CHAPTER1 胃腸を制すものが健康を制す
正常で元気な胃腸は消化吸収がスムーズ
胃腸力の要は小腸の吸収力
粥状になった食べ物は胃から十二指腸へと流れます。ここで胆汁と膵液という2種類の消化液と混じり空腸・回腸へ送られます。空腸・回腸では消化物の吸収を良くするために食べたものは分解されて、腸壁から栄養として吸収し、血管を通じて肝臓へ行き、そこから全身へと運ばれます。この過程がまさに「血となり、肉となる」部分です。
ですからどんなに栄養価の高いものを食べても、小腸で吸収できなければ、食べ物が消化管を通り抜けてしまうだけなのです。小腸で栄養を吸収してこそ、エネルギーになるので、小腸は元気の要の器官なのです。
その証拠に、胃や大腸は切除すると、多少は食べる量が減ったり、消化に時間がかかったりしますが、小腸はなくなってしまうと、栄養を吸収できません。生きていくことが難しくなります。
交通事故などの損傷でやむを得ず小腸を取り除かないといけなくなった方のなかには、栄養を吸収できない「短腸症候群」となり、体重減少や代謝異常など、程度によっては命に関わる方もいます。それだけに、小腸での栄養の吸収作業は、私たちが生きていくために重要な意味があるのです。
胃腸力の集大成は大腸で便を作ること
さて、小腸で大切な栄養が吸収された後は、その際に残ったものが大腸へと送られ、水分などを吸収して便になります。そして直腸内に便が流入すると便意をもよおし、適度のいきみと肛門括約筋の弛緩により肛門から便が排出されます。
食べたものは消化管というベルトコンベアに乗り、口から食道を通過し、胃、小腸、大腸を経て食べてからおよそ24~72時間かけて便として排出されます。
こうした作業を毎日何回も繰り返すことで、栄養を吸収してエネルギーを作り、細胞を再生させます。同時に不要なものを体から排出するというサイクルをうまく回すことで、健康を維持しています。
胃腸の不調の症状
胃腸にはどのような不調があるのか、代表的な症状にどのようなものがあるのか、考えられる病気にはどんなものがあるのかを詳しく説明します。
腹痛
みぞおちからおへその下まで、おなかといっても範囲が広く、症状が出る場所によって原因は異なります。まずはおなかのどの部分が痛いのか、明確にしましょう。症状が出る場所としてはみぞおちのあたりの上腹部、その裏側の背中、おへそ周り、おへそから腰骨にかけてやおへその下の下腹部です。腹部の臓器の位置関係から大まかに、上腹部は胃、おへそあたりは小腸、下腹部はS状結腸などの大腸と膀胱や婦人科系の不調などの可能性が考えられます。周囲の臓器の影響を受けることもあります。
腹痛で予想される疾病
・胃潰瘍いかいよう
・十二指腸潰瘍
・胆石や胆のう炎
・膵炎
・胃がん・膵がん・大腸がんなどの悪性腫瘍
・過敏性腸症候群
・大腸憩室や憩室炎
・虫垂炎
・膀胱炎
・婦人科系疾患など
胃のもたれ・胃痛
胃もたれは胃で消化されたものが吸収の過程へとうまく進めず、胃の中で滞っている状態です。そのため、胃が重くムカムカするといった不快感があります。食べすぎや飲みすぎ、深夜の食事が続くことも原因です。胃痛はみぞおちのあたりが差し込むようにキューっと痛みます。強いストレスなども原因となります。
胃もたれや胃痛で予想される疾病
・慢性胃炎
・胃酸過多
・胃下垂など
胸やけ
胸から喉にかけて逆流するように違和感があるのが胸やけです。胃酸が過剰に分泌してしまい、胃や食道の粘膜が傷ついた結果、炎症を起こします。胃酸が過剰に出てしまうので、酸っぱい息が上がっているような不快感や空腹時に症状が出ることがあります。
胸やけで予想される疾病
・逆流性食道炎
・咽いん喉頭こうとう異常感症いじょうかんしょう
・食道裂孔れっこうヘルニアなど
下痢
水分を多く含んだ緩くて形のない便が続き、おなかがゴロゴロしたり排便の回数が多くなったりします。下痢にもさまざまな種類があります。消化吸収不良によるもの、ノロウイルスやO−157のようなウイルスや菌によるものなどがあります。また、急性のものと、3週間以上も下痢と隣り合わせの日常を送る慢性的なものがあります。
下痢で予想される疾病
・過敏性腸症候群
・潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患
・消化吸収異常・膵臓機能異常
・食中毒
・風邪、感染症など
便秘
便が出なくておなかが張って苦しい状態が便秘です。「毎日すっきり排便がないから自分は便秘だ」と思っている方も多くいます、しかし必ずしも毎日排便がある必要はありません。数日排便がなくても、苦しさなど症状もなければ医学的な便秘とはいえません。便通は健康のバロメーターのひとつです。しかし排便の有無を気にしすぎる人も多くいます。これもまたストレスとなり、腸の動きを鈍らせてしまって便秘を誘発してしまうことになりかねません。
便秘で予想される疾病
・大腸がん
・慢性便秘
・運動不足
・過敏性腸症候群
・腸閉塞
・大腸憩室症
・加齢など
※本記事は、2022年10月刊行の書籍『名医が教える胃腸の守り方』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。