【阪神】高卒3年目の前川右京が〝オッサン受け〟する理由 川藤OB会長は「放っておいても育つ」

川藤幸三OB会長に(右)にあいさつする前川右京.

阪神・前川右京外野手(21)が27日の中日戦(甲子園)に「5番・左翼」として先発出場し、4打数2安打3打点。勝負強さが際立つ打撃で8―1の大勝劇に貢献し、岡田彰布監督(66)の指揮官通算700勝に花を添えた。高卒3年目の若さながら、どこか野武士のような古風な雰囲気を漂わす虎の背番号58は、当然ながら〝昭和のオッサン受け〟も抜群。偉大な虎OBたちからの薫陶を日々受けながら成長中だ――。

2本の美しいラインドライブが、相手外野手の頭上を越えていった。1―0と先制に成功した直後の7回無死一、二塁。相手左腕・斎藤と対峙する形となったが「前川にバントさせてもしょうがない」とベンチの岡田監督は強攻策を指示。カウント1―1からの変化球を右方向へ思い切りよく引っ張ると、二走・森下は2点目のホームを踏むことに成功した。

無死満塁の絶好機で巡ってきた8回の打席では低めの変化球を器用にすくい上げ、中越えの2点適時二塁打。ダメ押しの一撃でリードを7点に広げ、チームの勝利を決定的なものにした。

「そのままでええんよ」。この日の阪神の試合前練習をいつものように一塁側ベンチ最前列で眺めていた川藤幸三OB会長は、あいさつに訪れた前川と一言二言会話を交わした後、柔和な笑顔で失意の後輩をこう励ましていた。

前川は前夜のカード第2戦で、カウント3―1からの5球目を「待て」のサインが送られていたにもかかわらずバットを振りに行き二塁打。結果こそ残したものの、指揮官からは「罰金やん」と苦言を呈されるホロ苦い一日となっていた。

とはいえ74歳の川藤会長からすれば、どこか不器用そうで、どこまでも愚直な前川の人となりがかわいくてかわいくて仕方ないらしい。「人間性ができとるやんか。あいつは放っておいてもしっかり育つタイプの選手よ。外野守備なんか慣れていけば勝手にうまくなるわい」。浪速の春団治が前川について語る時、コワモテの目尻はいつも自然と下がる。

「浮ついたとこもまるでないヤツやしの。もし浮ついたマネしとったらワシがしばいたるわ!」。53の年齢差はまさに祖父と孫。当然ながら血縁関係はないが、赤よりも濃い黄色と黒の〝虎の血〟で2人は深くつながっている。

岩石のように硬く巨大なヒップと、野球のためだけにパンパンに膨れ上がった太ももにホレ込んでいるのは岡田監督も同様だ。この日の試合後も「あんなんで罰金取ってたら、今年なんぼ罰金取らなアカンのや。何言うてんのオマエ」と前川をフォロー。クセが強すぎて、おっかなくて、本当は優しい昭和のオッサンたちにもまれながら、令和の現役虎戦士はチームの魂を受け継いでいく。前川右京にはそれだけの器がある。

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