名医が教える胃腸の守り方 【第2回】不調は見た目だけではない…胃腸のメンテナンスが大切なワケ

CHAPTER1 胃腸を制すものが健康を制す

胃腸力をつけよう

胃腸力の低下が不調の始まり

「最近、食欲がないな」とか「食べる量が急激に減ったな」と感じたら、「もしかしたら胃腸に異変が起きているかもしれない」と疑って、受診することをお勧めします。

食欲とは、食べたくなる生理的な欲求のことで、そのコントロールセンターは脳の視床下部にあります。視床下部には、摂食中枢、満腹中枢という中枢神経があり、これらが切り替わることで食欲をコントロールします。

おいしそうなものを見たり、食べ物のいいにおいをかいだりすると摂食中枢が刺激されます。すると急激に食欲がわいてきます。そして食事をすると、今度は満腹中枢が働いて「おなかがいっぱいになってきた」と脳は判断し、食欲にブレーキがかかるのです。

両神経のコントロールがうまくいかず、食欲が低下する原因はさまざまなことが考えられます。胃腸や肝臓など消化器の病気が関係している場合もあれば、心臓病や内分泌の病気、糖尿病などが関係していることもあります。あるいは普通の風邪など急な体調不良のときにも食欲不振は起こりやすくなります。

胃腸力が高いと日々のパフォーマンスが上がる

胃腸の不調は食欲がわかないだけではありません。仕事や家事などのパフォーマンスにも大きく影響します。食品工場にお勤めの方が受診されたことがありました。職場では手や作業着を消毒し専用ガウンなどを着て仕事をするため、業務についたらなかなかお手洗いに行きにくいそうです。

そういったことがすごくストレスだとおっしゃっていました。そのうえおなかの調子が悪い、軟便気味ということがあると、「おなかが痛くなったらどうしよう」「トイレに行きたくなったらどうしよう」と仕事に集中できないときもあるそうです。また症状によっては、感染性の胃腸炎の恐れがあるとみなされて、仕事を休まないといけないことも工場によってはあるそうです。

このように、胃腸の不調で下痢などが続いていて受診される方は多くいます。そして診察をして原因と治療方法やこれからの経過を詳しくお伝えすると、安心して改善に向かいます。

改善している自覚が出ると、業務に戻っても「おなかが痛くなったらどうしよう」「トイレに行きたくなったらどうしよう」といった心配やストレスからも解放され、仕事に集中できるという患者さんもいらっしゃいました。

胃腸の調子が優れず「食べすぎたかな」「ストレスかな」と思いながらも、受診しない人は実は結構多くいます。実際に受診される方でも、症状が出始めたのは実は1年前などと、ずいぶん時間がたってからどうしようもなくなって診察に来られる方も少なくありません。

しかし、胃腸の不調は見た目だけでなく、仕事など日常生活のパフォーマンスにも影響を及ぼします。そのメンテナンスが非常に大切なのです。

正常で元気な胃腸は消化吸収がスムーズ

消化管はチームプレー

食欲がわくには「食べたものを胃で消化し、腸で吸収して、不要になったものを便で出す」という本来の機能ができているかどうかも非常に重要です。まず食べ物が口に入り、口の中で噛み砕き、食道を通過して胃で消化活動が始まります。そして小腸へと送られて栄養として吸収されます。それ以外のものは大腸へと行き、やがて便となり、排泄されます。

この一連の流れを担うのは口腔→食道→胃→小腸(十二指腸・空腸・回腸)→大腸(盲腸・結腸・直腸)→肛門へと続く約9メートルの1本の管で「消化管」といいます。この各部位に入ったときに粘膜から消化液が出てきて、作業をお手伝いしてくれます。

こうした作業は、一旦止まると、チーム全体でカバーしようとしますが、その際に不調が出ることがあります。例えばあまり噛まずにものを食べれば、消化できないまま小腸へと送られ、小腸でも消化作業をすることになります。

しかし、小腸へ送られるのに時間がかかると、未消化物が長時間胃に残るので、胃がもたれる、場合によっては逆流性食道炎などになって、食欲が落ちてしまいます。

胃腸力の始まりは胃の防御機能

食べ物が口に入ると、まず「熱い、まずい」などといったことを感じて不要なものを排除しようとします。また大きいと判断した場合は、噛み砕いて唾液とともに、食道を通過して胃へと送ります。

口から入るものは必ずしも安全なものばかりではありません。空気とともに雑菌が入ることもあります。胃の中は強い酸性に保たれているので、体に入り込んだ菌を退治してくれます。この酸で胃から先の消化管へ食べ物とともに菌が入っていかないようにするバリア機能があります。

体に必要だと判断したものは、胃の蠕動ぜんどう運動によって胃液や消化液によって粥状に細かく消化されます。この作業は口に入ってから2~4時間かかり、ようやく小腸へとバトンタッチする段階に入ります。


※本記事は、2022年10月刊行の書籍『名医が教える胃腸の守り方』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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