約1000km「みちのく潮風トレイル」全線開通5周年 「あの町好きや」を原動力に 東日本大震災からの歩みを発信

復興支援として東北の太平洋沿岸に整備された自然歩道「みちのく潮風トレイル」が、全線開通から2024年6月で5周年を迎えた。
岩手・宮古市では沿岸の“今”を発信するこの道で、ダイナミックな自然と東日本大震災からの歩みを感じられるウォーキングイベントが開かれた。

記念イベントで初訪問の人も!

復興支援で環境省がルートを設定した自然歩道「みちのく潮風トレイル」は、2019年に青森県から福島県までの沿岸の約1000kmがつながってから、2024年6月9日で5周年を迎えた。

その当日、岩手・宮古市では記念のウォーキングイベントが開かれ、県内外から約150人が参加。家族連れなど初心者も訪れ、盛岡市から初めて訪問したという参加者からは、「スピードは関係なく、景色を眺めたい」という声が聞かれた。

このイベントでは、4kmの短距離コースと10kmの長距離コースが設定され、宮古市の商店街や海沿いの道を歩く。2023年度に利用者が12万人を超えた「みちのく潮風トレイル」は、地元の人にも愛されている。

9日は、市内に住むハイカーの志賀鉄太郎さん(52)に案内してもらった。
スポーツ用品店を営んでいる志賀さんは「みちのく潮風トレイル」の魅力に取りつかれた1人で、全線踏破を目指している。

志賀さんは「スイミングクラブに通っていた時に、ふと周りを見るとすてきな自然歩道があった。そこから自分で調べて歩くようになった」とその魅力を語る。

まず訪れたのは、市内でも人気のスポットで宮古市を代表する景勝地「浄土ヶ浜」だ。

青い海に大きな白い岩が立ち並ぶ、まさに極楽浄土のような景色で、白い石浜を眺めながらトレイルを楽しむことができる。

志賀さんによると、宮古市を境に北と南で海の景色が大きく変わるという。北は断崖絶壁が多く、南に行くと、なだらかな海岸景色になる。トレイルで海岸を歩くとその変化もわかり、より面白いと話す。

参加者は記念写真を撮ったり磯(いそ)遊びをしたりと、浜辺でのひとときを楽しんでいた。

浄土ヶ浜まで歩いて来ることはほとんどないという子ども連れの参加者は、「宮古に住んでいても知らないことも多かったので、子どもに知ってもらえて良かった」と話した。

震災で変わる景色、変わらぬ魅力

コースを歩くと、東日本大震災後の町の歩みも、じかに感じられる。

津波で壊滅的な被害を受けた宮古港。
かつては町と海をへだてるものはなかったが、2021年3月には高さ10.4メートルの防潮堤が完成した。

志賀さんは、この防潮堤で町の風景ががらっと変わったと言う。「海は見えなくなったけれど、また津波が来るかもしれないと思うと、逃げる時間を確保するためには必要なものだ」と話した。

県外から来たハイカーもその変化を感じていた。

震災以降初めて訪れたという青森県からの参加者は、20年ほど前の訪問時と比べ、新しい家が建っているのを見て、「大変だったんだなとあらためて感じた」と語った。

一方、震災後に生まれた子どもたちは「山と浄土ヶ浜が楽しかった!」「しゃべりながら歩いた」「みんなで貝を見つけた」と、この場所が持つ本来の魅力をありのままに満喫していた。

普段は車で通るだけだという参加者も、「階段が大変だったけれど、ここに来たら楽しいだけ」と笑顔を見せた。

自分で歩くからこそ知ることができる魅力。参加者はそれぞれのペースで町を堪能しゴールしていた。

今の沿岸「途切れることなく」発信

5周年を迎えた「みちのく潮風トレイル」はさらに変化しようとしていた。

環境省では「みちのく潮風トレイル」につながる新たなトレイルとして、青森・八戸市から十和田市を結ぶ約120kmのコースを2024年秋から試験的に運用する。

八木哲也環境副大臣は、「途切れることなく次のルートを探す。日本中を一本の線でつなぐことが大事。この地域だけの宝ではなく、世界に発信できればいい」と意気込む。

宮古市ではハイカーたちを増やそうと、この5年間で水や休憩場所などを提供する店「トレイルオアシス」の設置を進めていて、現在50店舗が加盟している。志賀さんの店もその1つだ。

志賀さんは「ここのお店でこんな情報が得られるよ、ここでおいしいものが食べられるよと、私たち民間の人間がハイカーさんに伝えて、ぜひ喜んでほしい」と話す。

「『あの町好きや』と言ってもらえたら僕も笑顔になる」と明るい表情で語った。

震災を機に生まれた「みちのく潮風トレイル」。
今の沿岸をありのままに発信するその道が、交流を広げるきっかけになることが期待されている。

(岩手めんこいテレビ)

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