『笑うマトリョーシカ』櫻井翔の“完璧な笑顔”の恐ろしさ 圧倒的な第1話は「体感10分」

東京都知事選挙が6月20日に告示され、7月7日の投開票に向けた選挙戦が幕を開けた。今回は過去最多となる56人が立候補しており、誰に投票すべきか考えあぐねている人も多いはずだ。都知事選に限らず、あなたが大事な一票を投じたくなるのはどんな政治家だろう。

実績がある人? 公約に共感できる人? 笑顔が素敵な人? 誠実そうな人? 色々と観点はあるが、その人の“本質”を見ようとしたことはあるだろうか。6月28日に放送開始となる『笑うマトリョーシカ』(TBS系)は、とある政治家の“本質”を覗き込む物語である。放送に先駆けて視聴した第1話の内容から、見どころを紹介したい。

本作は、女性死刑囚の人生を周辺人物の証言から辿るミステリー『イノセント・デイズ』や、1995年の渋谷を駆け抜けた若者たちの青春群像劇『95』など、メディアミックス作品も多く、幅広い作風で支持を集めるベストセラー作家・早見和真の同名小説を原作としたヒューマン政治サスペンス。主演を務めるのは、8年ぶりのTBS連ドラ出演となる水川あさみだ。NHK連続テレビ小説『ブギウギでの好演も記憶に新しい水川。同作ではヒロインを見守る頼もしくも人間臭さがある母親役を陰影のある演技で見事にこなした。今回は正義感が強く、物怖じせず取材相手に切り込んでいく新聞記者役で主体となって物語を動かしていく。

ドラマは衝撃の幕開けだ。主人公である新聞記者の道上香苗(水川あさみ)に電話をかけてきた父・兼髙(渡辺いっけい)が何かを伝えようとした矢先に事故死してしまう。兼髙もまた新聞記者で、亡くなる直前まで“ある事件”について調べていた。

一方、あるスクープをきっかけに社会部を外され、文芸部に異動となった香苗は人気政治家・清家一郎(櫻井翔)の自叙伝についての取材で彼の母校を訪れていた。そこで香苗は、自叙伝には存在しない鈴木俊哉(玉山鉄二)というブレーンの存在を知る。高校時代は清家を指導して生徒会長に押し上げ、現在は秘書として彼を支える鈴木。その彼こそ、兼髙が調べていた事件の背景にいる重要人物だった。

玉山鉄二といえば、日曜劇場『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』(TBS系)での擬態ぶりが印象深い。ビジュアル面から完璧に役作りし、市役所勤めの気弱なファゴット奏者役に臨んだ玉山は視聴者を良い意味で欺いた。キャストを確認するまで、玉山と気づかなかった人も多くいるそうだ。そんな玉山が今作では一転、鈴木の有能な秘書ぶりを体現している。鈴木はどんな時も表情を崩さない鉄壁の男で、真意が見えづらい。そのため、明らかに裏がありそうなのだが、それよりも怪しさ満点なのが清家だ。

本作最大のキーパーソンとも言える清家を演じるのは、櫻井翔。清家は新たに発足された内閣に厚生労働大臣として初入閣を果たし、“未来の総理大臣”とも謳われる若手議員だ。清潔感があり、親しみやすい人柄とリベラルな言動で支持を集めている。そんな清家の第一印象は櫻井のイメージそのものだった。

報道番組のキャスターを務め、丁寧かつユーモアのある語り口調で堅苦しくなくニュースを届ける知性派アイドル。それなのにどこか隙があって、老若男女問わず誰もが親近感を抱いてしまう。その魅力を逆手にとり、清家役にキャスティングしたのは秀逸としか言いようがない。清家も一見好感度抜群で、取材にも快く対応するので、彼に対してある不審な点を見つけた香苗さえも拍子抜けしてしまうほど。だが、その完璧な笑顔を見続けているとなぜか恐ろしい気持ちになるのだ。開けても開けても同じ顔が出てくるマトリョーシカのように、“本質”が全く見えず、迷宮入りしそうな気分になる。いつもの櫻井翔だと思って気を抜いていたら、意表を突かれそうな新境地の演技を堪能してほしい。

初回の放送は体感10分で、物語が淀みなく展開されていった。今後はさらに複雑に絡み合っていくであろう水川あさみ×玉山鉄二×櫻井翔のアンサンブルにも期待したいところ。そこに香苗の先輩である社会部記者・山中役の丸山智己や、文芸部の後輩記者・青山役の曽田陵介、香苗の息子・勇気役の森優理斗、第2話以降の登場となる謎の女役・高岡早紀など、幅広い年齢層の実力派キャストが色を添える。個人的に鈴木の高校時代を演じる西山潤が玉山にそっくりで驚いたので、ぜひ注目してみてほしい。
(文=苫とり子)

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