本当に日本はこれから「どんどん貧しくなる」のか?元ファンドマネジャーが我が子に「口をすっぱくして」教えていること

大学生のアキさん、高校生のルミさん、2人の娘を持つ投資家・文筆家、元ファンドマネジャーの澤田信之さん。「予測を業としてきた自分にも、彼女たちがこれからどのような時代を生きていくのかまったく想像できない」と語る澤田さんが、子どもたちに「生きる視点」を伝えるメッセージ書評です。

【父から娘へ「予測できない時代を生きる君たちに、この本をこう読んでほしい」#3『消費される階級』酒井順子】後編

「予測できない時代」に大事なお金の話をします。なぜ日本は貧しくなったのか

もうひとつ、最後の『遅ればせながらの金融教育』という章も2人に紹介するね。

2人は『うんこドリル』って知ってるかな。大ヒットした小学生向けのドリルです。酒井さんはこの『うんこドリル』に言及し、『うんこドリルを金融庁がコラボしたゲームなどを見ることができます(中略)。この流れの中で、「自分の時も、この手の教育をしてほしかった」と、悔しく思う私』と感想を述べたあと、こう続けます。

『生きていく上では、必須。だけど、その話を大っぴらにするのは憚られる。……という意味で、お金と性は似ています』

僕が資産運用の仕事に就いたのは1990年。まだ日本経済はバブル、しかし実体経済の先行指標である株式が下げ始めたタイミングでした。

それまで、金融業界はずっと実業の裏方でした。でも、NTTが民営化され株式上場を経たこともあり、お金の話がタブーではなくなってきた時代でした。ですがバブルはやっぱりバブル、過剰に上昇した不動産価格と株式市場は実体経済を反映して下落に転じたため、一時的に表舞台に出たお金も「拝金主義」という批判を受けてまたタブーに戻ってしまいました。

機会はありました。2000年初頭にITブームがやってきて、一部の若者(当時の僕と同世代ですが)がインターネットという新しい武器を携え登場したのです。しかし、それも郵政解散からホリエモンの逮捕という流れの中で再び「ドットコム・バブル」という単語で一括りにされ、消えていきました。

どうして日本ではお金が表舞台に立つたびに「バブル」になってしまったんだと思う?

日本のバブルが「その都度崩壊した」とてもわかりやすい理由とは

米国の株式市場は、90年代のヘッジファンド危機、9.11、リーマンショックなど下落する局面を何度も迎えたけれど、10年ごとに大体2倍になってるよね。それは株式会社という仕組みが勝手に利益成長を産み出すからです。株式会社とは借り入れを使って利益を追求する存在で、名目成長率つまり国民の稼ぎがプラスである限り利益が増えるのです。

日本は過去30年くらい名目成長率がゼロ、デフレで売り上げが増えないから企業業績もずっと悪かったんだよね。さらに、グローバリゼーションと呼ばれる低廉な労働力へのアクセス、長く続く円高でのデフレ強化も重なり、経済自体が痛めつけられてしまいました。成長が続いた米国では、危機やショックは金融市場が吸収できたのにね。

バブルの種は、社会変革期の過剰な期待感から生まれます。不動産バブルは過剰に長期化された金融緩和を背景に、無秩序な信用創造、つまり銀行が貸し出しを繰り返して最初に受け入れた預金額の何倍もの預金通貨を作り出す状態で発生しました。そのお金が不動産や株に流れ込んだことで株価が実体経済から解離てしまい、その結果として崩壊を迎えたのです。つづくITバブルは、社会を変え得るインターネットという仕組みが人口に膾炙する中、株価が企業の実態から解離していってしまい、結果それが修正されて崩壊しました。

いまはAIが革命期で、人口に膾炙する過程でお金が集まっていますが、ITバブルの成因に近いのかもしれません。このように、これからの未来がどうなるかを見極めるためには、「なぜこの状態が起きているのだろう」と常に頭の片すみに意識を置いておくことが大切です。

この時代、改めて酒井さんの言っていることが「極めて正しい」と感じたその理由

さて、どうやら日本のデフレも終了したようです。これからは物価の上昇と付き合っていかなければならないと思うよ。

2人はこれから社会に出て何らかの形でお金を稼いでいくようになります。それは大変な強みです。なぜなら、お金を稼いでいればインフレには負けないから。売り上げや給料が上昇していくからです。でも、売り上げや給料がない人たち、つまり今のオトナは将来のインフレに勝てません。日本で年金が実質的に切り下げられたり、税金が上がっていくことは避けられないから。

「株でも持っておかないとインフレに負けるよ」。資産運用が世代を問わず常識になる、それがお金の話がタブーではなくなる最大の理由です。だからお金の専門家から見ても、酒井さんの言っていることはとっても正しいと思うのです。そしてお金というのはとても正直な存在なので、この判断を正しくしている人ならば、他の視点も正しい確率が高いだろうと推論できる。僕たちはこういう風に、いろんなことを数字にして確率で判断します。

2人は勉強が得意だったり、運動が得意だったり、それぞれ個性のカタマリだから、若さ、とか、世代、って言葉でひとくくりにされるのは嫌いだろうけど、やっぱり時代や世代はある程度はひとくくりになって、運命をともにするんだね。

もし読んでみて気になることがあったら教えてちょうだい。ビル・ゲイツやバフェットみたいにはなれないけど、2人には僕が持てるものは何でも提供するから。一緒に暮らしていても話す機会って少ないよね。介護の心配はしなくていいよ、ちゃんと老人ホームの手配してるから。

チチより

消費される階級』酒井順子・著 1,870円(10%税込)/集英社

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