日本人学校への“陰謀論”垂れ流し、母子襲撃事件は本当に「偶発的」だったのか?―シンガポールメディア

シンガポール華字紙・聯合早報は27日、中国・江蘇省蘇州市で起きた日本人母子襲撃事件の背景について報じた。

シンガポール華字紙・聯合早報は27日、中国・江蘇省蘇州市で起きた日本人母子襲撃事件の背景について報じた。

6月10日、吉林省吉林市の公園で米大学許員4人が刃物で襲われ、止めに入った中国人1人を含む5人が負傷する事件が発生した。また、24日には江蘇省蘇州市でスクールバスを待っていた日本人の母親と子どもが男に刃物で襲われ軽傷を負い、止めに入った中国人女性は重体となった後、死亡が確認された。

蘇州市での日本人母子襲撃事件後、中国のメディアは香港に拠点を置くメディアを除いてほぼ「沈黙」状態だったが、翌日の外交部定例会見で記者からの質問に報道官が対応し、現地警察も「通知」を発表、メディアもそれに続いてようやく報じ始めた。

中国が「個別の事件」にしたい理由

聯合早報の記事は「中国外交部と警察当局の説明は、半月前の吉林省の襲撃事件と同様に『偶発的な事件』であることを強調した」とし、外交部の毛寧(マオ・ニン)報道官が「こうした偶発的な事件は世界のどの国でも起こりえるものであり、中国側は中国国民を守るのと同じように外国人の安全を守る」と述べたことを紹介。「日本総領事館の職員も日本人を狙った犯行という証拠はないとしているものの、現地で暮らす多くの日本人は不安を募らせ、外出を控えている」と説明した。

一方、中国ではこのほかにも襲撃事件が多発していると指摘。5月7日に雲南省の病院で刃物による襲撃事件が起き2人が死亡、21人が負傷したこと、5月20日には江西省貴渓市の小学校で女が刃物で人々を切り付け2人が死亡、10人が負傷したこと、6月19日には上海の地下鉄でやはり刃物による襲撃事件が起き3人が負傷したことを挙げた。

その上で、「上記の3件の事件について犯人の背景や動機はいずれも不明だが、吉林市と蘇州市の事件は類似点が多い」と指摘。「被害者はいずれも外国人で、止めに入った現地人が負傷(死亡)した。犯人は共に50代前半の無職。吉林省の事件では公園内を歩いていてぶつかったことがきっかけとされているが、なぜ男は公園に刃物を持っていったのか。蘇州市の事件ではスクールバスを狙った計画的犯行だった可能性が高い」と論じた。

記事は、「中国経済は近年減速しており、無職者が増加している。一部の人は不満を募らせ、『社会への報復』として過激な行動に出る。その中に外国人を狙った犯行があるのか。中国政府の立場からすると、現在積極的に外資や観光客を受け入れて経済成長を促そうとしている点、また社会の安定を維持しなければならないという点から、これらを『個別の事件』にしたいところだろう」と分析した。

日本人学校に関するさまざまなデマ

聯合早報の記事は、「近年、日中関係は領土問題や歴史問題でたびたび揺れてきた。日本が昨年8月に福島第一原子力発電所の汚染処理水の海洋放出を開始すると、中国の民間で対日感情が悪化し、蘇州や青島の日本人学校に石や卵が投げつけられた」と説明。一方で、「中国のインターネット上では日本人学校に関連したさまざまなデマが出回っており、今回の蘇州襲撃事件との関連性を考えざるを得ない」と述べた。

そして、デマについて「中国には35もの日本人学校があり、世界全体の日本人学校の40%を占める。中国国内の日本人学校は『独立王国』であり、外界から遮断され、日本人の生徒だけを募集して中国人は受け入れず、中国政府の管理を受けず、中国人の接近すら禁止している」というもので、こうしたデマはSNSで拡散され、多いものだと10万回以上の閲覧回数を記録していると紹介。

一方で、実際は「2023年4月15日現在、中国内の日本人学校は15で、世界全体に占める割合も16%ほど。日本人生徒しか募集していないのは確かだが、それは中国の教育当局による『中国公民の子女を入学させてはならない』という規定によるもの。日本人学校の活動については中国政府が管理しており、公式サイト上には活動情報も掲載されている。禁止しているのは中国人の立ち入りではなく部外者の立ち入りであり、これは中国の普通の小中学校でも同様だ」とした。

また、「最も奇妙な陰謀論」として、「日本人学校は、外見で中国人と区別できないスパイを養成することが目的であり、何十万人もの日本人が目に見えない水のように中国社会に溶け込み、さまざまな業界に潜伏して中国の情報を海外に流している」という根も葉もない言説があることや、「日本人学校を卒業すれば中国国籍を取得できる」とのデマまで存在すると説明。このデタラメだらけのいいかげんな陰謀論に疑問を投げ掛けると、他のネットユーザーから袋だたきに遭うのだとした。

事件は本当に「偶発的」だったのか?

記事は、「世界各地のネット上で陰謀論が流行するのは避けられないことだが、一部の中国ネットユーザーの日本人学校に対する妄想と不安は、中国の多くのセルフメディア(自メディア)が民族感情を利用して憎しみを広めることでトラフィックを稼ぐ風潮を反映している」と指摘。中国政府も今年初めに、愛国主義を振りかざした言いがかりの取り締まりを開始したことを伝えた。

そして、「日本人学校は中国に駐在する日本企業の従業員の子どもたちのために設置されたもので、中国の対外開放と日中交流の産物である。中国で学習するのは安全ではないと判断されれば、日本企業の中国撤退が加速することもあり得る」と言及。中国のネット上で日本人学校へのデマや憎しみがあおられ続ける中で起きた今回の事件について、「本当に『偶発的』だったのだろうか?」と論じた。(翻訳・編集/北田)

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