【ファミコン救出大作戦その4】ファミコン版「ドラゴンクエスト」を子供と遊ぶ長年の夢がかなう

by 石田 賀津男

「ドラゴンクエスト」のタイトル画面 (C)1986 ENIX

長年の夢をかなえる

コロナ禍と距離500kmという壁に隔たれた実家に数年ぶりに帰省し、長年放置されたファミコンなどのゲームソフトをレトロゲーム互換機「レトロフリーク」で回収することにほぼ成功。ゲームソフトは再び実家に置いておき、大量のゲームを入れ込んだ「レトロフリーク」を自宅に持ち帰ることに成功した。……というのが前回のお話。

あとは持ち帰ったゲームで遊ぶだけなのだが、筆者には長年持ち続けている夢がある。

いつか自分に子供が生まれて大きくなったら、ファミコン版「ドラゴンクエスト(初代)」を遊ばせたい。

「ドラゴンクエスト2」以降の作品では、NPCと話したければNPCに向いて話す、階段の上り下りは階段のある場所に行く、でよい。

しかし「ドラゴンクエスト」の主人公はずっと前を向いたままで、横移動の時にはカニ歩きなどと揶揄される。NPCと話す時は、コマンドで「はなす」を選んだ後、東西南北の方位を選ぶ必要がある。また階段を上り下りする時も、階段の場所まで移動してから、コマンドで「かいだん」を選ばなければならない。

今となってはとても面倒なコマンド (C)1986 ENIX

現代の洗練されたゲームに慣らされた子供に、「昔のゲームはこんなに大変だったんだよ」としたり顔で言いたい! という、大変くだらない夢を長らく持ち続けていたのである。そして息子は7歳になり、親としては遺憾ながらゲームにのめり込んでいる(たしなむ程度であって欲しかった)。特に「ドラゴンクエスト」は、誕生日にスライムの大きなぬいぐるみをねだるくらいに大好きだ。

さあ、ついに夢を実現する時が来た。

「ドラクエ」好きの息子とともにクリアを目指す

「レトロフリーク」で「ドラゴンクエスト」を起動し、タイトル画面が表示されると、息子は何の説明もしないうちに「ぼくにやらせて!」と食いついてきた。

主人公の名前にはしっかり本名を入力し、ゲームスタート。王様の部屋に現れた主人公は、王様から竜王討伐の指示を受ける。ファミコン版のテキストは全てひらがなとカタカナなので、7歳でも問題なく読める。この年頃の子にとっては、ファミコン版のメリットと言える。

テキストに漢字が使われていないおかげで、子供でも読める (C)1986 ENIX

王様の話を聞いたら、部屋の中をぐるぐるうろうろと歩く。歩く。いつまでも歩く……「外、行こうや?」つい促してしまったところ、「どうやって?」という返事。どうやら最初に開けるべき扉を認識できなかったらしい。確かに美麗な3Dゲームに慣れた感覚だと、扉のドット絵は扉には見えず、行き先が分からないかもしれない。

「ここにあるのが扉だよ」という説明をした後、扉の先へ進もうとするが、進めない。ここはコマンド「とびら」を選ぶ必要があるのだ。さらに部屋の中にある宝箱は、コマンド「しらべる」だと「たからのはこが ある!」としか言ってくれず、コマンド「とる」を選ばねばならない。そして階段を下りるにはコマンド「かいだん」だ。

今見ると、王様の部屋から出るのは確かに難しいかもしれない (C)1986 ENIX

全てを説明して階段を下りたところ、「めんどくさ!」と息子のコメント。「そう、昔のゲームはこんなに面倒だったんだよ」と返事をした。息子からの返答は特になかった。

以上で筆者の長年の夢がかなった。実際にやってみると想像以上にくだらなかったが、人生のタスクを1個消化できてすっきりした。

もちろんプレイはそのまま続行。街で武器を買うために武器屋に話しかける時にも再び「めんどくさい」の声をいただきつつ、レベル上げに出かける。街の近くで歩くと「スライム」が登場。「スライムだ! むかしからかわいいね!」とよろこびつつ撃破。

いつも変わらぬ姿の「スライム」 (C)1986 ENIX

その後も弱いモンスターを倒し続けて、経験値とお金を貯め、新しい武器や防具を買う。しかし時間がかかる。1匹倒しても報酬はちょっとだけで、バトルも1対1だけあって実に単調。息子もしばらくはよろこんで遊んだものの、さすがに面倒になってきたようだ。

そこで「レトロフリーク」のオーバークロック機能を使う。これはゲームの進行速度を高速化できる機能(逆に遅くすることも可能)で、最大4倍速にできる。街の近くを歩いて敵を倒すという行動が4倍速で進められるので、レベル上げが格段に楽になる。ただしBGMや効果音は再生されなくなり、作業感はさらに増す。

倍速設定がレベル上げに便利

最初の街で一通り装備を買いそろえ、レベルもそこそこ上がったところで、次の街を目指す。といっても次の街がどこにあるのかは息子には教えないし、そもそも筆者も覚えていない。ちょっと道を間違えればとんでもなく強い敵が出てきたりするはずで、それでやられるのも今時のゲーム感覚では納得がいかない。

ここでも「レトロフリーク」が活躍。「ドラゴンクエスト」は本来、王様に話しかけて「ふっかつのじゅもん」を聞かないとセーブできない(セーブという用語も当時はなかった)のだが、「レトロフリーク」ならクイックセーブ機能で、いつでもどこでもセーブできる。

元々セーブができないゲームも、どこでもセーブが可能

こうして新しい場所にも安心して出かけ、レベル上げもサクサクと進めて、数日かけて無事にクリア。本作の発売当時、小学3年生だった筆者は、最初から自力でクリアしたことがなかったので、親子で協力してクリアできたのはいい思い出になった。

竜王の有名なセリフ「せかいの はんぶんを おまえ に やろう」に息子も大よろこび (C)1986 ENIX

筆者の思い出のゲームたち

これで筆者としては「レトロフリーク」を購入した意義は果たしたという気持ちだが、せっかくなので筆者が好きなレトロゲームをいくつか紹介しよう。

まずはファミコン用RPG「ラグランジュポイント」。

当時としては珍しいSF世界を舞台にした作品で、熱や電気、冷気など6つの属性をまとわせた剣や銃器で戦う。2つの武器を合成してより強力な武器を作るという仕組みがとても印象的で、今やってもテンションが上がる。

また本作にはFM音源チップが搭載されており、普通のファミコンとは異なるリッチなBGMが流れる。これもオタク心をくすぐられる要素だ。ただ、本作が発売されたのは1991年で、前年にはスーパーファミコンが発売されているためか、注目度は低かったように思う。

SF世界を舞台にした「ラグランジュポイント」は、武器を合成するのが魅力的だった (C)KONAMI 1991

続いてファミコン用シミュレーションRPG「ファイアーエムブレム外伝」。

「ファイアーエムブレム」シリーズは現在まで続く人気作品だが、その中で本作は非常に影が薄い。これも発売が1992年と遅かったことが影響しているのかもしれない。

筆者はシミュレーションゲームが自分でも驚くほど下手で、前作「ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣」は中盤あたりで投げ出した。しかし本作には経験値が2倍になるイージーモードがあり、何度も敵が出るダンジョンでレベルを上げられ、傭兵からクラスチェンジを進めると汎用初期クラスである村人に戻れるため、時間をかければ複数の最強キャラを育てられる。

これで筆者でもクリアできたという思い出深い作品なのだが、もしかするとこの緩さがシミュレーションゲーム好きには受け入れられなかったのかもしれない。

最強キャラを育てることで、筆者でもクリアできた「ファイアーエムブレム外伝」 (C)1991 Nintendo

次はPCエンジン用RPG「邪聖剣ネクロマンサー」。

発売は1988年で、まだスーパーファミコンが発売されていない時代。映像、音楽ともにファミコンでは成し得ない美しさで、筆者がゲームの次世代を初めて感じた作品である。

ただ内容としては、序盤から難易度が高く、戦闘に時間がかかるためテンポが悪い。全体的に暗い世界観で、オープニングに出てくる謎の顔は嫌悪感が強く、小学生が1人でプレイするには色々とハードであった。だが「レトロフリーク」なら経験値稼ぎも4倍速で、もはやこの程度で嫌悪感を覚えるような歳でもない。が、やっぱり難易度は高い。

テンポの悪さが気になる「邪聖剣ネクロマンサー」も、倍速機能を使えば何とか遊べそう (C)1988 HUDSON SOFT

最後はゲームボーイアドバンス用「リズム天国」。

もはやゲームボーイアドバンスもレトロゲームか……と感慨にふけるのはさておき。リズムに合わせてボタンを押すだけというシンプルな内容ながら、ミニゲーム形式で50ステージ近くあるボリュームと、見た目に笑えるデザインでプレイヤーを飽きさせない。

リズムゲームとしてはなかなかシビアで、この手のゲームが苦手な人にはパーフェクトクリアは難しいかもしれない。ただ当時は小さな手持ちゲーム機で遊んでいたものが、大きなテレビで遊べるのはうれしい。子供でも気軽に遊べる内容であることも我が家的にはとてもいい。

見た目にも楽しい「リズム天国」を大きなテレビで遊べるのはありがたい (C)2006 Nintendo/J.P.ROOM

中古ゲーム屋が宝の山になることが「レトロフリーク」の真の価値

ほかにもあれやこれやあるのだが、語り続けるときりがないのでここまで。読者の皆様にもきっと思い入れのあるゲームがたくさんあるはずだ。

「レトロフリーク」を手に入れたことで、手持ちのゲームを楽しめるだけでも十分に価値はあるのだが、それ以上に重要なのは、レトロゲームを動かせるハードが手元にあるということ。これで中古ゲームショップは興味の枠外から宝の山に変わる。昔欲しかったのに買えなかったゲーム、クリアできなかったゲームも、今なら手に入れて遊べるかもしれない。この変化を得られるのはとても幸福なことだ。

今から純正の古いゲーム機をそろえようと思うと、動作するものはそれなりに高価だし、テレビとの接続が大変なものもあるし、故障のリスクもある。「互換機は絶対に認めない!」というポリシーをお持ちの方に押しつける気はないが、この連載を通じて、レトロゲームを今こうして楽しむ方法があるんだということを広くお伝えできればうれしく思う。

これ1台でレトロゲームは宝の山になる。中古ゲーム屋巡りは間違いなく楽しい

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