犯罪被害に遭い、加害者側から「示談交渉」が…。交渉のプロである弁護士相手に、被害者側がとるべき〈適切な対応〉【事例をもとに弁護士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

犯罪被害に遭ったとき、加害者側は少しでも罪を軽くするため示談を試みます。その際、加害者側は弁護士に依頼し示談を行うことが多いですが、交渉を得意とする弁護士を相手に、被害者側として望む結果へ導くためには、どのような対応をとるとよいのでしょうか。そこで実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに、刑事事件の被害者側の示談交渉について鮫島千尋弁護士に解説していただきました。

娘が性被害に遭ったが、相手に反省の色はなく…

相談者のKさん(女性・仮名)は、高校生の娘さんがSNSで知り合った大学生の男から性被害に遭ってしまい、警察に相談をしています。

相手は警察から出頭要請があり、取り調べを受けているのですが、娘さんの事情聴取と食い違っている部分が多々あるようです。性被害の証拠としては、娘さんの私物から相手の指紋や体液、また防犯カメラの映像などが確認できています。

この件について相手は「同意があった」と話していますが、娘さんは「無理やり性被害を受けた。許す気はない」と話しています。

また相手側の弁護士から示談交渉の連絡があったものの、相手からの誠意ある謝罪や反省の言葉はなく、目的が「被害届の取り下げ」としか読み取れないような内容だったそうです。

Kさんは、娘さんの心境を伺うわけでもなく、自分勝手な言動を繰り返している相手と示談する気はなく、厳罰を求めています。

担当の刑事からは「あまりにも被疑者の身勝手な犯行であり、余罪があるとみて取り調べを続けます」と話しがありました。また事件後、娘さんは精神的に不安定になり、フラッシュバックや過呼吸などで病院に通っています(そのことを示す診断書もあります)。

そこで、Kさんはココナラ法律相談「法律Q&A」に次の3点について相談しました。

(1)この事件について、傷害事件として訴えることはできるのか。

(2)不成立でも示談交渉をした事実によって、罪が軽くなることはあるのか。

(3)今後の流れはどのようになるのか。また、被害者側でも弁護士に依頼した方が良いのか。

弁護士の回答

(1)この事件について、傷害事件として訴えることはできるのか。

大切なお嬢様が体調不良になるほど傷つかれて、お母様としても大変お辛い思いをされていること、心中お察しいたします。

今回、「傷害事件」として訴える(告訴や損害賠償請求)ことを求められています。結論から申し上げると、加害者の行為によって、「お怪我をされた場合等」には、刑事事件として被害届や告訴をすること及び民事事件として傷害に対する損害賠償請求をすることは可能です。

一方で、加害者の行為によって、「精神的な苦痛等を被ったことを理由にする場合」、「刑事の傷害事件」として被害届や告訴をすることは困難ですが、「民事事件として慰謝料等の損害賠償請求」をすることは可能です。

ただし、今回の被害は、基本的に傷害事件ではなく、お嬢様の「性的自由を侵害する類型」です。この場合は、次のように考えられます。

この事案では、加害者の行為は、「不同意わいせつ(刑法176条)や不同意性交等(刑法177条)」に該当する可能性があります。そのため、「刑事事件として不同意わいせつや不同意性交等の被害届や告訴をすること」や「民事事件として損害賠償請求をすること」が可能です。

刑事事件としては、具体的には被害届や告訴状の提出により刑事処罰を求め、被害届や告訴状が受理されれば、警察が捜査を行い、検察官が最終的に刑事裁判(起訴)にするか否かを判断し、刑事裁判となれば、裁判官が有罪か無罪の判断をしていきます。

また、民事事件として、損害賠償を求めるという場合には、交渉や調停、訴訟提起といった方法の中で賠償を求めることが考えられます。

いずれの場合においても、加害者側において、同意があったと主張している以上、同意がなかったことを推認できる証拠等含め、どれだけ立証できるものがあるかが、刑事民事両方において重要になってくると思います。

実際に、刑事事件も民事事件も、お嬢様やお母様にとって、今以上にお辛い状況になることが多いため、お嬢様の今後の人生のあり方も含めて、「何をしていくことが一番お嬢様のためになるのか」は、慎重に考えられた方がよいと思います。

(2)不成立でも示談交渉をした事実によって、罪が軽くなることはあるのか。

結論から申し上げると、示談交渉をしたという事実自体は、罪が軽くなる考慮事情となりえますが、示談交渉をしたという事実があるだけでは、量刑上大きな影響を与えることは少ないと思います。

示談交渉は、被害者への被害弁償や加害者の謝罪反省の現れとして行われるものではありますが、刑事手続との関係においては、加害者の一般情状面で考慮される事項(言い換えれば、量刑を軽くするための事情)となりえます。

ただし、いわゆる性犯罪系の事案においては、示談が成立したとしても、起訴される可能性がありますし、どのような示談交渉の内容であったのかにより、考慮される比重は変わると考えられます。

また、訴訟交渉上の戦術として、刑事裁判の判決が出るまで示談や賠償請求はせず、刑事裁判が終わった後に、あらためて損害賠償請求等をすることで、刑事裁判には示談の事実を考慮させないといった方法もあり得ます。

ただし、示談交渉をしたとしても、またはしなかったとしても、加害者側からすれば、刑事裁判になるかどうか、また仮に刑事裁判になった後は有罪となるかどうかに強い関心があります。だからこそこれらのタイミング前に示談をしたがるのであって、タイミングを外すと示談をしてこない、被害弁償をしないというリスクが生じます。

「一番大切なことは、お嬢様のお気持ちや将来」だと思いますので、何が本当にいい選択かは、十分慎重に考えられた方が良いかと思います。

(3)今後の流れはどのようになるのか。また、被害者側でも弁護士に依頼した方が良いのか。

今後の流れとして、警察での捜査(当事者の取調べや客観的な証拠集め)を経て、最終的には検察官が、刑事裁判とするかを決めていくことになります。刑事裁判となった場合、有罪か無罪の判決となります。有罪の場合は、刑務所に行くか、執行猶予がついて社会生活に戻るかという判断になります。

その一方で、刑事裁判をできるだけの証拠が集まらなかった場合には、刑事裁判とならず、刑事事件としては終了ということになります。この場合には、別途、民事事件として損害賠償請求をしていくかどうかを考えることになります。

次に、被害者側が弁護士に依頼した方が良いかどうかですが、結論としては、被害者側も弁護士にご依頼した方が良いと思います。

その理由ですが、当事者やご家族が、今回の事案の見通し、加害者側の示談の条件の検討、被害者側から提示する条件の検討、お嬢様の心情面への配慮等に関して、法的に整理をして、冷静に判断することは、相当なご負担となります。さらに、当事者や親御様が相手方と対峙していくことは、精神的にも肉体的にもかなり疲弊すると思われます。

また、刑事手続の流れや民事の賠償等も含めて、今後の見通しや適宜の適切な対応等の見通しをつけることは、弁護士でなければ対応が困難なものです。

このように犯罪被害は、多角的に検討する事項があり、法的な整理だけでなく精神的な負担や労力、時間等の負担を減らし、メンタルケアも含め、適切な交渉等を交えて加害者側に対応していくためには、被害者側にも弁護士に入ってもらったほうが良いと考えられます。

なお、性犯罪等の一定の犯罪被害の場合、被害者の方の資力状況によっては、犯罪被害者援助制度を用いることで、弁護士に依頼する際の着手金の負担を軽減等することができます。

忘れてはいけない「最重要事項」

以上のご相談者の方の疑問以外に、こういった事件で最も重要なことは、繰り返しになりますが、法的なことよりも、被害に遭われたお嬢様のメンタルケアです。お嬢様ご本人にとって、肉体的にも精神的にも、周囲が想像する以上に大きな負担となっている場合が多く、その場合メンタルケアも必要になります。

お近くに心療内科等があれば、そちらに相談されることをお勧めします。また、警察署や検察庁においては、特に性被害に遭われた方のメンタルケアの担当者に繋げてくれることもあります。また、弁護士からメンタルケアの担当者に繋げてくれることもあります。なお弁護士に相談される場合には、お嬢様のメンタル面も最重要として配慮してくれる弁護士にご依頼されることを強くお勧めいたします。

被害者側の弁護士の探し方

被害者の方からは、被害者側の弁護士をどのように探せばいいのか、というお話を聞くことがあります。被害者の方がインターネット上で弁護士を探そうとしても、最初に出てくるのは加害者側の事務所だけ、という状態のためです。

実際に被害者側が弁護士に依頼する方法ですが、既に警察が捜査を開始している、検察庁に送致されているといった段階においては、警察や検察に弁護士に相談したい旨を伝えれば、弁護士会を経由して、弁護士に相談することができます。

まだ、被害届を出していない状況等、警察や検察が関与していない場合には、犯罪被害者の方のために、全国各地の弁護士会内での相談窓口、法テラスの相談窓口等があります。さらに、先に述べたように出てくるのは加害者側の弁護士が多いですが、インターネット上でも、犯罪被害者の事件に力を入れている弁護士もいますので、「犯罪被害者 弁護士」等検索の仕方を工夫して探してみられるのも良いと思います。

以上、今回のご相談内容をふまえて、ご回答差し上げましたが、お嬢様と親御様が1日でも早く平穏な生活を送られるようになることをお祈り申し上げます。

鮫島 千尋

弁護士

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