「彼は何が必要なのかわかっていた。MVPなんて気にしていなかった」ヤングがプレーオフ前のテイタムとの会話を明かす<DUNKSHOOT>

ボストン・セルティックスの主砲ジェイソン・テイタムは今季、キャリア7年目にして初めてリーグの頂点へ上りつめた。

これまでオールスターに5度、オールNBAチームに4度名を連ねてきたフォワードは、今夏に超巨額契約を結ぶ見込みで、パリオリンピックのアメリカ代表ロスターにも名を連ねている。

今季は平均26.9点、8.1リバウンド、4.9アシストの好成績を残したようにその能力は誰もが認めるところだが、シーズンMVPの投票では1位票なしの計86ポイントで全体6位に甘んじ、さらにイースタン・カンファレンス・ファイナルMVPとファイナルMVPは相棒のジェイレン・ブラウンが受賞している。

MVPに票が集まらなかった要因として、チームはにブラウンのほか、ドリュー・ホリデーやデリック・ホワイト、アル・ホーフォード、クリスタプス・ポルジンギスといった超強力な選手たちが揃っていたことが挙げられる。

ゴールデンステイト・ウォリアーズのドレイモンド・グリーンは今年のオールスター期間中に出演した『TNT』の番組内でこう指摘していた。

「最初のチャンピオンシップを勝ち獲るまで、JT(テイタム)がMVPになるとは思えない。これまでにファイナル、それにイースタン・カンファレンス・ファイナルでも負けてきたから、彼ら(投票者)がリスペクトしていないんだろう。だがそれはアンフェアだと俺は思うね。彼はずっとMVP級のシーズンを送っているんだから」
過去6シーズン、MVPは海外出身選手たちが独占。2019、20年はギリシャ出身のヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)、2021、22、24年はセルビア出身のニコラ・ヨキッチ(デンバー・ナゲッツ)、2023年はカメルーン出身のジョエル・エンビード(フィラデルフィア・セブンティシクサーズ)が選ばれている。

とはいえ、アデトクンボが初優勝したのは2021年、ヨキッチは23年で、彼らはいずれもリーグ制覇の前にMVPを手にしてきたのだから、テイタムは正当な評価を受けていないと見ることもできる。

そんななか、アトランタ・ホークスのトレイ・ヤングが自身のポッドキャスト番組『From the Point』で、プレーオフ前にテイタムと交わした話の内容と、優勝について言及した。

「彼はチャンピオンシップを勝ち獲れたら、次の年にはMVPの最有力候補になれるんだとわかっていたよ。ジェイ(テイタム)と話した時、彼は何が必要なのかわかっていた。レギュラーシーズンMVPなんてまったく気にしていなかった。チャンピオンシップを勝ち獲りたかったのさ。

彼のことを思うと(優勝は)嬉しいよ。ついにやったんだ。これでおそらくみんなが彼のことをさらに称賛するだろうから楽しみだね。それこそ、チャンピオンになったことで得られる恩恵なんだ」
もっとも、『Vegas Insider』によると現時点における来季のMVPオッズではヨキッチとルカ・ドンチッチ(ダラス・マーベリックス)が+380で1位タイ、続いてシェイ・ギルジャス・アレキサンダー(オクラホマシティ・サンダー)とアデトクンボ、エンビードが+550で並び、テイタムは+1500で6位タイとなっている。

今年のプレーオフで圧倒的な強さを見せたセルティックスだが、ファーストラウンドではマイアミ・ヒートのジミー・バトラーとテリー・ロジアー、セカンドラウンドではクリーブランド・キャバリアーズのジャレット・アレンが全休し、ドノバン・ミッチェルも途中で離脱。カンファレンス・ファイナルでもインディアナ・ペイサーズのタイリース・ハリバートンが最後の2試合は離脱していたこともあり、“ラッキーな勝ち上がり”と見る意見もある。
テイタム自身もそういった声を耳にしていて、ファイナル期間中に「僕らは全員が揃った状態の相手と対戦していなかったと言ってくるだろう。だから来年もやってみせるさ」と語っていた。

セルティックスのタレントの多さゆえに個人としての評価は高くないものの、来季もチームをカンファレンス1位に導くことができれば、テイタムにもMVPのチャンスが巡ってくるはずだ。

文●秋山裕之(フリーライター)

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