自動車プラスチックリサイクル市場の調査を実施(2024年)~2023年の国内におけるELV由来プラスチック回収量を900tと推計、ELV由来のプラスチック材料の需要が高まり、リサイクル体制の構築に向けて回収方法やリサイクルプラスチック材料の採用検討が急速に進む~

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越 孝)は、自動車プラスチックリサイクル市場を調査し、各国(日本、欧州、米国)の政策・法規動向、ELV由来のプラスチックリサイクル動向、リサイクルプラスチック材料の採用動向、参入企業動向を明らかにした。
ここでは、国内のELV由来のプラスチック回収量の2030年までの予測について、公表する。

1.市場概況

世界的にみて欧州ではサーキュラーエコノミー(以下、CE)、カーボンニュートラル(以下、CN)の実現に向けた取り組みが先行しているが、自動車で使用されているプラスチック材料もこうした変化への対応が求められている。欧州委員会は2021年からELV指令と3R型式認証指令の見直しに着手し、2023年7月には欧州ELV指令の改正案(以下、ELV規則案)が公表された。

ELV指令と3R型式認証指令が統合される今回のELV規則案は2つのインパクトを持っている。1つは規則化であり、“ELV規則” に強化されたことで同規則に準じない自動車メーカーは型式認証を取得することができず、欧州での自動車販売が出来なくなる。もう1つは、ELV規則が施行された72ヶ月後から欧州で販売される自動車にはPCR(ポストコンシューマーリサイクル材)由来のリサイクルプラスチック材料を25%、うちELV(End-of-Life Vehicles=使用済自動車)由来のリサイクルプラスチック材料を25%使用することが義務付けられることである。
ELV規則案に対する自動車メーカーの受け止め方は各社で異なるが、唯一合意出来ていることはCE及びCNの観点からプラスチックリサイクルの推進に賛同している点にある。
しかし、多くの自動車メーカーは、欧州で設定された「PCR由来25%、うちELV由来25%」という目標値の根拠が不明なことに加え、新車の開発から発売までのタイムラインから考えて、ELV規則施行後72ヶ月の義務化では間に合わないことを懸念している。

2023年の国内におけるELV由来のプラスチック回収量(見込)を900tと推計した。
現状、自動車に採用されているELV由来のリサイクルプラスチック材料は、主に解体工程で回収された内装材由来の材料である。リサイクルプラスチック材料をいかに確保していくかは、自動車メーカーの今後の課題であり、これまで自動車では採用されてこなかった外装材由来のリサイクルプラスチック材料も一部の用途で採用が開始されている。この他、自動車メーカーは安定調達を図るべく、解体工程以外にも破砕工程やASR(Automobile Shredder Residue:自動車シュレッダーダスト)由来のリサイクルプラスチック材料の採用を模索しているとみられる。

2.注目トピック~「資源回収インセンティブ制度」導入により、資源回収のための経済的インセンティブを付与~

従来、国内におけるELV(使用済自動車)由来のプラスチックリサイクルにおいては、コストや品質、安全性、安定調達が問題視されてきた。ELVからプラスチック部品を取り外して精緻解体するほどにリサイクルプラスチック製造時の品質は良くなるが、解体事業者にとっての作業負担は大きく人件費コストも増加する。
一部の解体事業者では自社内に粉砕機を導入し、回収したプラスチックの輸送効率を高める取り組みも見受けられるが、そうした取り組みはボリュームビジネスが可能な大手解体事業者に限られており、ELV処理の大半を担う中小解体事業者がプラスチックの回収を行うにはハードルが高い。

国内では2026年4月から資源回収インセンティブ制度が導入される見通しである。現状の自動車リサイクル法では、解体事業者がASRからプラスチックやガラスを資源として回収した場合、ASR引取重量が回収した重量分減量し、その分再資源化費用が減額となる。資源回収インセンティブ制度は、自動車所有者が預託するリサイクル料金の原資から、ASRの減量分相当のリサイクル料金額を資源回収のための経済的インセンティブとして付与するもので、これにより少なくともコストと安定調達の問題は緩和することが期待されている。

3.将来展望

2030年までの国内におけるELV由来のプラスチック回収量を3パターンで予測する。いずれのパターンにおいても、2026年の資源回収インセンティブ制度導入により、プラスチック回収量は増加する見込みである。
最小パターンでは、2030年まであらゆるプラスチックが混合する破砕工程やASRからの回収が進まずに、解体工程での回収がメインとして行われることを想定しており、2030年のELV由来のプラスチック回収量を15,000tとなると予測する。
中間パターンは解体工程に加えて、破砕工程で回収したプラスチックの自動車メーカーによる材料採用が進むことを想定し、2030年のELV由来のプラスチック回収量を40,000tになると予測する。
最大パターンでのELV由来のプラスチック回収量を2030年に70,000tと予測する。自動車メーカーのリサイクルプラスチック材料の採用が本格化し、破砕工程での硬質プラスチック回収や、ASRから回収したリサイクルプラスチック材料の需要が高まることを想定している。

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