『九十歳。何がめでたい』初登場2位の「何がめでたい」のか?

6月第4週の動員ランキングは、前週1位で初登場した『ディア・ファミリー』が週末3日間で動員13万9600人、興収1億9700万円をあげて2週連続1位。初登場で2位となったのは、前田哲監督、草笛光子主演の『九十歳。何がめでたい』。オープニング3日間の動員は11万8000人、興収は1億4800万円。初登場で3位となったのは、ウィル・スミス&マーティン・ローレンス主演の人気シリーズ4作目にして、4年ぶりの新作『バッドボーイズ RIDE OR DIE』。オープニング3日間の動員は10万人、興収は1億5400万円。日本映画、外国映画を問わず、トップ3すべてが実写映画となったのは昨年の11月第4週以来7ヶ月ぶりのこと。ちなみにその時のトップ3は『翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて』、『ゴジラ-1.0』、『首』だった。

今回注目したいのはオープニング3日間の興収では下回るものの、動員では『バッドボーイズ RIDE OR DIE』を上回って2位にランクインした『九十歳。何がめでたい』。配給会社も制作会社も原作者も脚本家も異なるものの、前田哲監督と草笛光子は3年前の『老後の資金がありません!』以来のタッグ。『老後の資金がありません!』はまだコロナ禍による観客離れ、とりわけ年配の観客層にその影響が強く残っていた2021年秋の公開作ながら、興収12.4億円というスマッシュヒットを記録した作品だった。今回の『九十歳。何がめでたい』は、3年前の快挙をしっかりふまえた上で、配給会社を飛び越えてよりターゲットを絞り込んだ企画が、狙い通りにちゃんと結果を出したことになる。ちなみに動員に対して興収が少なめなのは、言うまでもなくシニア料金の比率が極めて高いからだ。

『九十歳。何がめでたい』の公開に先立って、同作の製作幹事のTBSは週末の午後というイレギュラーな時間帯に『老後の資金がありません!』のテレビ初放送をおこなっていて(実はたまたまテレビをつけたら放送していて、自分もついつい最後まで観てしまった)、その放送後に『九十歳。何がめでたい』のプロモーションを展開していた。本連載でこれまで再三述べてきたように、自分は自社が製作した映画の宣伝を情報番組からバラエティ番組まで一日中流し続ける民放テレビ局の手法に対して、電波法の観点から批判的だが、公開に合わせて類作を放映することについてはむしろもっと増えてほしいと思っている。かつては頻繁にあったそのような慣例が、一部のアニメーション作品などごく限られた作品を除いて民放テレビの局から失われてしまったことが、観客が実写映画離れを起こしている要因の一つに違いないからだ。よく考えたら、今回のように作品の特性によっては、新作プロモーションの一環としての過去作放送は夜のプライムタイムである必要ではない。こうした「宣伝の露出量」を稼ぐだけではない、ちゃんと実のある工夫が作品のヒットに繋がることで、今後も広がっていくことを期待したい。

(文=宇野維正)

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