小学生「エッチなポスターどこにあるの?」地獄の大炎上都知事選に都民1400万人唖然…「この宣伝で300万円は安い」という本音

7月7日投開票の東京都知事選が6月20日告示された。今回の「首都決戦」は4年前の前回知事選(22人が出馬)を大幅に上回る過去最多の56人が立候補し、メディアの注目度も高まるばかりだ。そんな中で選挙看板にも注目が集まっている。都知事選候補を大量に立候補させた政党がポスター枠を販売しているほか、卑猥なポスターも掲載され話題を呼んだ。ルポ作家の日野百草氏が取材した――。

エッチなポスターってどこにあるの?

「エッチなポスターってどこにあるの?」

いたずらっぽい笑みを浮かべて下校途中の小学生が筆者に尋ねる。キャーキャー言いながら同じポスターが何枚あるか数える競争をしている子らもいる。

東京都心、近隣の小学校の通学路でもある東京都知事選ポスター掲示板は小学生らのゲーム板と化していた。クイズ番組「パネルクイズアタック25」のようなオセロ状態なので「こっちとこっちで(挟んで)全部おんなじ顔!」など声が上がる。

ちなみに「エッチなポスター」とは、ほぼ全裸でPRする権利を寄附行為で手に入れた女性のポスターのことだろう。結局、迷惑防止条例違反の疑いで警告を受け、この時点ですでに撤去となっている。

自己宣伝と考えれば300万円は安い

そういうポスターはもう「無い」ということを告げる間もなく、その子は数合わせゲームだかオセロゲームだかの中に戻って行った。ちょっと大人をからかった感じか。

これだけでなく、以前は別の区の掲示板にも昔の電話ボックスのピンクチラシのような風俗営業の宣伝広告ポスターがずらりと貼られていたこともあったが、こちらも風営法違反の疑いで警告がなされ、貼り替えとなった。

さらに別の区の都知事選ポスター掲示板、怒り顔の赤ちゃんの顔がずらり並んでいる。通りがかりの親子連れに聞くと母親は「怖い」と言っていた。そして高齢男性は「恥ずかしい、世も末」とも。

「これ、売ってるんだろ? 買う人いるんだね」

高齢男性はあきれ顔。政党によっては寄付金で候補者のポスターに掲載される権利を与えている。ほぼ全裸の女性も、赤ちゃんの家族も寄付で事実上、この選挙ポスターの枠を買っている。

法的には何の問題もない。掲示板の枠を売買しても禁止規定はない。「ほぼ全裸」は迷惑防止条例違反、風俗広告は風営法違反で警告となっただけで、公職選挙法違反で御用となったわけではない。

出版社の広告部にも在籍経験のある雑誌編集者に話を聞いた。

「300万円はとにかく安い。全国放送で街頭ポスター掲示、立候補しただけでメディアに扱われる。全員がそうではないが、自己宣伝と考えれば300万円は安い」

悪いイメージでも名前が売れれば構わないという

300万円といえば新車で買うならエントリーモデルのプリウス(320万円)くらい。雑誌広告や新聞広告なら数百万円から数千万円、全国放送のテレビCMなら億単位、媒体や規模、諸条件によって異なるが格安、というのは確かだ。

しかし名前が売れてもそれが商売に結びつくのか、代理店の広告マンは「人によるが」としながらも宣伝にはなると語る。

「悪いイメージでも名前が売れれば構わないという仕事や、むしろ悪いイメージのほうが面白い人とか、かっこいい人とか思う層が一定数います。迷惑系ユーチューバーやお騒がせタレントもそうですが全員にウケる必要はない。そういう層にどれだけ知られるか、ビジネスに結びつくかでやっているのだと思います」

もちろん全員がそうではないのだろうが「界隈」で十分小銭稼ぎになるメディアやコンテンツは数多ある。「界隈消費」という言葉があるが、ある漫画のセリフ「その界隈だと持ち上げられてるけど「その界隈」が狭すぎて世間に通用しない感じの人」は作中の揶揄であって、現実には狭くとも一定数に持ち上げられれば十分にビジネスとして通用するケースもあることは確か。

世間を騒がせて界隈の層に知ってもらい囲いを増やす、それが300万円という格安価格の「都知事選」に使われてしまったということか。

公職選挙法では5つの原則を逆手にとれば好き勝手できる

「300万円ちゃんと使うならまだマシですよ、300万円使って出馬すると言ってメディアに宣伝してもらって取り下げて300万円返してもらうって人もいますからね」

取り下げるのも自由なら選挙ポスターに何を載せるかも自由、言論の自由が制限された時代の反省から日本国憲法および公職選挙法では5つの原則として「普通選挙」「平等選挙」「秘密選挙」「自由選挙」「直接選挙」が定められているが、これを逆手にとれば好き勝手できると気づかれてしまった。いや、気づいても多くはやらなかっただけか。

「建前上は選挙ですし候補者ですから何を言っても、何を言われても「自由な政治的主張をしているだけ」で通すことができる。候補者は徹底して守られますし、その辺の広告を破っても器物破損止まりですが、候補者のポスターを破れば選挙妨害罪もありえますから」

選挙妨害罪(選挙の自由妨害罪)は先の衆院東京15区補選である政治団体が他陣営の演説妨害や選挙カーに対する嫌がらせなどで逮捕されたことが記憶に新しい。

掲示板にかわいい動物たちが生息

その代表は逮捕勾留中だが刑が確定していないので今回の都知事選にも立候補している。古くは田中角栄が「獄中立候補」で当選したがこれも自由。言論の自由が制限された時代の反省によるものである。

その勾留中の代表はこう語っている。「(ユーチューブなど)動画再生数がすごい。落選運動をビジネスにしたい」と。配信界隈のマネタイズに自由選挙が使われる。自由かつ、国民の税金で準備、運営される選挙が故に選挙ポスター掲示板もまたフリーライドされている。都内約1万4000ヶ所の掲示板、このままでは掲示板を使った選挙制度そのものの存続すら問われかねない。

東京郊外の市部ターミナル駅、ペデストリアンデッキ上の東京都知事選ポスター掲示板は親子連れや近くの女子校の生徒など多くが足を止めていた。

「なにこれかわいい」

掲示板にビスケット「たべっ子どうぶつ」のパッケージに描かれているようなかわいい動物たちが生息している。女子高生は写メを撮っていた。小さな子どもも親御さんと動物の当てっこをして楽しんでいた。

「だってみんな選挙に行かないだろう」

見る角度によってはどうぶつさんしかいないので、まるで幼稚園の送迎バスのラッピングのようだ。癒やしがあっていいという人もあるが、多摩地域の市議会関係者は批判的だ。

「関心は集めるでしょうが、その関心はかわいいイラストであって候補者でも都政でもない。これで選挙に関心を集めるとか言い訳としか思えない、そもそも選挙掲示板ですよ。目的外利用です。今後は規制するしかないでしょう」

前回の2020年都知事選の投票率は55%、都民の半分近くが選挙に行っていない。その前々回、舛添要一都知事誕生の2014年都知事選の投票率に至っては46.14%だった。「だってみんな選挙に行かないだろう」と言われても仕方のない現実がある。

自民党の茂木幹事長は6月25日、「公職選挙法の見直しも含めて対応を検討」と法改正の認識を示した。誰もしないだろうと思っていたことをされてしまう、普通はしないはずのモラルが逆手にとられる。そして当たり前の自由はこうして失われる。

この国の首都の長を決める都知事選ポスター掲示板、候補者でもない人々や赤ちゃんの顔、ほぼ裸の女性、風俗営業の宣伝、かわいいどうぶつのイラストが並び、ときに警告で撤去され、ときに一部の不届き者によって破られたり、マジックで落書きされたりもしている。候補者にも爆破予告や殺害予告、硫酸による危害予告が繰り返され、連日新たな「脅迫」が報じられている。

国民が政治を嘲笑している限りは、その嘲笑に値する政治しか行なわれない

こうした事態をうけて平井伸治鳥取県知事は「日本の民主主義が世界中の笑いもの」と述べた。筆者の聞き取りでも多くの街頭の人々から出た言葉は「恥ずかしい」だった。これが私たちの日本、首都東京の選挙とその現実である。

供託金の引き上げ、候補者以外の人物掲載の厳格化、常識的な範囲の内容とその基準の明確化など「今後」に向けて早くも意見がなされているが、多くの都民、いや国民の「このままでは恥ずかしい」と思う心はこの国が真っ当な証しだと信じている。「それでも都民は選挙に行く」という当たり前の行動と同時に、日本全体で私たちの政治と暮らしをいま一度、真面目に考える機会になればとも思う。

―― 国民が政治を嘲笑している限りは、その嘲笑に値する政治しか行なわれないし、国民はその程度に応じた政府しかもちえない。

松下幸之助

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