『虎に翼』菊地凛子と伊藤沙莉の思いが共鳴する 「モン・パパ」が包み込む“女子部”の現在

家庭局主催による「愛のコンサート」の日がやってきた。出演するのは、茨田りつ子(菊地凛子)。『虎に翼』(NHK総合)第65話では、前日の放送に続く『ブギウギ』(NHK総合)とのコラボ出演となり、りつ子が再び朝ドラで歌唱を披露した。

楽曲は「雨のブルース」。2作品が同時代であることは、第1話時点から寅子(伊藤沙莉)のセリフなどで示されていたが、こうしてりつ子のステージを寅子や多岐川(滝藤賢一)らが袖から見つめるシーンを観ると、不思議な気持ちになりながらも、本番前に楽屋で交わした寅子とりつ子の会話を聞いて、腑に落ちたものがあった。

りつ子は、衣装のほつれを見つけて繕ってくれている寅子の鞄から、娘・優未(金井晶)のお手玉と手紙を見つける。子供がいるということ、そして自身の仕事が好きで誇りを持っていることは寅子とりつ子を繋ぐ共通点だ。もちろん細かな背景は異なるが、優未の面倒を花江(森田望智)や直明(三山凌輝)たちに見てもらっている寅子と子供を田舎の母親に預けているりつ子。「この仕事が好きなんです。正確には法律です。憲法が変わって、より好きになりました。すべての人間を平等にできる。困った人の手伝いができる最高の仕事なんです」と話す寅子にとっての法律が、りつ子にとっては歌なのだ。軍歌は歌えないと歌手としての強い信念を持っていたりつ子と、「はて?」と声をあげ嘘をつかずに真っ直ぐ生きてきた寅子の思いが共鳴するのは必然だったのかもしれない。

この第65話では、りつ子だけでなく寅子も歌う。曲は十八番の「モン・パパ」だ。コンサートの成功と記者会見の場でりつ子が寅子の名前を出してくれたことで、寅子や多岐川たちは美酒に酔っていた。そこで「愛のコンサート」第2部として、多岐川から焚き付けられる形で歌うことになるが、寅子の「モン・パパ」は女子部の面々がバラバラになった時以来。女子部での思い出が走馬灯のように流れていく、寂しさと怒りが入り混じる「モン・パパ」だった。

良い顔で笑う寅子の歌声をバックに並行して、眠りから覚めた香子(ハ・ヨンス)が、汐見(平埜生成)が持って帰ってきたおにぎりを頬張る姿が映し出される。その形を見てすぐに梅子(平岩紙)が握ったおにぎりだと香子は気がつき、頬に涙が伝う。同じ頃、よね(土居志央梨)や轟(戸塚純貴)も梅子からおにぎりを受け取っていた。そこに涼子(桜井ユキ)の姿はないものの、それぞれが自分の人生を生きる、女子部の面々を包み込むような対比が「モン・パパ」を通じて描かれているように感じられる。

そこに一緒に内包されているのが、花江(森田望智)だ。道男(和田庵)がやって来ると、直道(上川周作)が夢に出てきてくれる。「私には分かる。直道さんがずっとそばにいてくれてるって」と言う花江に、直道は「分かってくれているって、俺には分かってたよ」と答え、抱き合う2人。母親としての“手抜き”を宣言して、子供たちとみんなで助け合う幸せを目指すことにした花江にとっての幸せは、ほっと一息ついた時に、楽しそうに笑う家族を眺めること。彼女もまた自分が幸せになること、自分の人生を生きることを決めた一人だ。
(文=リアルサウンド編集部)

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