ゴジラに挑む期待の新鋭・上西琢也監督「自分のゴジラが劇場公開されることがうれしい」『GEMNIBUS vol.1 ゴジラVSメガロ』【インタビュー】

東宝が手掛ける才能支援プロジェクト「GEMSTONE Creative Label」初の劇場公開作品として、新進気鋭のクリエーター4人が監督した短編からなるオムニバス映画『GEMNIBUS vol.1』が、6月28日から2週間限定で劇場公開される。その中の1本、『ゴジラVSメガロ』を監督(脚本・VFXも兼任)したのは、日本の映像業界をリードするスタジオ、白組に所属し、『シン・ゴジラ』(16)、『シン・ウルトラマン』(22)、『ゴジラ-1.0』(23)といった大作にVFXのスタッフとして参加してきた上西琢也。『ゴジラ対メガロ』(73)に登場した怪獣メガロの50周年記念に当たる本作の舞台裏やゴジラ映画に対する思いを聞いた。

上西琢也監督(C)エンタメOVO

-YouTube再生回数1000万回を突破した『ゴジラVSガイガンレクス』(22)の好評を受けて本作を監督することになったそうですが、その経緯を教えてください。

最初のきっかけは、新人発掘を目的にしたGEMSTONEの「クリエイターズオーディション」です。第1回のテーマが「ゴジラ」で、そこに応募した僕の短編『Gvs.G』が入賞し、続編として『ゴジラVSガイガンレクス』を制作することができました。それが好評だったため、さらに「メガロ50周年記念作品を」と東宝さんからお声かけいただきました。

-本作のゴジラは、近年の『シン・ゴジラ』や『ゴジラ-1.0』とも異なる狂暴な顔つきと存在感が際立ちます。怪獣もご自身でデザインされたそうですが、ゴジラの狙いは?

ベースは、僕の原点となる「VSシリーズ」(1984年の『ゴジラ』から1995年の『ゴジラVSデストロイア』までの7作)のゴジラです。中でも、『ゴジラVSビオランテ』(89)のゴジラと、『ゴジラVSキングギドラ』(91)でアップ用に使われたパペットのゴジラの顔がお気に入りなので、その印象に近づけました。さらに皮膚感は、僕自身が関わった『シン・ゴジラ』も意識した上で、さまざまなゴジラの要素を詰め込んでいます。

-50年ぶりに復活したメガロについてはいかがでしょうか。

お話をいただいてからメガロについてリサーチしたところ、海外での人気が高いことが分かりました。そこで、とにかく海外で受け入れられるものにしようと。だから、あまり奇をてらうようなことはせず、シンプルにかっこいい昆虫怪獣を目指しました。

-こだわった点は?

平成の「VSシリーズ」で育った僕にとって、昆虫怪獣といえば(1992年公開の『ゴジラVSモスラ』に登場する)バトラです。調べてみると、カラーリングなど、バトラにもメガロの意匠が随所に盛り込まれていることが分かり、僕としては先祖返りのような感覚もありました。そこで今回のメガロには、目の奥にさらにバトラの目をデザインするなど、さまざまなオマージュもちりばめました。ただ、これまで『シン・ゴジラ』や『シン・ウルトラマン』など、原点をアレンジする作品に参加した経験から、一目で「メガロだ」とわからないと意味がないと思ったので、そこは逸脱しないように気を付けました。

-ゴジラとメガロのバトルは迫力満点ですが、それだけでなく、実写で人間の芝居も加えた点に前作『ゴジラVSガイガンレクス』からの進化が感じられます。その意図は?

怪獣同士のバトルを盛り上げるためには、やはり「なぜ戦うのか」という背景をきちんと描くことが大切です。そこで今回は、雰囲気を匂わせる程度ですが、実写パートも追加しました。実写の演出は初めてでしたが、将来的に怪獣映画の監督を目指す上では、人間の芝居も撮れなければ、という思いもあって。その点、今回は小規模ながら、技術的に一本の映画に必要なことを全て詰め込むことができました。

-実写の演出を初めて手掛けた感想は?

屋外でのロケの大変さを痛感しました。怪獣から逃げる群衆なども撮影したのですが、ロケ場所の確保といった苦労に加え、時期が夏だったので、暑さがピークの8月を避けて7月に撮影したところ、思惑が外れて猛暑になってしまって(苦笑)。ただ、天気がよかったのは助かりました。おかげで、いい経験をさせていただきました。無事に完成してよかったです。

-本作はYouTubeでも配信中ですが、劇場公開版としてさらにグレードアップしたそうですね。

原点の『ゴジラ対メガロ』(73)を踏襲し、メガロが電撃を発射するとき、角のふちが光る描写を追加しています。電撃そのものも強化し、両手のドリル攻撃も内部を光らせるなど、バトル表現も全体的にパワーアップして。また、下から見上げるカットでは、手前に電線や建物を追加し、怪獣の大きさがより感じられるようにしました。映像全体も、スマホやPCでの鑑賞を前提にしたYouTube配信版のままでは明るすぎるので、劇場鑑賞時に繊細な陰影が出るように調整しています。そういった点を含め、劇場版は僕が本来目指していた『ゴジラVSメガロ』に仕上がりました。

-劇場公開に対する感想は?

自分の監督したゴジラ作品が劇場で上映されることが、本当にうれしいです。その一言に尽きます。『ゴジラ-1.0』『ゴジラ×コング 新たなる帝国』に続き、ゴジラ70周年の節目に劇場で上映されることも光栄に思います。

-ところで、元々怪獣映画を作りたいと思ったきっかけは?

僕は1987年生まれで、小学生のときに「VSシリーズ」が直撃した世代ですが、その後、中・高から大学に入る頃までは、ゴジラとは距離を置いていました。当時はCGがどんどん進化する一方で、「CGなら何でもできるから」と驚きも失っていたところに、マイケル・ベイ監督の『トランスフォーマー』(07)が登場し、「CGはまだまだすごいことができるんだ!?」と、改めて驚かされて。

-それがVFXの道に進むきっかけになったと?

それから国内でCGを手掛けている会社を探し、白組の存在を知りました。しかも当時、ゴジラ映画は休止期間でしたが、ちょうど山崎貴監督が『ALWAYS 続・三丁目の夕日』(07)にCGのゴジラを登場させたんです。それをきっかけにゴジラ映画、怪獣映画を作りたいと、引き寄せられるように白組に入社しました。

-上西監督も「モデリングアーティスト」として参加された山崎監督の『ゴジラ-1.0』がアカデミー賞視覚効果賞を受賞したことについては、どんな感想をお持ちでしょうか。

生きててよかったです(笑)。ゴジラ映画がアカデミー賞を受賞する時代が来るなんて、夢にも思いませんでしたから。おかげで、歴史的な瞬間に立ち会うことができました。今までアメリカのアカデミー賞は、「よそのすごいお祭り」でしたが、そこに自分が参加できるかもしれない、という道を示してくれたこともありがたく思っています。実際に自分がその道を歩けるかどうかは、これからの努力次第ですが。

-ご自身がゴジラ映画を監督するとしたら、どんな映画にしたいですか。

ゴジラ映画の魅力は、70年の歴史の中にさまざまな作風の作品があることです。その中で僕が監督できるとしたら、とにかく怪獣がかっこいい作品にしたいですね。会社が違うので難しいところですが、夢はゴジラと(KADOKAWAの)ガメラを対戦させることです。

(取材・文・写真/井上健一)

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