複数の犬殺害、ビニール袋で籠密閉 元販売業の81歳男を逮捕 2年間で3600万円売り上げもすでに廃業 施設の周辺に臭い、近隣住民「かわいそう」「目に余る」

男が運営していた飼育施設=27日午前10時ごろ、毛呂山町

 埼玉県毛呂山町内の動物飼育施設で、繁殖のために飼育していた犬を殺害したとして、県警生活経済課と西入間署の合同捜査班は27日、動物愛護法違反(愛護動物殺傷)の疑いで、同町西大久保、元動物販売業で無職の男(81)を逮捕した。県警によると、販売業者が飼育している動物を殺傷する事件は、県内では初めてという。

 逮捕容疑は5月6日ごろから12日までの間、自宅敷地内にある動物飼育施設で、飼育していた犬3匹をビニール袋などで密封された籠に閉じ込め、高体温症を伴う窒息により死亡させた疑い。調べに対して「1匹は殺したが2匹は既に死んでいた」と容疑を一部否認しているという。

 同課によると、男は同施設で犬を繁殖させ、生まれた犬をペットオークションに出して販売していた。2017年に事業者として動物の販売などを行う「第一種動物取扱業」に親族名義で登録。昨年と一昨年の2年間で約3600万円を売り上げていたが、24日には保健所に廃業届を提出していた。

■周辺に臭い漂う

 現場の飼育施設は民家がまばらにある農村地帯にあり、敷地内の建物からは複数の犬の鳴き声が聞こえていた。施設入り口の門扉には「立入禁止」と大きい看板が張られ、施設内を見えなくするためか、目張りされており、敷地内にはドッグフードが入っていると思われる段ボールなどが積み重なっていた。

 近くに住む60代の女性は以前、施設の前を犬の散歩で通った際、男に「(犬に)子どもを産ませないか」と勧誘されたという。施設の前を流れる川に猫の死骸が流されていたり、骨の状態になった犬の死骸を見かけたこともあったと語った。事件を知り、「かわいそう。信じられない」と顔をしかめた。

 また、10年ほど前に近くに移住してきた男性(58)は、施設の敷地内で何かを燃やす男を目撃していた。外に干していた洗濯物に臭いがついてしまい、話を聞くと、「死んだ犬を燃やしている」と言われたという。

 近所で3~4年前から犬などの動物を飼育している70代男性によると、同施設には男以外に複数の親族が出入りしており、中には作業をしていた人もいた。過去に何度か警察官が同施設を訪れていたのを見ており、「近隣住民ともトラブルを抱えていたようで、目に余る」とあきれた表情で語った。

■明確に殺傷、初の実刑を 動物愛護に取り組む俳優の杉本彩さん

 公益財団法人「動物環境・福祉協会Eva」(東京都渋谷区)の理事長で、動物愛護に取り組む俳優の杉本彩さんは、埼玉新聞の取材に「本当に恐ろしく、ペット業界の倫理観のなさが改めて浮き彫りになった」と答えた。動物愛護法では動物を殺傷すると5年以下の懲役または500万円以下の罰金と定められている。「利益のために明確に意図を持って殺傷している。動物虐待事件としては初の実刑判決が出るべきだ」と話した。

 県生活衛生課によると、事業者として動物の販売などを行う「第一種動物取扱業者」は県内に2970施設。5年ごとの更新の際や、虐待などの情報提供や苦情があった場合に検査を行い、問題があれば指導し、改善を確認しているという。また、2019年の改正動物愛護法は生後56日以内の販売禁止や、繁殖の年齢上限などを設け、動物虐待の罰則も強化した。

 しかし、同法人の松井久美子事務局長は「適切な飼育で犬や猫の健康が守られていない状況がまん延している」と指摘する。「そもそも終生飼育が原則。適正な里親に譲り渡す必要があるが、悪質な業者は繁殖時期を過ぎた犬や猫の受け皿として保護犬、猫の仕組みを利用している」と言う。

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