もうすぐ40歳ですが「老後について何も考えていない」と言うと、友人に驚かれました。生活費を切り詰めてまで、何か始めるべきでしょうか?

老後の不安を具体的に把握する方法

老後の不安を具体的に把握するためには、以下の手順に沿って考えるとよいでしょう。

1.公的老齢年金の見込み額を知る

厚生労働省が試験運用を開始した「公的年金シミュレーター」(※1)を用いて、老齢年金の見込み額を把握しましょう。今までの勤務経歴と将来の働き方などを入力すると、年金の見込み額が分かります。

「公的年金シミュレーター」を利用する際には、「ねんきん定期便」を手元に置いておくと精度を上げることができます。

なお年金額のうち、老後の生活費に利用できる手取り額は、年金額から税・社会保険料を差し引いた額に当たり、年金額の7~8割程度と考えましょう。

2.年金から生活費を差し引いて、不足額を知る

先述した「手取りの年金額」を12月で割った額が、毎月の生活費に充てることができる月割りの年金額となります。その月割りの年金額だけで毎月の生活を送ることができれば、老後の生活は一安心と言えるでしょう。

ところで、老後の生活費は、毎月いくらくらいかかるのでしょうか。

これは家族構成や生活レベルに応じて大きな違いがありますが、生命保険文化センターの調査によると、夫婦2人で老後生活を送る上で必要と考えられる「最低日常生活費」は、月額で平均23万2000円となっています(※2)。

毎月の手取りの年金額から、最低限必要な生活費を差し引いた額がマイナスになる場合は、年金だけで老後生活を送ることはできないことになります。

3.金融資産で不足額を何年補えるか考える

保有する金融資産残高と退職金の見込み額から、退職時の金融資産の額を見積もります。

そして、退職時までに保有しているであろう金融資産額で、前述の年金と生活費の差額を、何年間補てんできるのか見積もりましょう。補てんできる年数が、平均余命を下回る場合は、資産が不足していることになります。

なお、令和4年時点における日本人の平均余命は、65歳男性で19.44歳、女性は24.30歳となります(※3)。

4.老後の経済的不安に関する具体的な額を把握する

前述の1.~3.までの手順を踏むことによって、老後の生活に年金がいくらくらい不足するのか、また、その不足を補うために金融資産がどのくらい不足するのか、具体的な値を把握することができます。

老後の不安を軽減するための方策を考える

老後の経済的な不安に対処するためには、主に老後の年金額を増やすことと、老後の資金を準備することを考えます。

公的老齢年金の額を増やす

公的老齢年金は、全国民共通の「老齢基礎年金」と、会社員などが受給することのできる「老齢厚生年金」の2階建てになっています。

1.老齢基礎年金を満額に近づける方法

老齢基礎年金は、20歳から60歳までの40年間(480月)の国民年金の納付月数に応じて年金額が計算されます。

20歳から60歳までの40年間、以下のいずれかの要件を満たした場合、満額の81万6000円(令和6年度額)を受給することができます(※4)。

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(1)自営業者など、国民年金の第1号被保険者として保険料を納付していた
(2)会社員など、国民年金の第2号被保険者として厚生年金に加入していた
(3)国民年金の第3号被保険者として厚生年金の被保険者の被扶養配偶者であった
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従って、国民年金保険料の未納期間がある場合は、満額の老齢基礎年金を受給することはできません。この場合、第1号被保険者であれば、60歳以上65歳未満でも、国民年金に任意加入して保険料を納付することにより、満額の年金額に近づけることができます(※5)。

2.老齢厚生年金を増やす方法

老齢厚生年金の額は、被保険者として働いた勤務年数と、働いて得た報酬の額により計算されます(※6)。従って、より長く勤務し、少しでも報酬を上げることができれば、老齢厚生年金額を増やすことができます。

自分で老後資金を準備する

自分自身で老後の資金を準備する方法としては、国民年金の第1号被保険者などが利用できる「付加保険料」の納付と「国民年金基金」への加入、全国民が共通して利用できる「iDeCo(個人型確定拠出年金)」への加入があります。

1.付加保険料を納付しよう

自営業などの国民年金第1号被保険者および65歳未満の任意加入被保険者は、国民年金保険料に月額400円の付加保険料を納付できます。そうすることによって、付加保険料を納付した月数に200円を掛けた額を、付加年金額(年額)として上乗せ受給することができます(※7)。

2.国民年金基金へ加入しよう

国民年金の第1号被保険者および65歳未満の任意加入被保険者は、国民年金基金に加入することができます。

国民年金基金は、終身年金と確定年金を一定の要件の下に組み合わせて加入し、加入年齢に応じて定められた保険料を支払うことにより、60歳または65歳以降、定額の年金を受給することができます(※8)。

なお、国民年金基金加入者は、付加保険料を納付することはできません。

3.iDeCoを利用しよう

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、加入の申し込み、掛け金の拠出、掛け金の運用の全てを自分自身で行い、掛け金とその運用益との合計額を元に給付を受け取ることができる年金です(※9)。

公的年金や勤務先の企業年金の種別によって、毎月の掛け金の上限額は異なりますが、老後の資金を準備する手段として利用するとよいでしょう。

なお、付加保険料、国民年金基金の掛け金およびiDeCoの掛け金は、全額を所得控除することができるため、所得税や住民税を節約することができます。

まとめ

老後の準備をする上では、老後の不安を具体的に把握することが大切です。そして、年金額や退職時の金融資産残高に不安があるようであれば、公的年金額を増やす、iDeCoなどに加入するなど、早めに老後の準備を始めましょう。

出典

(※1)厚生労働省 公的年金シミュレーター
(※2)公益財団法人生命保険文化センター 老後の生活費はいくらくらい必要と考える?
(※3)厚生労働省 令和4年簡易生命表の概況
(※4)日本年金機構 老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額
(※5)日本年金機構 任意加入制度
(※6)日本年金機構 老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額
(※7)日本年金機構 付加保険料の納付
(※8)国民年金基金連合会 国民年金基金
(※9)厚生労働省 iDeCoの概要

執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

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