ついに登場した“朝ドラ最終形態”「虎に翼」の最強ポイントに迫る~録画視聴データで探る中間リポート~

NHK総合ほかで放送中の連続テレビ小説「虎に翼」が好調だ。ドラマとしてのクオリティーの高さに加えて、そこに描かれているテーマや描き方のスタイル、劇中で起こる諸問題に対する主人公たちのスタンスがこれまでの朝ドラとは一線を画する新しさと現代性を持っていて、そのあたりが視聴者の支持を得ている。そこで今回は、関東123万台を超えるレグザ視聴データを駆使しながら、「虎に翼」の面白さの秘密と愛される理由に迫っていこうと思う。

1961年の放送開始以来、63年の歴史を持つNHK朝の連続テレビ小説、通称“朝ドラ”。これまで多くの名作、ヒット作を生み出してきた日本のテレビドラマを代表する人気ドラマ枠だが、通算110作目に当たる「虎に翼」は、これまでの朝ドラとはちょっと違う「新しい朝ドラ」として受け止めている人が多い。しかも、長年朝ドラを見続けているディープなファンだけでなく、若い視聴者にも新鮮さを持って受け入れられている。

「虎に翼」が新しさを感じさせる部分はいくつかあるが、その要素の一つはこのドラマが個々のキャラクターを超えた大きな「“女性”と“社会”の物語」になっているところだろう。しかもひとりひとりのキャラクターを埋没させることなく、むしろ際立たせることで、ある種の連帯感を醸し出す。これはもう制作陣のたくらみと同時に、その技術の賜物といっていい。特に脚本を手掛ける吉田恵里香の功績は計り知れない。

ここで、「虎に翼」の第1回から第55回までの録画視聴ポイントをグラフにしたものを見ていただこう。対象としたのはNHK総合の本放送(月曜~金曜/午前8:00~午前8:15)である。

毎週配信している【地上波録画視聴ランキング】などでも折に触れて書いているが、「虎に翼」はとにかく展開が早い。というか、要素が盛りだくさんで1話の中に詰め込まれている内容が濃い。いわゆる神回や名場面も数多く、それを反映するようにグラフもピークを細かく刻みながら右肩上がりで推移している。

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ドラマは、日本初の女性弁護士であり女性裁判官である三淵嘉子さんをモデルとした寅子(伊藤沙莉)の物語を軸に、兄嫁の花江(森田望智)ほか、寅子の家族、よね(土居志央梨)や梅子(平岩紙)ら大学の仲間たちなど、同時代の数多くの女性の小さなリアルの一つ一つを短時間で鋭く描く。昭和初期から戦中、戦後と目まぐるしく動く時代の激流の中に、個人のドラマが積み重なる。そうした小さな個人の物語の集大成が、結果として川の流れを変えていく。それは当時の彼女たちの物語であると同時に今の私たちにも深く通じるテーマであることは、みなが感じていることだろう。これを成り立たせる制作陣の力量は並大抵のものではない。

今も続くヘビーな問題を取り扱いつつも、語り口が柔らかいのも特徴だ。配役の妙や尾野真千子によるナレーションの効果も大きい(「はて?」と「スンッ」の破壊力に至っては、もはや発明と言っていい)。情に流されず不条理は不条理として描くなど、全体としてはクールで論理的なドラマだが、それでも見ている側があくまで「じぶんごと」として見ることができるのはこの語り口の柔らかさに負うところが大きい。

ここで、視点を変えて過去の朝ドラとの比較を見てみよう。先ほどの「虎に翼」のグラフに、本放送が週5回になった2020年以降の朝ドラ8作品(「エール」「おちょやん」「おかえりモネ」「カムカムエヴリバディ」「ちむどんどん」「舞いあがれ!らんまん」「ブギウギ」)の録画視聴データを加えてみる。

ちなみに各作品の全回平均のランキングは以下のようになる。

グラフで分かるとおり、「虎に翼」の第55回までの数値はほかのドラマを上回っている。平均ランキングでも(途中経過ではあるが)「カムカムエヴリバディ」をわずかに抑えてトップに立っている。各配信サービスの増加により、録画機による視聴が年々減少してきているにもかかわらず、これだけのリードを保っているということは、視聴者の注目度の確かな表れと言っていいだろう。「カムカムエヴリバディ」や「エール」に顕著なように、朝ドラは後半大きくポイントを伸ばしてくるケースが多いので、「虎に翼」も今後の伸び具合に期待がかかる。

さまざまな出会いや悲しみがあり、大きな進歩や前進もあり、寅子が日本初の女性判事になったところで、ドラマはようやく折り返し。判事になってめでたしめでたし、のドラマではないのだ。“ここからが本当に描きたいことなんです!”というスタッフたちの意気込みが聞こえてくる。今後の物語の展開とともに、ポイントの動きにも注目したい。

文/武内朗
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