【スズキ GSX-8R 試乗】フラッグシップよりも重要なもの…鈴木大五郎

スズキ GSX-8R

スズキ『GSX-8R』は2023年のデビュー以来、これまで何度もテストしているマシン。アドベンチャーモデル『Vストローム800』および「DE」と共通プラットフォームを用いたロードスポーツモデル、GSX-8シリーズのフェアリング装着バージョンだが、スタイリングからイメージさせるよりもずっとフレンドリーなキャラクターを持っているのが特徴だ。

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スズキスーパースポーツモデルの代名詞、「GSX-R」を彷彿させるスポーティなデザインながら、跨ってみればさほど前傾は強くなく、日常での気負いない走りを生み出している。ほとんどポジティブな印象しか持つことのなかったマシンであるが、今回の試乗は生憎の天候。雨かぁ…と気分が落ち込みそうになりながらテストをスタートする。

◆雨でも心躍る、パワフルな走り

エンジンを始動。セルを1プッシュするだけでエンジンが始動するスズキイージースタートシステムが働く。また、ローRPMアシストにより発進時には回転数の落ち込みを抑制。エンストする心配も少ないため、緊張感とは無縁である。マシンを発進させて、その世界観を味わう。

なるほどなぁ。主張し過ぎず、それでいて没個性になることもないエンジンの気持ち良さをあらためて味わう。雨音にマッチする控えめながら単調になりにくい心地よい鼓動感。ツインエンジンはトラクションがつかみやすいとか、グリップ性能が高いなどと評されることが多いけれど、それは排気量だとかそのレイアウト等によっても異なるもので、一概には言えないものである。

しかし、この並列ツインエンジンはその定説がピタリとはまる。トルクの湧き上がり方が秀逸で、気持ち良くリアタイヤが路面を噛み込んでくれるような安心感に包まれる。雨でグリップ力は明らかに低下しているはずなのにそれを感じさせず、豊かな低中速トルクを活かしてパワフルな走りを楽しめる。

どこかの記事で、日常の足としてそれが退屈になりがちな通勤や通学であっても、そこにちょっとした潤いを感じさせるといった趣旨の文章を書いた記憶があるが、雨というあまり喜ばしくない状況下においても、同様の感想を持ったのである。

◆3つのモードで味わうエンジンフィール

非常に使い勝手の良いオールラウンダー的キャラクターから、エンジンパフォーマンスはそれなりかと想像される方も多いかもしれないが、じつはこれがなかなかに速い。ワイドオープンすれば高回転域に向けてグングン車速を伸ばしていく。クローズドコースでない限りは、必要十分と思えるほどのパワフルさで、モーターサイクルならではのスリルや楽しさをしっかりと感じることが出来るパッケージとなっている。

パワーモードは3パターンを備え、シチュエーションや気分によって選択することが可能。Aモードはレスポンスがリニアであきらかにパワフル。ウェットであってもフィーリングとしては一番楽しい。このエンジンの素の状態に近いというB。そしてのんびり走らせたいときにはCの穏やかさが具合良い。

最高出力はすべて同じ80馬力だというが、そこに至る過渡特性が異なるため、全く違うエンジンになったかのようなバラエティに富んだキャラクターが楽しめる。

◆多様なライディング体験、懐の深さ

通常、今回のようなレインコンディションでは、セットで変更されるトラクションコントロールの介入具合を考慮してライディングモードを決めることが多いが、それぞれを個別に設定出来るのも嬉しいところだ。パワーモードはAだけど、トラクションコントロールはもっとも介入度の高いモード3をセレクトするなど、好みの設定を作り出すことができるのである。機能を盛り込み過ぎていないこともあって操作およびスイッチ周りはシンプルなため、気軽に設定変更出来るのも良いところ。

車体設定にも尖ったところがなく、その穏やかさから逆に積極的に走らせることも許容する懐の深さを感じさせるのだ。

それぞれのブランドにフラッグシップとなるモデルは必要であろう。しかし本当に重要なのは、やはり普段使い出来るボリュームゾーンに存在するマシンの良し悪しとなるだろう。

GSX-8Rはレベルやシチュエーションに関係なく「良」を感じることのできるマシンとなっている。

■5つ星評価
パワーソース:★★★★
ハンドリング:★★★★
扱いやすさ:★★★★
快適性:★★★★
オススメ度:★★★★

鈴木大五郎|モーターサイクルジャーナリスト
AMAスーパーバイクや鈴鹿8耐参戦など、レース畑のバックボーンをもつモーターサイクルジャーナリスト。1998年よりテスター業を開始し、これまで数百台に渡るマシンをテスト。現在はBMWモトラッドの公認インストラクターをはじめ、様々なメーカーやイベントでスクールを行なう。スポーツライディングの基礎の習得を目指すBKライディングスクール、ダートトラックの技術をベースにスキルアップを目指すBKスライディングスクールを主宰。

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