入れないとダメだろうと、ゴジラにドロップキックをさせました(笑)」

こだわりのゴジラの顔(C) 2024 TOHO CO., LTD.

アクション満載の本作だが、ゴジラとメガロにはモーションキャプチャが使われた。「前作の『ゴジラVSガイガンレクス』もそうでしたが、バーチャル・ユーチューバーが使っているVR機器を使ったシンプルなモーキャプを導入しました」と説明する上西監督は、自らゴジラとメガロを熱演した。「1人2役なので、ひとりで殴って殴られる感じ(笑)。自分で動いてアクションを付けるので、絵コンテも作らず台本に文字でコンテを切ってすませました」。メガロを前作のガイガンレクスと差別化させるため、何度も動きを試しながらモーキャプに臨んだそうだ。

何気ない日常に突然、怪獣という異物が出現する。その光景は『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』(1999)に代表される平成ガメラシリーズをも彷彿とさせる。「やっぱりガメラも世代ですから。最初は全編を通して人間目線のドキュメンタリー仕立てはどうか、という話もあったんです。最終的にその案は却下しましたが、可能な限りドキュメントタッチにしました」と明かした上西監督は、撮影でもっとも困難だったのがロケだったとふり返る。「街を(CGの)装甲車が走るシーンの撮影など、外ロケは大変でした。ロケ地の許可の申請や人止めなどの交通整理、夏場だったので暑さも堪えました」

『シン・ゴジラ』でゴジラのモデリングとコンポジター(合成の仕上げ)というVFXの要のパートを担当した上西監督。庵野秀明監督や樋口監督との仕事は、それまでの認識を変える出来事だった。「CGの技術屋として、ずっとお手本にしてきたのはハリウッド映画だったんです。でも『シン・ゴジラ』のお仕事の中で感じたのは、向かうべきゴールがハリウッド以外にあってもいいんじゃないかという価値観。すごく勉強になりました」とふり返る。具体的なコンセプトの部分で影響を受けた作品には『シン・ウルトラマン』(2022)をあげた。「ウルトラマンは、庵野監督が見た当時の記憶を美化して映像化している部分があるんです。自分も小学生の時に見たゴジラを昇華させることを心がけました」。この作品ではモデリングのほかCGスーパーバイザーも担当し、アングル決定までの試行錯誤に関われたことも演出面で勉強になったそうだ。

いっぽう『ゴジラ-1.0』ではモデリングで腕をふるった上西監督。同じ白組所属で接する機会もある山崎貴監督からはVFXの仕事術を学んだと語る。「山崎さんはゴジラのラフデザインのほか、大戸島の樹木など自らCG作りもしています。僕の仕事場は山崎さんの調布スタジオではなく三軒茶屋のスタジオですが、何度も一緒にお仕事をする中で効率的なVFX作りを勉強させていただきました」

「シリアスに寄せた路線で戦う硬派なゴジラが見たいですし、そんなゴジラ映画を自分で作れたら嬉しいです」

いよいよ映画館で上映される『ゴジラVSメガロ』。本作のゴジラの表面は、着ぐるみに使われるフォームラバーの質感が再現されている。そんなゴジラのディテールが味わえるのはスクリーンならでは。「意識して着ぐるみっぽさを取り入れました。『シン・ゴジラ』で培った感覚を活かしたかったのと、生物的リアリティを追求したハリウッド版と被っても面白くないという思いもありました」とこだわりを語る。メガロにはまた、別の意匠も込められている。「メガロの目は複眼ですが、VSシリーズの怪獣の要素を入れたくてバトラのような細かい線を入れました。デザイン以外にも、メガロの鳴き声にバトラの音源をミックスしています。そもそもバトラの造形はメガロの流れを汲んでいるので、逆輸入という感じですね(笑)」

本作をもって2本のショートムービーを完成させた上西監督。これから、どんなゴジラ映画に期待するのか。「ハリウッド版もVSでシリーズ化していますが、向こうはエンターテイメントに振り切った作り。もっとシリアスに寄せた路線で戦う硬派なゴジラが見たいですし、そんなゴジラ映画を自分で作れたら嬉しいです」

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