Snapdragon Xで旧アプリやゲームはどのぐらい動く?Surfaceで検証してみた

by 石田 賀津男

Surface Laptop 13.8インチ(第7世代)

6月18日に発売されたCopilot+ PCには、CPUに「Snapdragon X」が搭載され、Arm版Windows 11がインストールされている。

「AIによるPCの大変革が始まる! 」として盛り上がりを見せているが、そうは言ってもWindows PCには違いなく、AIがあれば仕事も遊びも万全という話ではない。今まで使っていたWindowsアプリが引き続き使えてこそのPCである。

であれば、実際にどのアプリが動くかを試してみよう。「Surface Laptop 13.8インチ(第7世代)」を使用し、筆者が普段使用しているアプリを中心に、正しく動作するのかを検証してみた。

この検証でもって読者の皆様が思う「私も安心して使えるのか?」の答えになるわけではないが、傾向と対策くらいは見えてくるのではないかと思う。

「Prism」が動作の鍵

検証環境となる「Surface Laptop 13.8インチ(第7世代)」のスペックは下記のとおり。

今回使用する機材は、CPUがSnapdragon X Elite(12コア)、メインメモリが16GB、SSDが512GBの構成で、価格は27万9,180円となる。

Windows 11のバージョンは24H2となっており、最新のエミュレーターとなる「Prism」が搭載されている。従来のものに比べて、x86およびx64のアプリのパフォーマンスが大幅に向上しているという。つまりx86、x64アプリはともに動作可能だということだ。ユーザー側がエミュレートを意識する必要もなく、従来どおりの操作でインストールし、実行すればいい。

ただしエミュレートするのは「ユーザーモード」のコードのみで、ドライバはサポートされず、カーネルモードコンポーネントはArm64としてコンパイルする必要があるとされている。……と難しいことを並べたが、ざっくり言えば、一般的なアプリは基本的には動作するはずだ。

ということで、順に試していこう。

仕事に使うアプリをチェック

テキストエディタ

執筆業の筆者にはこれが一番大事。筆者は長年「TeraPad」を愛用している。試してみると、インストールからテキスト入力、保存まで、何の違和感も問題もなく使用できた。

「TeraPad」

テキストエディタで有名な「秀丸」も試してみたが、こちらも保存まで問題なし。さすがにここまで軽量小型のアプリでは困ることはなさそうだ。

「秀丸」

画像処理

次は撮影した写真や動画を扱うアプリ。筆者は画像処理を「GIMP」で行っている。こちらはテキストエディタよりかなり大型で読み込みにも時間がかかるプログラムだが、使用上は何の問題もなかった。

「GIMP」

また複数の画像のリサイズやフォーマット変換に便利なツール「Ralpha」や、動画からの静止画切り出しに重宝する動画再生アプリ「VLC」も問題なく動作した。

「Ralpha」
「VLC」

Office

「Surface Laptop」のユーザーなら普通は純正のOfficeを使うと思うが、互換性チェックとして「LibreOffice」をインストールしてみた。ワープロの「Writer」、表計算の「Calc」、プレゼンの「Impress」はいずれも問題なく動作した。

多彩な機能を持つOfficeアプリが無事に動いたことは安心感があるが、細かい1つ1つの機能が万全に動作するかどうかは確認しきれていないので、あくまで「基本的な動作に問題はなかった」という確認までとさせていただく。

「LibreOffice」の「Writer」
「LibreOffice」の「Impress」

Webブラウザ

標準アプリの「Microsoft Edge」がChromiumなので「Chrome」は当然動くであろうと想像しつつインストールしてみると、Arm64版が入っているのを確認できた。もちろん動作に問題はない。

「Chrome」

Chromium以外のWebブラウザということで、「Firefox」もインストールしてみた。これも何ら問題なく動作した。ついでにメーラーの「Thunderbird」も試してみたところ、IMAPでのメール受信を確認できた。

「Firefox」
「Thunderbird」

FEP(Google日本語入力、ATOK)

FEPについては、長年「ATOK」を使用しているという方も多いだろう。筆者は仕事上、他人のPCを触ることが多く、標準の「Microsoft IME」に体を慣らす道を選んだ。ともかく「ATOK」をインストールしてみたところ、正しくキーボードレイアウトに登録されるところまでは確認できた。ただし、制限からWindowsのUIやArm64アプリへの入力はできない。

「ATOK」

FEPではもう1つ、「Google日本語入力」も試してみたが、こちらは「更新確認エラー」と出てインストールできなかった。Armベースで動くAndroidでは標準となっているGoogle日本語入力が、こちらではインストールもできないというのは皮肉な話だ。

「Google日本語入力」のインストールは中断される

メッセンジャー

仕事上、あるいはプライベート用の連絡ツールとして多数のメッセンジャーアプリを併用しているので、いくつかを試した。

「LINE」のデスクトップアプリは、インストールからメッセージのやり取りまで問題なく動作した。

「LINE」

またゲーマーがよく使用する「Discord」も起動を確認。筆者は仕事で一度使ったきりでどこにも参加していないのだが、特に問題がありそうには見えなかった。

「Discord」

あとは既にマイナーになったIRCのツール「LimeChat」。最終更新から12年以上が経った古いアプリだが、こちらもサーバーへの接続からチャットまで問題なく動作した。

「LimeChat」

オンラインストレージ

ファイルのやり取りなどに使用するオンラインストレージ。Windows標準の「OneDrive」はもちろん最初から入っており、動作も問題なく、いつも通りに利用できる。

「Dropbox」もデスクトップアプリを試してみたところ、こちらもインストールから実行、クラウド上のファイルの確認まで問題なく動作した。この辺りのアプリは動作に問題があればストアアプリ版を試すという選択肢も考えていたのだが、その必要はなかった。

「Dropbox」

システム監視等

システムのチェックや監視に使うアプリも見ていく。ストレージの状態確認ツール「CrystalDiskInfo」は、起動からS.M.A.R.T.の情報まで問題なく確認できた。インストールされたのはArm64版のようで、動作にも信頼がおける。

「CrystalDiskInfo」

CPUの詳細な情報を見られるツール「CPU-Z」も、Arm64版が用意されている。こちらを使えば当然動作する。IntelとAMD以外のCPUが「CPU-Z」の画面に出るのは新鮮な気分だ。

「CPU-Z」

システムの各種センサーを監視するツール「HWiNFO64」は、インストーラを実行すると自動で32bit版の「HWiNFO32」が選択され、インストールされたフォルダを見ると、なぜか実行ファイルが入っていなかった。

「HWiNFO32」がインストールされたが、実行ファイルが見当たらない

ゲーム環境としては?

次はゲームアプリを試していく。ゲームと言えばDirectXだが、「Snapdragon X Elite」はDirectX 12に対応している。ただしDirectX 12 Ultimateには非対応なので全ての機能を活用できるわけではない。

「Dxdiag」で確認すると、DirectX 12に対応している

Xbox

Windows標準のゲームプラットフォームとして用意されている「Xbox」は、Arm版Windows 11にも用意されている。ただし中身はクラウドゲーミングの項目しかなく、購入済みのゲームのインストールもできない。

「Xbox」はクラウドゲーミングのみ対応

マインクラフト

「Xbox」が使えない場合は、「Microsoft Store」からダウンロードする。世界一売れたゲームことサンドボックスゲーム「マインクラフト」も、「Microsoft Store」からダウンロードが可能。ゲームも問題なく動作した。

「マインクラフト」

Epic Games Launcher

FPS「Fortnite」をプレイするのに必要になるPCゲームプラットフォーム「Epic Games Launcher」。こちらもインストールは問題なく終了する。

ただし「Fortnite」は、インストールは完了するものの、起動時に「ARM64 CPU is not supported.」という無慈悲なエラー表示が出て、起動できない。

「Fortnite」を起動するもエラー

EA App

FPS「Apex Legends」をプレイするのに必要になるPCゲームプラットフォーム「EA App」。インストールは問題なく終了。

続いて「Apex Legends」をダウンロードし、起動するも、「Fortnite」で見た「ARM64 CPU is not supported.」の文字が再び。全く同じ表示内容であることから、チート対策プログラム「Easy Anti-Cheat」が遮断しているように見える。数十GBのダウンロードが2つも無駄になって悲しい。

「Apex Legends」も起動時エラー

Diablo IV

伝統的ハック&スラッシュシリーズの最新作「Diablo IV」。プラットフォームの「Battle.net」をインストールし、本作をインストールする。ゲームを起動し、フィールドにキャラクターが登場するまでは進んだのだが、直後にPrismがエラーを出して終了してしまった。何度か試したが、プレイできるまでには至らなかった。

「Diablo IV」は起動するもエラーで強制終了

ファイナルファンタジーXIV

国産MMORPGの代表格となった「ファイナルファンタジーXIV」。インストールからログイン、ゲームプレイまで、問題なく動作する。ちょうど復帰キャンペーン中だったので、筆者は数年ぶりにキャラクターを動かした。フレームレートは低めだが、ウルダハ(初期の街)を歩く程度なら不自由しない。チャットも可能だ。

「ファイナルファンタジーXIV」

Steam

PCゲームプラットフォームの筆頭である「Steam」は、難なくインストールできる。「Steam」からのゲームのインストールも、もちろん可能だ。

「Steam」

Cyberpunk 2077

以下は「Steam」からインストールしたタイトル。PCゲームのベンチマークとしてもよく使われる「Cyberpunk 2077」。正しく起動し、ベンチマークも完遂した。ただし動作は重く、低画質設定でもプレイは現実的ではない。

「Cyberpunk 2077」のベンチマークを完走

モンスターハンターライズ

世界的にも人気が高まっているハンティングアクション「モンスターハンターライズ」。インストールが完了し、「Steam」アプリから起動しようとするも、画面に何の反応もないまま起動プロセスが終了してしまう。エラーメッセージも出ない。よって原因については不明だ。

ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON

ロボットアクション最新作「ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON」。インストールして起動すると、「サポートされていないホストマ□□□ンのアーキテクチャ。(ARM64)」という文字化け含みのエラーが表示される。本作は「Easy Anti-Cheat」を採用しているため、「Fortnite」などと同様にブロックされているようだ。

「ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON」はもう見慣れた起動時エラー

Wizardry: Proving Grounds of the Mad Overlord

名作ダンジョンRPGの1作目を現代風にリメイクした「Wizardry: Proving Grounds of the Mad Overlord」。インストールからゲームプレイまでしっかり動作する。戦闘で若干カクつくこともあったが、そのほかは動作も滑らか。

「Wizardry: Proving Grounds of the Mad Overlord」

ファイナルファンタジーIV ピクセルリマスター

スーパーファミコンで発売された作品を2Dベースでリメイクした「ファイナルファンタジーIV ピクセルリマスター」。起動からゲームプレイまで何ら問題なく動作する。2Dベースで動作も軽く、本機でも快適にプレイできる。

「ファイナルファンタジーIV ピクセルリマスター」

GeForce NOW

クラウドゲーミングサービス「GeForce NOW」。アプリのインストールから起動に問題はなく、クラウドゲームも正しく動作する。これを使えば、実機では起動すらしなかった「Fortnite」も何ら問題なくプレイできる。本機は高速/安定なWi-Fi 7を搭載しているので、クラウドゲーミングはヘビーな3Dゲームをプレイする際の1つの選択肢と言える。

「GeForce NOW」上で「Fortnite」を動かせた

ベンチマークテストも試す

最後はPCのレビューで活用しているベンチマークテストを各種試してみたい。

UL Procyon

本機はAI PCを名乗るCopilot+ PCなので、「UL Procyon」に搭載されたAI系ベンチマークを試せればと思ったが、「AI Computer Vision」はx-64ベースのデバイス向けとされ実行できず。「AI Image Generation Benchmark」はArmベースのデバイス向けではないと警告が出るが実行は可能。ただしテストを実行しても途中で進行が止まり、テストを完遂できなかった。

「UL Procyon」の「AI Image Generation Benchmark」。一見動作するが完遂できない

PCMark

PCのベンチマークでは定番の「PCMark」は、テストは開始できるものの、テストの最中に何を勘違いしたか、本物の「Powerpoint」が起動してしまい、テストが異常終了してしまう。「Powerpoint」をアンインストールすれば正常動作するかもしれないが、普通のPCならこうはならないので、何かがおかしいのは確かだ。

「PCMark」は途中で動作がおかしくなる

3DMark

3D処理のパフォーマンスをチェックする「3DMark」。DirectX 12 Ultimateやレイトレーシングが必要なものは実行できないが、それ以外のものはテストを完遂した。

「3DMark」の一部テストは動作対象外

VRMark

VRヘッドセットを想定したベンチマーク「VRMark」。3つ全てのプログラムを完遂できた。ただ性能的には十分とは言えず、仮にVRヘッドセットなどが動作したとしても、本機で利用するのは難しそうだ。

「VRMark」

Cinebench 2024

CPUとGPUのパフォーマンスを調べられる「Cinebench 2024」。Windows用のアプリとして、x86-64版とArm64版の2つが用意されている。Arm64版はGPUテストがシステム要件を満たさず実行できなかったが、CPUテストは正しく完遂した。

「Cinebench 2024」

試しにx86-64版も動かしてみたところ、AVX2のサポートが必要というメッセージが表示され、起動できなかった。つまり、x64アプリでも、AVX2サポートが必須のアプリはダメである可能性が高い。

「Cinebench 2024」のx86-64版はAVX2が必要とされ動かない

PHANTASY STAR ONLINE 2 NEW GENESIS Character Creator

PCゲーム系ベンチマークとしては根強い人気の「PHANTASY STAR ONLINE 2 NEW GENESIS Character Creator」。起動しようとすると「ご利用の環境には対応しておりません」というメッセージが表示され、実行させてもらえない。動作環境に含まれないCPUを弾いているようだ。

「PHANTASY STAR ONLINE 2 NEW GENESIS Character Creator」は動作環境ではないため動かせない

FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク

ゲーム以上に長寿になっているベンチマーク「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク」。実行し、無事に完遂。ただし動作はかなり重い。

「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク」

ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク

先に実際のゲームを動かした「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク」。こちらも動作は問題なく、テストは完遂。画質設定を下げれば現実的なフレームレートで動作する。

「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク」

STREET FIGHTER 6 ベンチマークツール

フレームレートが極めて重要な対戦格闘ゲームのベンチマーク「STREET FIGHTER 6 ベンチマークツール」。最初は問題なく動作しているものの、途中でDirect3Dの致命的なエラーを出して強制終了してしまう。何度かやれば完遂できるかもしれないが、いずれにせよ不安定な状態だ。

「STREET FIGHTER 6 ベンチマークツール」は途中で止まってしまう

CrystalDiskMark

ストレージのベンチマークとしては定番の「CrystalDiskMark」。インストールされるのはArm64版で、もちろん動作に問題はなく、使用感も変わらない。ちなみに搭載されているSSDは、Samsung製「MZ9L4512HBLU-00BMV」だった。

「CrystalDiskMark」

参考までに、動作したベンチマークテストの結果も掲載しておく。

ほとんどがエミュレータで実行されたものもあるので、ハードウェアの性能を100%引き出しているわけではないが、それでもコンパクトPCとしては十分な性能を発揮している。特にArm64版が提供されている「Cinebench 2024」のスコアを信じるなら、マルチスレッドの性能はかなり高い。

ゲーム系では「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク」で、画質を「標準品質(ノートPC)」に設定すると、「普通」の評価が出た。これでゲームも十分遊べるとは言わないが、AI一辺倒のPCではないことは確かだ。

基本的には動作するが、ゲームは対応が必要なものも

テスト結果を見ると、一般的なアプリに関しては基本的に動くと考えてよさそうだ。Prismによるエミュレーションはよく動作しており、ビジネスユースで困る場面はほぼないと思われる。

ただ、起動時に若干のタイムラグがあるアプリが多い。特に大型のプログラムや大容量ファイルのインストーラなどでは、数秒程度は無反応に見える時間があり、待ちきれずに再度実行しようとすると2つ起動してしまうこともあるので注意がいる。その辺りの動作のクセは、使っているうちに理解できる範疇だろう。

ゲームに関しては、パフォーマンス的には動作の軽いものなら対応できる。ただゲーム側で動作対象外と判定するものが多い。特に「Easy Anti-Cheat」のブロック動作は露骨なので、アップデートして動作対象に入れてほしいところだ。

それ以外に関しても、DirectX 12に対応したことで、基本的には多くのゲームが動作するはずだ。もっとも確実に動作を保証できるわけではなく、「思った以上には動かせるので、試してみる価値はある」という程度。ヘビーな3Dゲームを動かせるパフォーマンスがあるわけでもない。

最初にお伝えしたとおり、この検証で動作を保証したり答えが出たりというわけではないが、筆者の印象としては、「ビジネス用途であればほぼ問題なさそう」だと感じた。仕事用として使う場合は、業務固有のアプリが正常動作するのかという点で不安が残るため、クリティカルな業務での使用はすすめない。そこを除けば、概ね快適に使用できるPCになっている。

あとはCopilot+ PCとしての魅力と天秤にかけて、製品を選んでいただきたい。

普通のPCとして十分活用できるが、ゲームなどで動かないものもあるので注意

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