【6月28日付編集日記】トス

 バレーボールの世界には、試合はアタッカーで勝ち、セッターで負けるという言葉があるそうだ。セッターは監督の指示と各選手の調子を見極め、誰にアタックを任せるのかを決める

 ▼女子日本代表でこの役割を長く務めた竹下佳江さんは若い頃、調子に波がある選手や「私に上げないで」という雰囲気を出している選手にトスを上げるのは不安があった。しかしシドニー五輪を逃して代表チームを一時離れてからは、リスクを承知でこうした選手にトスを上げるようにした

 ▼もちろん失敗することもあったが、やがて彼女たちに変化が生まれた。大事な場面で「私にトスを上げて」という雰囲気を出すようになってきた。こうした底上げがなかったら、アテネ五輪出場はなかったかもしれない―と竹下さんは振り返る(「セッター思考」PHP新書)

 ▼彼女たちはどんな成長を見せてくれるのだろう。女子バレーボールの国内最高峰リーグ・SVリーグに参戦する「デンソーエアリービーズ」が、郡山市に本拠地を移転する

 ▼チームの新スローガンは「頂(てっぺん)」。彼女たちがそこにたどり着けるかどうかは、私たちが応援というトスを上げ続けることができるか―に懸かっている。

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