脱北者が祖国へ飛ばし続ける「スマート風船」、ビラの配布地域や頻度を遠隔制御

北朝鮮に飛ばす「スマート」風船を制作する脱北者のチェさん(仮名)/Yoonjung Seo/CNN

韓国・ソウル(CNN) 韓国の活動家や脱北者は長年にわたり、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記を批判するプロパガンダのビラや、Kポップの曲、韓国のテレビ番組を記録したUSBメモリーを運ぶ風船を北朝鮮に飛ばしてきた。これらはすべて北朝鮮では厳しく禁止されている。

北朝鮮は5月以来、対抗措置としてゴミや廃棄物、寄生虫をくくりつけた1000個以上の風船を韓国に向けて飛ばしており、総書記の妹の金与正(キムヨジョン)氏が今後の「困難」について警告するなど緊張が高まっている。

北朝鮮改革開放委員会の共同創設者であるチェさん(仮名)は、祖国に風船を送り続けると誓った脱北者の一人だ。

チェさんらがソウルのアパートで作る風船は、衝突したり破裂したりすると運んでいるものが無作為に散乱する初歩的な風船から一歩進んだものだ。

GPSトラッカーを搭載したこの次世代「スマート」風船は、飛行距離が数百キロに及ぶこともあるが、チェさんはリアルタイムで監視できる。追跡データによると、はるばる中国まで漂流した風船もあった。

チェさんらが作る楕円(だえん)形の風船はプラスチック製で大きさ約12~13メートル。水素が充塡(じゅうてん)されているという。プラスチックの厚みを慎重に検討したことで風に耐え、一部の水素を自然に抜けさせることができるため、風船の高度を制御できる。

風船に取り付けられたセンサーと小さな回路基板によって、気球は高度を保ちながら一定の距離を移動できる。チェさんによると、風船は高度が4000メートルを超えるとビラの自動配布装置が適切に機能しなくなるため、高度が高くなりすぎたときでも投下できるようビラを詰めた予備の袋も用意している。

チェさんは「金正恩氏の神格化が崩れれば、北朝鮮は変わることができると信じている。スマート風船を飛ばすことがそれを達成する方法だ」と語る。

風船にはさまざまな種類がある。ある風船には結束バンドと接着剤で固定された小さな拡声器が取り付けられている。風船は拡声器から「北朝鮮は労働党が廃止された場合にのみ生き残ることができる」というプロパガンダを鳴り響かせながら飛んでいく。

ビラの自動配布装置が取り付けられる場合もある。約1500枚のビラを運ぶことができ、タイマーと高度調整装置によってすばやくビラをはき出せる。

チェさんは「我々はビラを50~300キロに及ぶ広範囲にばらまく方法を考案したため、北朝鮮当局がビラをすべて回収するのは非常に難しくなった」と話す。この方法を使うと300メートルや1キロごとにビラが落ちるように制御でき、より多くの人にチラシを見てもらうことができるという。

さらにこのスマート風船は風速と風向に基づいて特定の地点でビラをはき出し始めるように設計されているため対象地域内で配布できるうえ、配布頻度も制御できる。

チェさんは一部の部品は購入しているが、残りの部品は3Dプリンターで作成している。風船1個を作るのに約700ドル(約11万円)かかるという。

チェさんがこの活動に取り組む動機は、家族がまだ北朝鮮に住んでいることだという。

こうした取り組みをやめるよう活動家らに促した韓国の人々に対し、チェさんは1980年代に韓国が民主化するまでの数十年にわたる独裁体制を引き合いに「私たちの活動を批判する人たちは『韓国の独裁政権維持に協力しよう』と言っているようなものだ」と怒りをあらわにした。

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