ジェフ千葉FW高木俊幸「自分が二人いるみたい」【現地取材】

高木俊幸 写真:浅野凜太郎

「サッカーはメンタルのスポーツである」という言説を度々目にする。下馬評を覆し下位チームが上位を打ち破る場合、技術や戦術はもちろん、メンタル要素が大きく関わっていると思われる。ジェフユナイテッド千葉のFW高木俊幸にとっても、メンタル面は重要な要素であるようだ。

6月22日にカンセキスタジアムとちぎで行われた2024明治安田J2リーグ第21節で栃木SCと対戦した千葉。プレーオフ圏内(6位)に到達するため何としてでも勝ち点3が欲しい千葉は、前半14分にFW田中和樹のゴールで先制点をマークした。前回対戦(第8節)で8-0と大勝している相手であるだけに、どことなく勝利のムードが流れはじめる。しかし、栃木はその隙を見逃さなかった。

千葉は33分にGK藤田和輝のパスミスから失点すると、後半70分にヘディングを決められ逆転を許す。その後も栃木の堅守を崩すことができず2-1で敗退。この試合に先発出場していた高木に、翌日の公開練習で話を訊いた。


高木俊幸 写真:浅野凜太郎

勝敗の鍵となるメンタリティ

試合前に小林慶行監督が警戒していた「栃木のメンタリティ」が持つ脅威が現実となってしまった。相手が前回の大敗をエネルギーにして挑んできたこの試合は、サッカーにおけるメンタルの重要性をよく表している。そして高木自身もまた、メンタルの重要性を痛感していた。

「試合が終わってミックスゾーンから帰ろうとしたとき、相手のロッカールームが見えたんです。何気なく奥に目をやると『あの悔しさは絶対に忘れない』と書かれた横断幕が貼ってあって、栃木がこの試合にかけていた気持ちを再確認しました。もちろん警戒はしていましたが、自分たちが先制点を取ったことで無意識のうちに油断が生まれていたのかもしれません」

高木は今シーズンの前哨戦とも呼べる『ちばぎんカップ2024』の柏レイソル戦に先発出場し、1-2の勝利に貢献。リーグ開幕戦(対モンテディオ山形2-3)でもスタメン入りを期待されていたが、初のスタメン出場を掴んだのは第18節のファジアーノ岡山戦(2-1)だった。高木はこの過程を、プロキャリアのなかでも最もキツイ期間のひとつだと位置づける。

「遡ると去年(2023シーズン)からになります。自分としても結果を追い求めたシーズンでしたが、なかなか活躍できず昇格も逃してしまったことでネガティブな気持ちになってしまった。ジェフに来てからチーム内におけるキャリアも上になってきて『しっかりしなきゃ』という責任感を今まで以上に感じるようになっていましたが、そのプレッシャーを上手に消化できなかったんです。プロとして長い間やっているからこそ『こんなミスは許されないだろう』とか『こんなシュートも決められないようじゃダメだ』とか、どんどん負のスパイラルが生まれていって、そこから抜け出せなくなりました」

「今年は気持ちを新たにして入ったつもりでしたし『ちばぎんカップ』ではスタメン出場して試合にも勝てた。良いプレーも出せてはいましたが、そこから練習していくなかで徐々にコンディションのバラつきが生まれ、思うように気持ちと身体が繋がらない自分に対してネガティブになってしまいました」と栃木戦前の囲み取材で語っていた。

高木俊幸 写真:Getty Images

「自分が二人いるみたい」

ネガティブなメンタルで試合に臨むことは、プレーに様々な悪影響を及ぼす。高木の場合、自身の持ち味であったシュートへの積極性を失わせた。

「難しく考えすぎていて、当たり前のプレーができない状態でした。とにかくミスをしないように立ち回ることだけを考えてトライできずにいた。特にシュートを外すことに対してナーバスになっていたので結果的にクロスの選択が増えていましたが、それだけだとFWとして怖さがないことは明らかです。相手からしても、何か仕掛けてくる選手だと常に思われていないといけませんから」

続けて高木は自身のメンタルに触れた。「自分のメンタルは極端すぎて、まるで自分が二人いるみたいな感覚。メンタルが良くないときのパフォーマンスは『本当に自分か?』と疑うくらい酷いと思います。今シーズンも『もうダメかもしれない』と思うときがありましたし、メンタルの部分はアマチュア時代から続く自分の短所だと思います」と苦戦を強いられたシーズン序盤を回顧した。

初スタメンとなった第18節までの出場時間はわずか128分(リーグ戦のみ)に留まり、ゴールやアシストといった結果も出せずにいた高木。33歳という年齢を考慮すれば、スタメンの機会が失われても仕方ないのかもしれない。しかし、日々の練習から貪欲に持ち前のクオリティを発揮し続けていた高木を信頼したからこそ、小林監督はチームとして重要な位置づけであった岡山戦に先発出場させたのだろう。このような場面でプレー機会を与えられたことにより、高木は徐々に本来の持ち味と自信を取り戻していった。そして迎えた6月12日。天皇杯第2回戦(対中京大学)に先発すると、1ゴール1アシストの活躍でチームを勝利に導いた。

「周りの人に支えてもらい、なんとか腐らずにやってこれました。その結果として少しずつ試合に出れるようになり、天皇杯では結果も出せたと思います。その意味では自分を評価したいですし、またひとつ自信に繋がりました」と前向きな言葉を残している。


高木俊幸 写真:浅野凜太郎

「どんな相手にとってもチャレンジャー」

高木自身が短所であると語ったメンタル面。裏を返すと、そこさえクリアできればスーパーなFWになり得る。「メンタルが上振れたときには自分でも評価のできるパフォーマンスができると思っているので、その振れ幅を小さくしていかなければいけません。フィーリングは良くなっていますが、もっと怖さを出せる選手にならなければいけない。ゴール前に侵入して得点に絡みだすことで余裕が生まれると思います。その余裕から、いい意味で遊び心をもったプレーができれば、より柔軟な発想が生まれる。そのような好循環の中に身を置ければ、何でも試してみようと思える強い自分になれます」と、短所を克服することで到達できる上のステージを見据えていた。

千葉は6月30日に鹿児島ユナイテッド(現16位)、7月6日に清水エスパルス(現3位)、14日にロアッソ熊本(現18位)と対戦するが、いずれのチームにも前半戦では勝てていない。「同じ相手に何度も負けられないことは確かですが、そこにこだわりすぎてもいけないと思っています。栃木戦では自分たちがチャレンジャーであるという意識が前回対戦によって薄れていたのかもしれない。今の僕たちは、どんな相手にとってもチャレンジャーですし、その姿勢をブラさずにやっていきたい」と高木が語るように、栃木が魅せたチャレンジャーとしてのメンタリティーを、今度は千葉が持つ番だ。

サイドのアタッカーとして再び相手の脅威となるプレーを見せている高木の自信は、試合を重ねるごとに増している。現在の自分を「変にミスを恐れず、大胆にいられるメンタル」と分析した高木。それはまさにチャレンジャーそのもの。ベテランの年齢となった高木だが、チームと共にチャレンジャー精神を携え後半戦に向かう。

© フットボール・トライブ株式会社