「違いがわかりにくい」の声…都知事選、小池と蓮舫の政策「どこがどう異なってる?」第1優先は小池「教育・子育て」、蓮舫「若者支援」

7月7日投開票の東京都知事選は、現職の小池百合子都知事と前立憲民主党参院議員の蓮舫氏による「女傑対決」が注目されている。ただ、2人の支援政党・団体や戦略は異なるものの、政策の違いが分かりにくいとの声は根強い。それもそのはず、2人が掲げる題目は似通っている部分が少なくないからだ。では、2人の公約はどのように違うのか。経済アナリストの佐藤健太氏が解説する。

都知事選の政策の違い、読者にどれだけ届いているのか

小池氏と蓮舫氏は6月18日にそれぞれ公約を発表し、翌日に日本記者クラブ、同24日には公益社団法人「東京青年会議所」の公開討論会で激論を交わしてきた。だが、新聞やテレビ、ネットメディアを眺めても2人が掲げる政策は見つけにくい。日頃は「政策論争に期待したい」「政策を競い合え」などとマスコミは求めているのだが、読者・視聴者にどれだけ届いているのかと疑問に感じる。

そこで2人の公式サイトを訪れると、これまでの政策や今回の公約などを容易に見つけることができる。まず、現職の小池氏は「新型コロナウイルス対策で死者数が先進国最低クラスに抑制」「災害対策の充実強化によって首都直下地震の被害想定が約36%減」「待機児童数は97%減少」「18歳まで月5000円支給する『018サポート』や私立高校の授業料実施無償化、介護職に年間最大30万円給与アップ」「無駄をなくす取り組みを徹底し、8年間で計8100億円を確保。都民1人あたりの借金は8万円減少」といった2期8年の実績を並べている。

「小池都政をリセットする」と対抗心を燃やす蓮舫氏

今回の都知事選で打ち出した公約は、無痛分娩費用を新たに助成▽保育の無償化を第1子にまで拡大▽子育て世帯の家賃負担の軽減▽東京都版大学給付型奨学金制度の創設▽東京都版海外留学制度の創設▽都独自の認知症専門病院創設▽在宅医療介護支援の強化▽おひとり様高齢者への支援強化▽東京都版介護職員昇給制度の構築▽シルバーパス改善▽非正規雇用の処遇改善支援▽スタートアップ支援強化▽クリエイターの才能を育むプロ養成機関の創設▽多摩モノレール延伸▽鉄道駅へのホームドア設置の加速、島嶼振興策の拡充―といったものが盛り込まれている。

記者会見や公約発表のタイミングを小池氏に重ね、「小池都政をリセットする」と対抗心を燃やす蓮舫氏の方はどうか。蓮舫氏は、公約の1番目に「現役世代の手取りを増やす」と掲げている。新しく条例を制定し、東京都と契約する事業者に働く人の待遇改善を要請し、非正規の都職員を正規化するという。新しい職種に転職しやすくするリスキリングの支援も掲げた。

蓮舫氏が「専門」と自認する行財政改革、「東京版・行政事業レビュー」

多子世帯の住民税非課税世帯を対象に家賃補助制度を設け、福祉の現場などで働く若者の奨学金返済支援や家賃支援を拡充するとしている。超高齢社会の到来を踏まえ、「認知症対策を強化し、介護のために離職をしないで済む社会にします」とし、高齢者や子供の「見守りネットワークづくりを応援」「シルバーパスの適用拡大」を公約。さらに「不合理な慣習や制度で困っている女性を応援する施策を進めます」「都内160万頭のペットと豊かに共生できる都市をめざします」「災害時にペットと一緒に避難できる可能性を検討します」

「ペット同伴可能店舗を応援します」などと並べている。蓮舫氏が「専門」と自認する行財政改革については「東京版・行政事業レビュー」を導入し、ガラス張りの都政を実現するとしている。

厚生労働省が6月5日発表した2023年の人口動態統計によれば、1人の女性が生涯に産む子供の推計人数を示す「合計特殊出生率」は過去最低の1.20となった。中でも東京都は0.99と「1」を割り込んだことから、今回の都知事選では少子化対策に軸足を置く候補が多い。

いまいち、公約の政策が見込んでいる効果がわからない

小池氏と蓮舫氏の違いを指摘するならば、小池氏が「出産から子育て、そして教育」まで網羅的に用意するのに対して、蓮舫氏はどちらかと言えば「出産前」の段階にフォーカスを当てていることにある。経済的な理由などを背景に未婚化が進んでいることへの危機感は共通しているが、強いて言えば小池氏は「安心して出産・子育て・教育できる環境を整える」という点に重点を置き、蓮舫氏の方は「働く若者の待遇を改善し、結婚できる環境づくりを目指す」といったアプローチだろう。

詳細が語られていないので分からない部分は多いのだが、たとえば小池氏が掲げる「東京都版大学給付型奨学金制度」「東京都版海外留学制度」は具体的にどれほど子供たちにメリットがあるのか。蓮舫氏の方は「東京都と契約する事業者に働く人の待遇改善を要請する」というが、その「要請」だけでどれだけ効果を生むと見込んでいるのかは気になるところだ。蓮舫氏が掲げる「非正規都職員の正規化」や「多子世帯の住民税非課税世帯を対象とした家賃補助制度」にしても、なぜ若者支援をうたいながら、そこだけに限定するのか説明が必要だろう。

小池氏は「教育・子育て」と「社会保障」、蓮舫氏は「労働」

言うまでもなく、少子化の原因は複雑だ。加えて、現在の「0.99」という数字は何も最近の政策が要因ではない。産まれてくる子供の数は、そもそも親となる女性の数が少なければ影響を受けるからだ。ちなみに、2023年に20歳を迎えた2003年生まれの女性は54万6874人、30歳の女性ならば57万8038人(1993年)、40歳は73万3481人(1983年)だった。女性の数が減少し、未婚化・晩婚化が進んできたことが顕在化しているにすぎない。
もう1つ、両者を比較する資料がある。それは東京青年会議所が開催した6月24日のネット討論会で、事前に候補者が回答した政策比較アンケートだ。ここでは、目指すべき将来像として小池氏は「100年後も全ての人が実感出来る、笑顔に満ち溢れた『世界一の都市・東京』を目指してまいります」と回答。蓮舫氏は「若者が、何かを諦めないですむ東京。同時に。もっと多様で生きやすい東京。そんな東京を、私は目指しています」と答えている。

違いが見えるのは、予算を100ポイント持っているとした時にどの分野にどれだけ配分するかという「政策分野の注力度」だ。それぞれのトップ3は、小池氏が25ポイントを「教育・子育て」と「社会保障」に、17ポイントを「安全・防災・震災復興」に配分するとした。蓮舫氏は「労働」に30ポイント、「環境・エネルギー」に20ポイント、10ポイントを「行政・議会改革」と「安全・防災・震災復興」に充てると回答している。小池氏が高齢者・福祉政策にも注力するとしたのに対し、蓮舫氏は環境・エネルギー分野に大きく予算を割くとしている点は面白い。

第1優先政策、小池氏が「教育・子育て環境の整備」、蓮舫氏は「若者支援」

課題を解決するための重要政策の「第1優先」としては、小池氏が「誰もが希望を持てる教育・子育て環境の整備」とし、蓮舫氏は「徹底した若者支援」と回答している。小池氏は期限を4年間で8兆円を投じ、2028年までの任期中とする達成目標を掲げているが、蓮舫氏は予算・財源も達成年次を設けなかった。

第2優先としては、小池氏が「自然災害などあらゆる危機から都民の命を守る危機管理」、蓮舫氏は「教育・子育て」。第3優先は、小池氏が「東京の経済を支える、働く方々への支援」、蓮舫氏は「行政・議会改革」とした。蓮舫氏は行政改革を「専門」としているのならば、どれだけ行財政改革で財源を捻出するつもりなのか具体的に掲げて欲しかったところだ。「バックデータがない」「私はチャレンジャーだから」と言ってしまうと、後に検証のしようがない。

「明治神宮の再開発」は本当に争点なのか

蓮舫氏が都知事選の争点として掲げる「明治神宮の再開発」はどうか。蓮舫氏は「神宮外苑の再開発を見直して、大切な緑を守ります」と公約している。これに対して、小池氏は「争点にはならない。なぜなら、すでに立ち止まっているからです」などと反論する。選挙戦における両者の主張は白熱するばかりなのだが、神宮外苑の大半は公有地ではなく、宗教法人明治神宮の所有地であることを忘れてはならない。

朝日新聞DIGITALは今年1月21日の記事で明治神宮の担当者、神宮外苑の成瀬伸之総務部長を取材した内容を報じている。それによれば、成瀬氏は明治神宮について「スポーツ施設を持つ外苑、ブライダル事業の明治記念館といった収益部門から資金を繰り入れて内苑を『護持』しています」「外苑の収益がないと明治神宮を支えられません」と説明している。

その上で樹木伐採について「伐採本数が注目されますが、緑の量を将来増やすのが目的」「外苑ではこの15年間で、台風などによって50本以上の倒木が発生し、ほかにも約300本の枯損木が出ています。倒木回避のための伐採もし、代わりに600本を植えています。老木も多いので、100年後に外苑の緑が保たれるよう、再開発事業によって計画的に更新していきたいです」と述べている。

実現可能性やメリット、デメリットを見極めて

そもそも公的資金を使わない民間の事業が都知事選で争点化されることには疑問が残る。小池氏も蓮舫氏も仮にストップをかけるつもりならば、こうした「外苑」と「内苑」の関係をどう整理するつもりなのか。巨額の賠償金が発生した場合には税金を投じるつもりなのかといった点なども丁寧に説明する必要があるだろう。

今回の都知事選では共同記者会見や公開討論会が行われ、候補者の主張をそれぞれ見ることができた。過去最多56人が立候補した「首都決戦」では、すでに熱い戦いが展開されている。それだけに有権者においては冷静に各候補の公約を眺め、実現可能性やメリット、デメリットを見極めて投票してもらいたいところだ。

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