パリ五輪は“文化系”視点でも楽しめる!現地ジャーナリストが教える5つのチェックポイント

パリオリンピックの開幕まであとわずか。7月26日には開会式が行われます。

今回のパリオリンピックでは、開会式で選手団を乗せたボートがセーヌ川を渡る演出や、パリの名所を活かした会場など、華やかな見どころがたくさん。普段はスポーツ観戦をしない人でも、パリオリンピックはちょっと違った視点で楽しめるかもしれません。

パリ在住のジャーナリストである守隨亨延(しゅずいゆきのぶ)さんに、いつものスポーツ観戦とは一味違った、パリオリンピックならではの見どころや楽しみ方を伺いました。

パリの歴史的建造物を活かした会場設定

今回のパリオリンピックで注目したいのは、パリの街中にある歴史的エリアが競技会場になっている点です。ベルサイユ宮殿やエッフェル塔などを舞台にして競技が行われるため、観光名所を鑑賞するといった楽しみ方もできそうです。そうした会場設定にした背景について、見解を伺いました。

「今回のオリンピックは『広い世代に開かれたオリンピック』という目的があります。スタジアムだけでなく、パリ市内にある観光名所を活かして競技を行うことで、あらゆる世代の人々の注目を集めるのが狙いです。
また、過去のオリンピックと同様に『魅力的な都市』ということを世界中に発信する狙いもあります。オリンピックの開催地としてだけではなく、オリンピックを経て都市そのものの魅力を広めたいという思いもあるように感じます」(パリ在住ジャーナリスト・守隨 亨延さん。以下同)

そこで、具体的にどのような歴史的建造物が競技会場になっているのかも、その歴史などとともにご紹介いただきました。

・新競技「ブレイキン」はフランス革命の舞台・コンコルド広場で開催

今回のオリンピックから新競技として採用された「ブレイキン」。この競技は、アメリカ・ニューヨーク発祥のヒップホップ文化から生まれたブレイクダンスを、スポーツとして競技化したものです。若者人気の高い競技を取り入れることで、若者の関心をオリンピックに集める狙いもあるのだとか。オリンピックに新たな風を吹き込むブレイキンは、特に注目したい競技と言ってもよいでしょう。

ブレイキンをはじめ、スケートボード、自転車でアクロバティックな技を繰り出すBMXフリースタイルといった若者に人気のある競技は、パリの観光名所であるコンコルド広場で行われます。コンコルド広場とは、パリにとってどのような場所なのでしょうか?

パリのコンコルド広場。

「ブレイキンなどの競技会場であるコンコルド広場はフランス革命の舞台。革命当時はルイ16世やマリー・アントワネットなど数千人がここに設置されたギロチンで処刑され、大勢の民衆がその様子を見に集まる場所でもありました。
現代では、毎年7月14日の革命記念日に行われる軍事パレードの終着点として、政府要人が参加する重要な式典が催される場所でもあります。普段も人と車の通りがとても多い広場です。ここが競技施設として使われるとは発表前には想像もしませんでした。開かれたオリンピックの象徴となる会場になるでしょう」

・格式高い建造物で行われるクラシカルな競技にも注目

パリといえば、『ベルサイユのばら』に描かれるような貴族文化を思い浮かべる人もいるのではないでしょうか。今回のパリオリンピックでは、フェンシングや馬術など、当時の貴族文化をほうふつとさせるクラシックな競技が、格式高い建築様式とともに楽しめる会場設定になっています。

フランス王族が過ごしていたベルサイユ宮殿も競技会場です。宮殿のグラン・カナル(ベルサイユ宮殿の敷地内にある運河)沿いに配備された仮設アリーナでは、馬術競技や近代五種が行われます。格式高い会場の雰囲気にマッチした競技を、フランスの歴史を感じながら観戦できるのではないでしょうか」

ベルサイユ宮殿の庭園。
競技会場となるグラン・カナルは、広大な宮殿のなかにある。

「さらに、1900年にパリで開催された万国博覧会の会場であるグラン・パレでは、フェンシングなどが開催されます。グラン・パレの特徴でもあるガラス天井をはじめ屋内は、オリンピックを前にして現在改装中です。競技が行われる頃には、さらにきれいな会場がテレビ中継などでも見られるかもしれません」

グラン・パレ。

・ロードレースやマラソンなどで、パリの街並みを堪能できる

パリの魅力は、歴史的建造物ばかりではありません。豊かな歴史の形をそのまま残したパリの街並みも見どころの一つ。パリ市内がそのまま会場となるレース競技では、普段観光ツアーなどでは赴くことのないパリの景色も見ることができそうです。

「ロードレースやマラソン、トライアスロンでは、パリ市内がそのままコースになっており、パリ市内の景観がレース模様とともに楽しめると思います。また、パリ郊外も通過するようなコース設定になっています。パリ市内から郊外に移るときの街並みの変化から、一味違ったフランスの風情を感じられますよ」

上記以外にも、エッフェル塔や凱旋門から伸びるシャンゼリゼ通りの一部を通るなど、パリの名だたる観光地が競技会場やコースなどで活用されています。どのような会場で何の競技が行われているのかを調べておくと、より興味を持ってオリンピックを観戦できそうです。

ショーメやルイ・ヴィトンも参画パリオリンピックを華やかに彩るアイテムにも注目

パリといえばファッションの都。ルイ・ヴィトンを中心に、パリの名だたる高級メゾンを多数有する「モエ ヘネシー・ルイヴィトン(以下LVMH)」は、パリオリンピックとパートナーシップを結んでいます。

「今回のパリオリンピックで選手に授与されるメダルは、パリを代表する高級ジュエラーの“ショーメ”がデザインしています。そして、メダルを収納するためのメダルトランクや、聖火トーチを収納するトーチトランクを手掛けているのは“ルイ・ヴィトン”です。また、フランス代表の選手が着用するユニフォームは、高級シューズやウェアなどを展開する“ベルルッティ”が仕立てています。以上に挙げた高級メゾンを傘下に収めているLVMHは、パリはもちろん、フランスを代表する世界的企業です。こうした企業がパリオリンピックをどのような形で華やかにデザインしているのかも、今までにない視点で注目したいところですね」

ショーメがデザインしたメダルと、それを収納するルイ・ヴィトンのメダルトランク。ルイ・ヴィトンを象徴するモノグラム・キャンバスや、ルイ・ヴィトンのトランクに使用されてきたものと同じ金具などが用いられている。(写真=LOUIS VUITTON)

オリンピック後を見据えたサステナブルな取り組み

前回の東京オリンピックでは、競技会場などで再生可能エネルギーを100%使用する、水素バスや電気自動車のような低公害車を導入するといった環境配慮の取り組みが注目されていました。今回のパリオリンピックにおいても、省資源化や二酸化炭素を含む温室効果ガスの削減など、サステナブルな取り組みも行われています。

「過去のオリンピックでは、会場の新規建築など都市開発の側面が強くありました。しかし、オリンピックのために新たな施設を作ることは、昨今の環境配慮の面で否定的な流れになっています。そのため、今回のオリンピックで使用する設備全体の95%を、既存施設や仮設などを上手に活かし、オリンピック閉幕後の負担とならないような会場設営になっています。
加えて、プラスチックごみ削減の取り組みとして、競技会場における使い捨てプラスチックが使用禁止となる計画も発表されています。これはオリンピック史上初となる取り組みで、マラソン選手が使用する給水カップなどにも、繰り返し使える素材が使用されるようです」

上記のようなオリンピック全体の取り組みに加え、パリ市内の環境問題に対する取り組みも注目したいところ。開会式だけでなく、マラソンスイミングやトライアスロンなどの会場として使われるセーヌ川では、水質改善に向けて、廃棄物の回収や浄水施設の設置などで鋭意尽力しているといいます。

パリ市はセーヌ川の中州から繫栄した都市なので、パリ市民にとってセーヌ川は特別な象徴でもあります。1940年代は遊泳できるくらいきれいな川だったと聞いています。オリンピック後もパリの中で川遊びができるようになれば、パリの魅力にもつながると思います」

また、自動車の排気ガスを抑制する目的で、パリ市内の移動手段に関する取り組みも積極的に行われています。

「パリ市内の道路は入り組んでおり、自動車移動が多くなるとパリ市内が激しく渋滞してしまいます。加えて、渋滞により二酸化炭素を含む排気ガスの排出量の増加が懸念されます。そのためパリ市では、一般参加者や報道関係者などに対して、公共交通機関や自転車の利用を呼び掛けています。
また、パリ市内では自動車の車線を減らして自転車レーンを整備する工事がいたるところで行われています。パリオリンピックを機に、将来的にも交通面から環境問題の解決に取り組もうという狙いがあるようです」

「今回のパリオリンピックは、文化的・社会的にもチャレンジングな取り組みが多いところが特徴です。オリンピックが閉幕した後のパリはもちろん、世界的にもどのような変化が起こっていくのかも見守りたいですね」と守隨さん。

世界情勢が不安定な今だからこそ、今後の社会にどのような良い影響をもたらせるのかといったところも、オリンピック最大の見どころになるでしょう。

Profile

ジャーナリスト / 守隨亨延(しゅずいゆきのぶ)

パリ在住ジャーナリスト。地球の歩き方フランス特派員および時事通信・運動部パリ通信員。ロンドンの大学院にて公共政策学修士を修めた後、日本でガイドブックおよび雑誌記者を経験し、2009年9月に渡仏。朝日放送パリ支局勤務を経て、株式会社プレスイグレックを設立し、代表を務める。
Instagram
Twitter(X)

取材・文=棚橋千秋(Playce)

© 株式会社ワン・パブリッシング