「相続手続き、自分でできるもん!」…相続人〈見よう見まねの手続き〉の結果、あとから判明する恐ろしい事態【司法書士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

親の財産は預貯金と自宅不動産だけ。これなら自分ひとりでサクッと相続手続きできるかも…。そのように考える方は少なくありません。しかし実際には、手続き後に大きな問題が判明し、労力が無駄になるどころか、手痛い思いをするリスクも…。司法書士法人永田町事務所の加陽麻里布氏が解説します。

相続の手続き「簡単そうに見える」ケースも多いが…

ご自身の身に相続が発生したとき、まずはインターネットで「相続/やるべきこと」等を検索し、具体的な手続きについて調べた方もいらっしゃるでしょう。すると、

「相続手続き、専門家に依頼しなくても、自力でできるのでは?」

と思い立ち、ご自身で相続税の計算・納付、不動産等の名義書換までチャレンジしようとする方が、一定数いらっしゃいます。しかし専門家として、それはお勧めできません。

下記にまとめたのは「相続の発生」から「相続税申告」までの基本的な手続きの流れです。

◆相続発生→相続税納付・不動産名義書換までの基本的な流れ

①被相続人(亡くなられた方)の遺言書の有無を確認する

相続人を確認し、自分や家族以外の存在がいないか調査する

③亡くなった被相続人の相続財産のすべてを調査する

④共同相続人がいる場合は遺産分割協議をし、遺産分割協議書を作成する

相続税の申告を行う

⑥不動産等の財産がある場合は、相続による所有権移転の登記を行う

まず、「遺言書の確認→相続人の調査」という順番で確認します(①②)。なぜなら、相続人が1人でも参加しなかった遺産分割協議(④)は、法律上無効だからです。あとから相続人が見つかった場合、協議のやり直しが必要です。

相続財産は「貯金」「土地」「株式」等のプラスの財産だけではなく、「借金」「負債債務」等のマイナス財産もあります。それらを含め、すべて調査する必要があります(③)。

そのうえで、すべてを相続するのか(単純相続)、一部を相続するのか(限定承認)、相続放棄をするのか(相続放棄)、いずれかを選択することになります。

その後は、相続税の申告をして(⑤)、必要があれば、不動産等の財産があれば、相続による所有権移転の登記をして(⑥)、一連の手続きは完了です。

「家族が知らない不動産」「想定外の相続人」の存在に注意

相続は「遺産分割」「相続税の申告」等を伴うため、相続開始前の調査は、正確に行わなければなりません。

「相続人は自分1人だし、相続財産は不動産と預貯金だけ。だったら、自分で調べれば手続きできるのでは…?」と考えたとしても、個人で行う調査には限界があります。手続き完了後に思わぬ所得が見つかる、想定外の相続人が出現するなどして、これまでの苦労が水の泡に…となるリスクがあるのです。

よくあるのが、サラリーマンだった被相続人の方が、家族に内緒で投資用のワンルームマンションを保有していた、というケースです。

サラリーマンの場合、投資用不動産のローンが通りやすいことから、結構な方が保有しているのです。その状況で相続が発生し、家族がなにも気づかないまま相続手続きを行ってしまい、あとからマンションの存在が発覚すると大変です。「申告漏れ」として、修正申告を行わなければなりません。

その際、申告漏れとなった金額にもよりますが、場合によってはペナルティとして高額な追徴課税が課されるリスクもあります。

また、しっかりと調査を行わずに相続手続きに着手した場合、あとから「実は亡くなった親は再婚で、自分と片親違いのきょうだいがいた」「実はもうひとつ家庭があり、そちらにも子どもがいた」等の事実が判明し、新たな相続人の存在を知ることもあります。これもまた、法律の現場では決して少なくありません。

プロに任せれば、あとあとのリスクへの不安がない

ようやく無事に手続きを終えたと思い、ホッと一息ついた矢先に、このような重大な問題が発覚すると、すべての労力が水の泡です。それだけならまだしも、あとから高額な追徴課税を課されたら最悪です。

そうなれば結局、財産調査の依頼には司法書士を、法的な揉め事には弁護士を、修正申告の手続きには税理士や公認会計士を…など、それぞれの領域の専門家を頼らざるを得ません。

ならばいっそ、最初から専門家に依頼したほうが安全です。相続人も、慣れない自己流の調査に疲弊したり、余計な時間やエネルギーを消耗したりしなくてすむのです。

一見シンプルに思える相続手続きも、相続が発生したらまずは専門家へ相談することが、最も労力がかからず、また失敗のリスクがない、「オトク」な方法だといえます。

加陽 麻里布

司法書士法人永田町事務所

代表司法書士

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