「私はだまされない!」 自信があっても詐欺被害にあう人に「欠けている」モノ

【脳科学者が解説】詐欺被害のニュースを見たときに、「何でこんな詐欺にひっかかるんだろう?」と思っていませんか? そうだとしたら、あなたは詐欺にひっかかりやすいタイプです。そう言える理由を、わかりやすく解説します。

詐欺被害のニュースを見聞きしたときに、「なんでこんな簡単なウソにひっかかるのかしら?」「自分ならすぐ詐欺だとわかる」と感じていませんか? もしそうなら、あなたは実は「最も詐欺にひっかかりやすいタイプ」です。その理由を解説します。

「思考停止」に陥ることが、詐欺被害の入り口

詐欺師はどうやって人をだますのかというと、まずあらゆる手口を使って、相手を「思考停止」に陥らせようとします。 たとえば、離れて暮らす息子を持つ人に、いきなり「オレだよ! ちょっと助けてほしいんだ」と慌てた様子で電話がかかってくると、少し声が違ったとしても、親は「急いで助けてあげないと!」と焦り、疑うことをやめてしまいます。 疑うことをやめた時点で、思考が停止します。 PC上に大きなアラートの音とともに「ウイルス感染が検出されたので至急対応が必要です!」といったメッセージが出た場合も、「このまま情報が流出したら大変だ!」と慌ててしまうでしょう。 焦りから、メッセージの真偽を疑うことをあきらめた状態です。この時点で、やはり思考が停止してしまうのです。 よくわからない電話がかかってきたときに、とりあえず「知らない」と答えていればよいと考える高齢者も多いと聞きますが、その対応も詐欺師の思うつぼです。 その時点でしっかり考えずに、思考停止していることを自ら露呈しているからです。相手の話を拒絶しているようで、すでに罠にはまっています。

「メタ認知力の欠如」が招く詐欺被害……日常からあらゆる可能性を考える習慣を

他の人が詐欺被害にあっているのを見聞きしたときに、反射的に「自分は大丈夫!」と思うことも、これらの思考停止と実は同じ状態なのです。 「もしかしたら自分も同じような目にあうかもしれない」「詐欺にあわないために、もしものときにどうすべきかを考えておこう」ということを、いち早く放棄して、考えることをやめてしまっているからです。 自分が置かれている状況を、俯瞰した視点から客観的に認める能力を一般に「メタ認知力」と言います。 「自分は大丈夫」と思ってしまうタイプの人は、自分が「大丈夫か、大丈夫じゃないか」を客観的に判断しようとしていない点で、すでにメタ認知力が欠けていると言えます。 人に騙されないためには、「自分は決して大丈夫ではない」「自分の考えは間違っているかもしれない」「他に可能性はないか」という意識を常に持ち、考え続けることをやめてはいけません。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。 (文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))

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