JR西の「人型ロボ」を操縦してみた 鉄道の設備保守、何ができる?

JR西日本は6月27日、鉄道メンテナンス用の人型ロボット「多機能鉄道重機」を、7月にも使用開始すると発表した。

今回の発表は、都内で開催されたJR西日本の社長会見で説明された。会場には多機能鉄道重機の実物が展示されており、実際に操作を体験することもできた。筆者が体験した、このロボットの操作の模様をお伝えしよう。

操縦した感覚は?

多機能鉄道重機は、人機一体が開発した「零式人機」をベースに、鉄道メンテナンス向けとしたものだ。JR西日本と人機一体は、JR西日本グループのJR西日本イノベーションズが出資している関係にある。この2社に、信号通信機器メーカーの日本信号が加わり、今回の機械の開発を進めたという。

多機能鉄道重機は、人の上半身に相当する人型ロボットのほか、システムを搭載する鉄道工事用車両、操縦室、ロボットを支えるブームからなる。ロボットは最大12mの高所作業が可能で、操縦室から遠隔操作することで、高所作業時の安全性向上を図る狙いだ。今回の会見では、ロボットと操縦室のみが展示されていた。

ロボットの操縦には、2本のグリップアームとHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を使用する。グリップは、押す、引く、上げる、下げる、ひねるといった動作が可能で、操縦者の腕の動きに連動し、ロボットの腕も動く。また、グリップにはボタンやトリガーなどがあり、これでつかむ、放すといった操作ができる。

さて、実際にロボットを操縦してみたのだが、筆者は悪戦苦闘してしまった。自分の腕を動かすのと同様にグリップを動かせばいいはずなのだが、横にいた説明員に「肘が逆側になっています」と言われる始末。決してロボットの操作が難しいわけではなく、単に筆者が下手なだけなのだが。

しかし、HMDを装着すると、すんなりと動かすことができた。HMDはロボットの頭部カメラと連動しており、操縦者が左を向けば、ロボットの頭部も左を向くという寸法だ。ロボットの頭部からの視点で操縦できるようになったことで、それまで悪戦苦闘していた操縦も嘘のように楽になった。頭部カメラ付近には3Dセンサーを搭載しており、HMD上には2メートル以内にある物との距離も表示されていた。

グリップは重め。操縦に力が必要なわけではないのだが、安全上ロボットの動きは制限する必要があることから、あえて動作が緩慢となる仕組みとしている。また、今回は安全上体験できなかったが、ロボットの腕に外部から力が加わると、グリップにもその重さがフィードバックされる仕組みだという。

ロボットの「手」は、さまざまなものをつかむことができる。こちらも体験はできなかったのだが、さまざまな外部ツールの装着にも対応している。JR西日本での現場使用開始時点では、架線支持物の塗装ツール、線路に支障する樹木の伐採ツールおよび把持ツールを導入する。各ツールは、ロボットと電気的に接続しており、ロボットの操作で機械の動作および停止操作が可能となっている。

「人型ロボット」になった理由とは

鉄道インフラメンテナンスの分野では、これまでも機械化は進められてきたが、高所作業のような危険な場面においても、まだ人力作業が残っているのが現状だ。その反面、近年は少子高齢化などにより、メンテナンスに携わる労働力の不足が深刻化している。JR西日本グループでは、将来に向けた鉄道インフラメンテナンスの技術・業務革新を目指し、ハード面、ソフト面の双方で進化を図っている。

その一つが、今回の多機能鉄道重機だ。本機械の導入により、作業に要する人手が約3割減少するほか、高所作業を機械に置き換えることでの安全性向上、遠隔での高所作業が可能となることでの性別や年齢によらない就業環境の創出を実現するとしている。

多機能鉄道重機の開発に携わった、JR西日本 鉄道本部 電気部 電気技術室 システムチェンジ 課長の梅田善和氏は、人型のロボットを導入するメリットとして、その汎用性の高さを説明した。人間は、2本の腕だけでなく、手で道具をつかむことで、さまざまな作業に従事できる。多機能鉄道重機も同様に、2本の腕にさまざまなツールを装着できる仕組みとすることで、多種多様な作業に対応できる構造としている。

梅田氏は、同社が鉄道インフラメンテナンスでのロボット導入を検討した際、当初から人型ありきだったわけではないと説明する。しかし、たとえば産業用ロボットとして多く使われている6軸ロボットの場合、人が操作するには動きが複雑で、クレーンゲームのように難しくなってしまうことがわかったという。また、技術的には腕を3本以上とすることも可能だが、人間が操作することを考えた結果、人間と同様の腕2本という構成となった。カメラも同様に、最上部以外への設置も検討したものの、視界の広さなどを考慮した結果、頭部への配置に至ったという。

JR西日本の代表取締役社長である長谷川一明氏は、多機能鉄道重機について、まずは京阪神圏から導入していくと説明している。まずは架線(電車へ電気を供給する電線)の支持物を塗装する作業や、線路に支障する樹木を伐採する作業に投入し、今後も対応する作業を拡大していくという。

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