【20周年】今年フジロックにヘッドライナーで出演するザ・キラーズのデビューアルバムを振り返る

ザ・キラーズ(The Killers)のデビュー・アルバム『Hot Fuss』は2004年という時代に相応しい作品だった。マルチプラチナムに認定されたそのセールスも、タイミングが何より大切だということを実証していた。

自信とカリスマ性に満ち溢れ、大会場映えのするアンセムが並ぶヒット作『Hot Fuss』は、ギター・サウンドが再び主流となり、それを追い風にフランツ・フェルディナンドやザ・フューチャーヘッズ、インターポールといったポスト・パンク的なバンドが活躍していた”オルタナティヴ・ロック”の時代に、まさに求められていた作品だった。

2001年に結成されたラスベガス出身の4人組、ザ・キラーズは、国内で精力的にステージを重ねつつ、地道にその知名度を高めていった。そんな彼らが世界的な認知を得るきっかけとなったのはゼイン・ロウがDJを努めるBBCラジオ1の番組で、彼らの未来のヒット曲「Mr. Brightside」の初期ヴァージョンが初めてオン・エアされた2003年8月のことだった。

この曲が話題を呼び、グループはアイランド・レコードと契約。同年中に、プロデューサーのジェフ・サルツマンと共にデビュー・アルバムのレコーディングに着手することになったが、フロントマンのブランドン・フラワーズは、同じころ耳にしたあるレコードに心を奪われ、キラーズというバンドのあり方を一から考え直すことになる。

「唯一残った曲が“Mr. Brightside”」

2012年、NME誌に掲載されたインタビューで、ブランドン・フラワーズがこう語っている。

「リリースされたその日に、みんなとザ・ストロークスの『Is This It』を買いにヴァージン・メガストアに行ったことを今もよく覚えているよ。車の中で早速アルバムをかけてみて、耳に飛び込んできたのは本当に完璧なサウンドだった。酷く落ち込んだのを覚えている。それで、僕たちはそれまでに作った曲のほとんどを捨てることにした。古いレパートリーの中で、レコーディングした曲はわずかに1曲で、それが“Mr. Brightside”だったんだ」

「Mr. Brightside」を残すという判断がきわめて賢明だったことはやがて証明された。同曲は、彼らの公式なデビュー・シングルであり、今なおグループを代表する1曲と見做されている。特筆すべきは、そのドラマティックなヒット曲が、ドラマーのロニー・ヴァヌッチィのガレージや、ギタリストのデイヴ・キューニングのアパートで行われていたごく初期のセッションで作られた2曲目のオリジナル・ナンバーだったという事実である。

「Mr. Brightside」で歌われているのは、失恋を経験したことのある者なら誰でも共感できる歌詞だったが、それはかつてのガールフレンドに裏切られたばかりのフラワーズの、偽らざる心境でもあった。

It started out with a kiss / How did it end up like this?
始まりはキスだった / それなのにどうしてこんな風に終わってしまうのか

『Hot Fuss』のリリースから間もなく、NME誌の取材に応え、ブランドンはこう語っている。

「あの曲に込められている感情はすべて本物なんだ。あの歌詞を書いたとき、実際、僕は酷く傷付いていた。“Mr. Brightside”っていうのは僕のこと。もっとも、だからこそあの曲は今も色褪せていないんだと思う、リアルな歌だからこそ」

 

「特別な何かを捉えることができた」

モリッシーからブリティッシュ・シー・パワーまで、多彩なアーティスト/グループとともに英米両国で精力的にコンサート・ツアーを行う中で、「Mr. Brightside」と、キャッチーでダンサブルなセカンド・シングル「Somebody Told Me」は着実に認知度を高め、グループはその人気を確立。2004年の5月のUKツアーでは、ヘッドライナーを務めるまでになっている。

そして2004年6月7日、グループはファースト・アルバム『Hot Fuss』を発表。同作は、リリースからわずか1週間で、タイトルそのままの”熱狂”を巻き起こした。そこには、既にアメリカ、英国の双方でトップ10ヒットを記録していた「Mr. Brightside」と「Somebody Told Me」も含まれていたが、『Hot Fuss』にはこれら2曲に匹敵する優れたトラックがいくらも収められている。

実際、『Hot Fuss』からはさらに2曲のヒット曲、ニュー・オーダー風の陰鬱なナンバー「Smile Like You Mean It」と、コーラス隊の参加を得た壮大なバラード「All These Things I’ve Done」が生まれたが、昂揚感に富んだ「On Top」や賑々しい「Believe Me Natalie」も、ブランドンとメンバーたちがその気になれば、やすやすとラジオ局に売り込めたに違いない。

ザ・キラーズというバンドが当初から並々ならぬ野心を抱いていることは「Midnight Show」や「Everything Will Be All Right」からも窺い知れる。前者は、この上なく冷淡で卑劣な殺人を題材にした作品、後者はレディオヘッドを想起させる謎めいたエレクトロニカと、それぞれにタイプは異なるものの、いずれもファンに人気の高いトラックである。

ボーナス・トラックとして収録されている「Glamourous Indie Rock & Roll」のタイトルそのままに、『Hot Fuss』は華麗なインディペンデント・ロック・アルバムで、グループは激しく、堂々とした歌唱と演奏を披露している。そしてそうした音楽性とパフォーマンスこそ、キラーズが今も高い人気を維持している所以なのだ。

「僕たちのアルバムも同じくらいいい線をいっていた」

ローリング・ストーン誌は『Hot Fuss』を「一切の無駄のない傑作」と評し、その他のメディアも概ねこれに倣い、アルバムを異口同音に褒めたたえた。彼らが特別な存在になるであろうことは既に明らかだったため、グループのファンは自ずと増えていった。

そしてそうした多くのファンの支持に押され、『Hot Fuss』は全世界で700万セットを超える驚異的なセールスを記録。アメリカのアルバム・チャートでは7位を記録。UKアルバム・チャートでは首位に達し、グラミー賞、BRITアワードの各部門にもノミネートされた。

キラーズの創造力は、その後も衰えることはなく、優れた成果を世に送り出してきた。2006年にリリースされた『Sam’s Town』から、今に至るまで、彼らが残してきた作品はいずれも歴史に残る傑作だ。そして現在もなお、その勢いはいささかも失われていない。しかしながら、そんな彼らも、『Hot Fuss』が特別な瞬間を捉えた作品だったという事実は否定しないし、同作がしばしば”最も優れたデビュー・アルバム”の一つに挙げられることにも理解を示している。

2016年、インデペンデント紙とのインタビューで、ブランドン・フラワーズはこう語っている。

「過去に戻って、あんなことやこんなことをもういちどやり直したいって誰だってそんな風に思うよね。だけど、あのとき僕たちは何か特別なものを捉えることができたんだと思う。それは確かだ。僕に言わせれば、(『Hot Fuss』よりも)ストロークスの『Is This It』の方が優れているし、ガンズ・アンド・ローゼズの『Appetite For Destruction』も同じくらいすばらしい。けれども僕たちのアルバムも、同じくらいいい線をいっていたと思うし、その点は誇らしく思ってるよ」

Written By Tim Peacock

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