元主婦が立ち上げた「一人出版社」 始まりは屋根裏の「小さな舟」から 「暮らしから生まれた物語を」

一人出版社を立ち上げた熊谷さん。「作る人の必然性がある本を手がけたい」と話す(京都市伏見区・書店「絵本のこたち」)

 京都市伏見区で書店「絵本のこたち」を営む熊谷聡子さん(53)が一人出版社「UEMON BOOKS」を立ち上げた。最初に手がけたのは、歴史の積み重ねや時間軸を想起させる舟の絵本。熊谷さんは「地域の暮らしから生まれた物語を届けたい」と思いを込める。

 きっかけは、2022年に夫で美術家の誠さん(56)の生家を建て替えで解体した際、屋根裏から小さな木造の舟が出てきたこと。舟の出現によって、誠さんの亡き父が「ここまでよく水がつかった」と語っていたのを熊谷さんと誠さんはともに思い起こした。生家の近くには、かつて巨椋池と宇治川から分離した横大路沼があったという。

 舟によってインスピレーションを得た誠さんはまもなく、「舟」シリーズの創作を始めた。熊谷さんは作品を目にして「この作品に言葉をつけて、本にしたらどうだろう」と考えた。「モチーフである舟は地域の暮らしから生まれたもの。別の場所にある出版社へ持ち込んで出すのは違うなと思いました」

 熊谷さんは18年に書店を開いた。出版社勤務を経て結婚し、専業主婦だった頃、子どもが通う小学校の図書ボランティアをしたことで、学区内に図書館や書店がないと気付いたからだった。書店を営むうちに、出版社や流通の仕組みは東京中心で、京都には独自の出版文化があるものの絵本は多くないこともあり、「いつか出版社をしたい」と思うようになった。

 出版社の立ち上げを決意し、絵本「ちいさい舟」の出版を計画した。文章は熊谷さん自らがつづった。「体裁は絵本ですが、私としてはアーティストブックで、絵をじっくり見てもらう形にしたかった」と明かす。

 2冊目の本はすでに進行中で、伏見区在住のアニメーション作家による作品といい「絵本にこだわらず、さまざまな本を出していきたい」と意気込む。

 「ちいさい舟」は2200円。

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