高体連や大学のサッカー部に所属する選手でもJリーグの試合に出場できる特別指定選手制度。
もともとは高校生がより高いレベルでプレーする機会を得られるように創設された制度で、1998年に「強化指定選手制度」として始まった。2003年からは現在の名称に変更され、大学生にも門戸が開かれている(2018年からはプロ内定選手のみ登録できる)。
今年は、19歳ながら2027年からの横浜F・マリノス加入が内定し、特別指定としてここまで6試合1ゴールを記録している慶応大学の塩貝健人が大きな話題となっている。
塩貝は6月に行われたモーリスレベロトーナメント(旧トゥーロン)にもU-19日本代表として参加し、イタリア相手にハットトリックを達成するなど大会得点王に輝いた。
そこで今回は、歴代の特別指定選手の中からその指定期間に最も鮮烈な活躍をした「最強の選手たち」をご紹介しよう。塩貝は彼らを超えられるだろうか。
平河悠
現所属:町田ゼルビア
特別指定:町田ゼルビア(J2/17試合2得点2アシスト)
今やJ1首位の快走する町田ゼルビアの核弾頭であり、パリ五輪のメンバー入りも有力視されるアタッカー。
高校時代は無名で卒業後は就職を考えていたが、山梨学院大から声がかかりサッカーを継続。すると身体的な成長に合わせてスピードが急激に伸び、越境参加する東京都1部リーグで2、3、4年時に3年連続得点王に輝いた。
その活躍が当時J2だった町田ゼルビアの目に留まり練習参加。3年生だった2021年9月には2023年シーズンからの加入内定が発表し、同時に特別指定が承認されて最終戦でJリーグデビューした。
翌年も引き続き町田に特別指定され、大学と町田を行ったり来たりするハードなスケジュールながら16試合2得点を記録している。
相馬勇紀
現所属:カーザ・ピア(ポルトガル)⇀名古屋グランパス
特別指定:名古屋グランパス(J1/9試合1得点3アシスト)
小学生の頃から町クラブの三菱養和SCで個人技を磨いた相馬。東京五輪ではコンディション不良の三笘薫に代わって左サイドで躍動し、カタールワールドカップにも滑り込みでメンバー入りを果たした。
童顔と丸っこい体が特徴で愛称は「ドラミちゃん」。ただ両親は共にテニス選手として活躍したというアスリート一家で運動能力は高い。また強靭なメンタルと優れた分析能力を持ち、それが途中出場での活躍や大舞台での強さに繋がっている。
その戦術眼はプロ入り前からも発揮された。2018年、早稲田大学の4年生になった相馬は4月に名古屋の練習に参加する。当時の名古屋はパスサッカーを標榜する風間八宏(現南葛SC)体制で独力での突破を武器にした相馬との相性は悪かったが、彼は逆にこれを「チャンス」と捉えたのだ。
この読みは見事に的中し、翌月には名古屋入りが内定。大学が夏休みに入った8月から継続的にチームに帯同すると、初出場から2試合連続アシストという鮮烈なデビューを飾った。出場した9試合は8勝1分と無敗で「相馬が出れば負けない」という不敗神話も生まれている。
松田力
現所属:愛媛FC
特別指定:大分トリニータ(J1/9試合4得点)
愛媛FCで昨年13ゴールを決め、J3の最優秀選手賞を受賞した松田力。父親はインドネシア人で、双子の兄である松田陸は現在ガンバ大阪でプレーする。
立正大学淞南高校からびわこ成蹊スポーツ大学へ進学し、3年時に関西学生サッカーリーグ1部で25得点をあげ得点王に。その活躍により2013年5月、大分トリニータから特別指定された。
試合への出場は7月から大学のリーグ戦が始まる8月末までという短期間だったが、9試合の出場でチーム2位の4得点を記録した。これは当時、特別指定選手の最多得点記録である。
しかも得点した相手は名古屋グランパス、浦和レッズ、横浜F・マリノスと強豪ばかり。複数クラブの競合の末、2得点を記録した名古屋でプロ入りしている(当時は特別指定以外のクラブに加入することが可能だった)。
藤井智也
現所属:鹿島アントラーズ
特別指定:サンフレッチェ広島(J1/15試合0得点)
今季計測した「トップスピード」はJ1全体で2位となる35.4km/h。Jリーグ最強クラスのスピードを持つ藤井だが、中学・高校と全く無名の存在だった。
ただ高校時代に身長が伸びたことで脚力も50m5秒9へと急成長し、活躍するための土台は整っていた。スポーツ推薦で入学した立命館大学では1年次から頭角を現し、3年時の関西学生サッカーリーグ1部ではアシスト王とベストイレブンを獲得。
2019年7月に行われた天皇杯2回戦で格上の横浜F・マリノスからアシストを記録し、これがJクラブの評価を高めた。翌年1月、2021年からのサンフレッチェ広島加入が内定し、同2月に特別指定選手に承認された。
2021シーズンは広島と京都を行き来するという難しい状況ではあったが、城福浩(現東京ヴェルディ)体制で先発2試合を含む15試合に出場している。
松尾佑介
現所属:浦和レッズ
特別指定:横浜FC(J2/21試合6得点5アシスト)
Jリーグ屈指のスピードスターも、“最強の特別指定”候補であろう。
中学年代から浦和レッズのアカデミーに所属するが、当時は昇格はおろか大学強豪への進学も難しい状況だったという。しかしあえて関東を離れたことが功を奏し、仙台大学時代に大化け。2019年6月、翌年からの横浜FC入りが内定し、同21日には特別指定選手に承認された。
ここからはまさにサクセスストーリーで、J2で21試合6得点5アシストと大暴れ。松田力が持っていた特別指定選手のリーグ最多得点記録を更新した。
横浜FCは松尾加入後、23試合17勝5分1敗という快進撃でJ1昇格を決めている。横浜FCで大活躍した松尾は、2022シーズンに古巣・浦和への復帰を果たした。
野田裕喜
現所属:柏レイソル
特別指定:ロアッソ熊本(J2/5試合0得点)
特別指定として出場した数は決して多くないものの、野田裕喜もここに加えておきたい。
大津高校時代に平岡和徳監督から「サッカー選手じゃなければK-1選手になれる」と言われた大器は、2年時にJ2のロアッソ熊本から特別指定として登録され、同年1試合、翌年4試合の計5試合に出場した(全て先発)。
ここまで紹介した5名は全て大学生の時代に活躍した選手たちで、しかもほぼ全員がサイドを得意とするアタッカー。特別指定の選手はチームに溶け込む時間が短いため、指定期間に限れば単独で仕掛けられる高い個人能力を持った選手が有利なのだろう。
そんな中で高校時代に特別指定され、馴染むのが難しいセンターバックというポジションながら出場した野田は異色の存在であり、「5番」という小さな背番号もそれを際立たせていた。