NOT WONK・加藤修平「ナチュラルな自分を撮ってもらった」ドキュメンタリーが完成。苫小牧の試写会に登場!

NHK総合で6月28日に北海道スペシャル「煙の街にロックが流れる」(午後10:30、北海道ローカル)が放送される。苫小牧を拠点に全国区で活動するロックバンド・NOT WONK(ノットウォンク)。ギターボーカルの加藤修平への取材を中心に、苫小牧にとどまって表現を続ける理由、その先にあるものに迫る。

日本有数の人気フェス「ライジング・サン・ロックフェスティバル」にも出演するNOT WONK。メンバーは全員が苫小牧出身の20代で、今も苫小牧を拠点に活動を続ける。加藤はこう語る。「“音楽”と“音楽産業”は別。ビジネスにするために音楽をやっているわけじゃない」。

東京や札幌に出るのではなく、巨大な製紙工場を中心に抱える苫小牧で生活し、仲間と表現を模索する。そのシンプルな試みを、加藤は「実験」と呼んで、手放そうとしない。既存の権威や秩序に抗うことが冷笑されるような時代において、ロックを続ける“よすが”はどこにあるのか。苫小牧で生きる加藤の姿を記録するとともに、親交の深いASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文、シンガー・ソングライターのカネコアヤノのインタビューを交え、表現と生活、音楽と社会の交差を照射する。

6月19日に苫小牧のライブハウス・ELLCUBEでメディア向け完成試写会が行われ、加藤と、制作者のNHKの山森英輔ディレクターが登壇。NOT WONKをよく知る高市佳明アナウンサーが進行し、番組への思いや見どころについて聞いた。

── 番組を見て、率直にいかがでしたか。

加藤 「ナチュラルな自分を撮ってもらったなと、飾り気なくありのままに。自分が大事にしていることを山森さんにしっかり話せて、伝えたいことや真実が、曲がらずに番組にしてもらえたのが良かったです。きっと、この番組を見てNOT WONKのことを初めて知る人や、こういう人がいるんだなって見る人が多いと思うんです。だからこそ、自分がずっと考えてきたことなどを取材・撮影中にもいっぱい話をしました。自分の心(しん)の部分を引き出せてもらえて良かったです。この番組を通して何か視聴者に伝わるんだったらいいなっていう、ポジティブな感想と思いです」

── 番組に込めた思いは。

山森 「撮影を重ねながら考えていたのは、簡単に加藤さんのことを分かった気にならないぞっていうことです。加藤さんには音楽という圧倒的な表現があるし、その表現をすべて説明したいとは、きっと加藤さんも思っていない。そう感じながら撮影を続けるうちに、段々ナレーションを書ける気がしなくなりました。ナレーションが悪いわけではまったくないのですが、どこかわれわれが解釈してしまうことにもなる。今回はそれが非常に難しく思えました。現場で撮影された映像と音を感じてもらえばそれで十分じゃないかと。それから、今回は、加藤さんをよく知る方々にお話をうかがいましたが、NOT WONKの高橋尭睦さん、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文さん、カネコアヤノさん、音楽ライターの石井恵梨子さんらが、みなさん本当に真摯(しんし)に語ってくださいました。人は誰しも多面性があって、接する人ごとに少しずつ違う面が見えるものだと思うのですが、加藤さんのさまざまな側面をご出演いただいた方の言葉から感じていただけたらうれしいです」

── 苫小牧の街についてお教えください。

加藤 「僕は29年間苫小牧に住んでいます。苫小牧は観光地がいっぱいあるとかっていうのではない、小さな街。東京や大阪などの大都市に出ることも一つの幸せなのかもしれないけど、そうじゃないパターンが、もっとあった方がいいんじゃないのかって感じているんです。15歳の時に、初めてエルキューブでライブを見たんですけど、バンドをやりながら働いている大人たちを見て、ローカルを守るみたいなところを意識的にやっていてかっこいいと思ってから、それが自分の中では当たり前になっているというか。自分が暮らしているところで楽しいことを作り続けることに尽力しています。この番組を見て『私、ちょっと似ているな』『ローカルな場所で何かできるかも』って思う人がきっといるような気がしていて。共感を得たいわけではないけど、きっと共感する部分がある人も多いだろうなっていう気がします」

── なぜ今回、取材を受けようと?

加藤 「僕、基本的にテレビあんまり見ないんですよ。自分の判断基準みたいなものが、割としっかりあって、自分のことが誤解されたり、テレビのドキュメンタリーにありがちな、最初からゴールが見えていてアタリがつけられているような、田舎で若いやつが働きながら音楽やっててえらいねみたいな、そういう作品にならなきゃいいなっていうのは、ずっと思っていて。山森さんと話した時に、そういう番組にする気は全くないと分かったので、受けました。この番組を通して自分のバンドが売れたいとかは全然思っていないんですけど、もともと好きだった人が、もっとNOT WONKの音楽に理解を深めてくれたりしてほしいなとは思っています。あと、この街に住んでいる人たち、苫小牧のすてきな人たちを知ってほしいという思いもありました」

── あらためて、なぜNOT WONKを取り上げたのでしょうか?

山森 「最初は音楽配信サービスでたまたま『Your Name』が流れてきて、イントロが緩やかな曲なんですけど、緊張感というか、緊密な感じもあって、それにひかれて調べてみたら苫小牧のバンドで、会いに行こうと思ったのがきっかけです。2年前の冬でした。3時間ぐらい話をさせてもらったのですが、加藤さんは、ご自身の表現のことだけでなく、生活や社会のありようについて、どういうふうに自分たちが生きればいいかみたいなことも含めて話してくださいました」

山森 「『音楽に政治を持ち込むな』っていう方もいるじゃないですか。それとは真逆で、臆さず語ってくださるのが、すごくかっこよくて、それで撮ってみたいなと思いました。かっこいいって素朴な言い方になってしまうんですけど、言い換えると、なにか自分が問いかけられているような気がしたんです。それがどういうことか、最初は自分でもよく分かっていなかったんですけど、音楽ライターの石井恵梨子さんにインタビューをさせてもらって、『加藤さんは、自分がどうあるべきか、自分に問いかけている』と伺った時に、ようやく思い当たりました。どう生きるべきか、その表現をする価値が自分にあるのか、自分に問いかけている加藤さんの『自己への問い』みたいなのが、反射して私に当たっていたんだ、みたいなことに撮影しながら気付いたっていう感じがあるかもしれません」

── 先ほどローカルを守るという話もありましたね。

加藤 「音楽を始めたきっかけも、人と違うことをしてみたい、誰もやってないことをやってみたい気持ちがあって、それは今でもすごくあるんですが、そういうことを自分の中で考えた時に、東京に行って音楽をやるって割と誰でもやってるなって思って。苫小牧で全部やりきるほうが、前例がないし、面白いんじゃないかっていう。生まれた街でそのままやっちゃうって面白いかもっていうところですよ。ただ、音楽家だからといって、特別なことをやるとか、スポットが当たってすごいとか、そういうことではないと思っていて。自分自身がこの時代の一つのサンプルとして生きたいなと思っています」

加藤 「苫小牧にはライブハウスもクラブもありますから、それでもずいぶん豊かな街だと思っているんですけど、大都市に比べるとやっぱり文化的資本は小さい。あるところには最初からある文化的な豊かさみたいなものを、知らない子どもたちもいたりするんです。僕がその一例だと思ってて、それでもこういう場所で表現をしたりとか、幸せを感じているとか、それが評価されるとか、それを続けられる土壌があったりするとか、大きな資本に頼らなくてもそれを継続できる仕組みがあったりするとか、そういうことが、僕がここでできることだと思ってます。いろんなものがちょっとずつ良くなって、いい方向に舵(かじ)をきれたらいいと思います。そのために僕にできるのは、音楽だったり、子どもたちを応援するってことだったり。チェーン店もいいけど、ローカルのすてきなカフェでコーヒーを飲んだり、バーでお酒を飲んだり、そういうことも苫小牧で自分のできることの一つです」

── Ian MacKaye(イアン・マッケイ ※1980年代からハードコア・シーンで活躍し、現在までインディペンデント精神を貫くアメリカのミュージシャン)の言葉が冒頭に出てきましたね。

山森 「2019年に加藤さんが苫小牧で行ったイベントで、手作りのチケットを約250人の観客の方全員に手書きで書いて、しかもお一人お一人のお名前を書いて送られたと聞きました。かつてイアン・マッケイが似たようなことをやっていたと知って、もしかしたらそれが加藤さんにちょっとだけ影響を与えたというか、参照項になったのかなって思ったりもしたんです。やっぱり関わってくださっている方とか、聴いてくださってる方、一人一人のことをちゃんと知りたい、見たい、分かりたいという感覚が、もしかしたら共通しているのかなって思って引用しました」

── 最後に視聴者の方へメッセージをお願いします。

山森 「加藤さんの表現のありよう、暮らしのありよう、あるいは表現と社会が交わる部分を見ていただけるとうれしいです。ただ、45分のこの番組にすべてのことが映っているわけではなくて、むしろほとんどのことは映ってないですし、加藤さんの表現の全部がここにあるわけでもないけれども、その映っていない部分も想像してもらえたらうれしいなと思っています」

加藤 「自分は出演側で自分の作品ではないのですが、いろんなポイントでいろんな捉え方ができるものが好きで、この番組はそうなっているように感じています。だから同じような境遇にあるような人の気付きになったり、これでいいんだ、もしくは、これだったら俺の方がうまくやるよとか、そういう気付きになったらうれしいなと思います。まだフォーカスされていないけど、かっこいいことをやっている人が日本にいっぱいいると思うので、僕がその人に出会うきっかけにもなったらいいなという気持ちもあります」

なお、北海道スペシャル「煙の街にロックが流れる」は、NHKプラスで放送後1週間配信を予定。

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