社会保険料を考えると、6月は残業をするべき? いつもより減らすべき? 電気代高騰で家計が苦しいのですが……

電気・ガス価格激変緩和対策事業とは

1.事業の目的

政府による「電気・ガス価格激変緩和対策事業」は、ロシアによるウクライナ侵略などの世界情勢を背景とした燃料価格の変動に伴う電気・ガス料金の高騰から国民生活を守るため、電気・ガス料金の単価から一定額を値引きすることで、料金負担を軽減する対策です。

2.値引き単価

本事業は2024年5月使用分で終了しますが、その値引き額は2024年4月分までと2024年5月分で異なり、下表のとおりとなっています。

(※1を基に筆者作成)

3.値引き額の例

環境省の資料(※2)によると、1世帯が1年間に消費したエネルギーは、全国平均で電気が4175 kWh、都市ガスが203m3となっています。この資料を基に、月間の使用量が電気(低圧)350 kWh、都市ガス17m3である家庭の値引き月額を計算すると、下表のとおりとなります。

(※1を基に筆者作成)

従って、前述した2024年4月使用分に比して、6月使用分の電気料金の負担は1225円、都市ガス料金の負担は255円も増えることになります。

社会保険料の算出方法と「標準報酬月額」の定時決定

1.社会保険料の算出方法

会社員の社会保険の保険料月額は、以下のとおり「標準報酬月額」に厚生年金と健康保険ごとに定められた保険料率をかけて求められ、事業主と折半して支払います。

毎月の社会保険料額=標準報酬月額×保険料率

なお「標準報酬月額」とは、会社員が受け取る給与(基本給のほか、残業手当や通勤手当などを含めた税引き前の給与)を一定の幅で区分した報酬月額に当てはめて決定したもので、年金や健康保険など社会保険料の計算に用います。標準報酬月額と等級は、健康保険の場合は1等級5万8000円から50等級139万円、厚生年金が1等級8万8000円から32等級65万円となっています(※3、4)。

2.定時決定とは

「標準報酬月額」は、1年に一度以下のとおりの手順で見直されますが、これを「標準報酬月額」の定時決定といいます(※3)。まずは、4月・5月・6月の報酬の総額を3で除した額を「報酬月額」とします。そして標準報酬月額表(下図参照)から「標準報酬月額」と等級を決定し、9月から翌年の8月までの各月の標準報酬とします。

図表

従って、4月・5月・6月の報酬を抑えることで、9月から翌年の8月までの1年間に社会保険料の算出に適用される「標準報酬月額」を下げることができます。

3.報酬とは

標準報酬月額の対象となる「報酬」は、基本給のほか、残業手当はもとより、宿直手当、家族手当、通勤手当などが含まれます(※3)。従って、報酬を下げるために、4月・5月・6月の残業や宿直を減らすことを考える方も少なくありません。

まとめ

「電気・ガス価格激変緩和対策事業」の終了に伴い、6月使用分からは電気代と都市ガス代の負担が増します。その対策として、主に残業を増やすことが考えられます。

一方、9月から翌年の8月までの社会保険料の算出基礎となる「標準報酬月額」は、4月・5月・6月の3ヶ月の報酬から算定されます。そのため、6月の収入が増えたことにより、9月以降の社会保険料の負担が増す可能性があります。

従って、電気とガスの負担増を補うために6月の残業を増やした結果、9月以降の社会保険料が増えるのであれば本末転倒となります。残業を増やすのであれば、7月からにするとよいでしょう。

出典

(※1)経済産業省 資源エネルギー庁 電気・ガス価格激変緩和対策事業
(※2)環境省 家庭のエネルギー事情を知る「家庭でのエネルギー消費量について」
(※3)日本年金機構 厚生年金保険の保険料
(※4)全国健康保険協会(協会けんぽ) 令和6年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)

執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

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