BABYMETALは海外アーティストが強く求める存在に BMTH、Electric Callboy……コラボ曲から考察

5月末に開催された自身初の主催フェスティバル『FOX_FEST』を見事に大成功に収め、6月は『Download Festival』や『Rock am Ring』といったヨーロッパ各地の大型フェスティバルに出演、11月からは全米ツアー(計15公演)を予定しているBABYMETAL。2012年に行われた初の海外公演から10年以上が経過した今、彼女たちは単なる話題性を超えた確固たる地位を確立しており、その人気ぶりは前述のフェスティバルにおいて軒並みメインステージか後半の時間帯での出演となっていることからも裏づけることができる。今やBABYMETALは「海外でも人気」の枠を超え、「海外のフェスティバルにおける主要なアクトの一つ」となった。

そうした活動の結果は自身の楽曲にも反映されており、アルバム『METAL GALAXY』(2019年)には4組の海外アーティスト(Joakim Brodén from Sabaton、Tim Henson and Scott LePage from Polyphia、Alissa White-Gluz from Arch Enemy、F.HERO)が参加。さらに近年では、客演としてBABYMETALの名前を見ることも珍しくない。本稿ではそうした「海外アーティストとのコラボ曲」に焦点を当てることで、現在のBABYMETALという存在について迫っていきたい。

『FOX_FEST』出演者とコラボ 孤高の存在同士が共振する姿

まずは、『FOX_FEST』でも第一弾出演アーティストとして発表され、実際のステージ上でも共演が実現した、現在のBABYMETALにとって特に重要な2組の楽曲から見ていこう。

「Brand New Day feat. Tim Henson and Scott LePage from ‪Polyphia」(BABYMETAL/2019年)

アメリカ・テキサス州で結成され、超絶技巧の演奏と、細部まで丁寧に音を紡ぐ緻密な表現力でオーディエンスを魅了してやまないプログレッシブメタルバンド Polyphia。2010年の結成以来、その唯一無二のサウンドによって多くのファンを獲得してきた同バンドだが、2019年のBABYMETAL『METAL GALAXY』に収録された本楽曲が、その知名度をさらに高めるきっかけとなったのは間違いないだろう。

以前よりインストゥルメンタルを中心に物語性の高い楽曲を構築してきたPolyphiaと、ドラマティックな瞬間を幾度も楽曲で迎えるBABYMETALの相性は素晴らしく、本楽曲はアルバムの中でも特にアンセミックで力強い名曲となっている。両者はジャンルの枠を完膚無きまでに破壊してきたシーンの異端児同士であり、そのエッセンスが楽曲全体に確かに刻み込まれているにもかかわらず、ある種“王道”のような印象すら感じさせるのがこのコラボレーションで特に興味深いところだ。

「RATATATA」(BABYMETAL × Electric Callboy/2024年)

Polyphiaと同じく2010年に結成された、ドイツが誇るメタルコアパーティバンド Electric Callboy。「feat.」表記ではなく連名で発表された本楽曲は、BABYMETALの透き通った歌声&キュートな掛け合いと、Electric Callboyらしい重厚でありながらもキャッチーに突き抜けたハイテンションなサウンドがまさに正面からぶつかり合ったような会心の仕上がりとなっており、5月末のリリースから1カ月足らずでSpotifyの再生回数が1900万回を超える大ヒットを叩き出している。

ダンスミュージックの影響を取り入れたメタルコアといえば、Enter Shikariや(『FOX_FEST』にも出演していたBILMURIことジョニー・フランクが在籍していた)Attack Attack!以降の2000年代後半~2010年代前半の動きを彷彿とさせるが、今回のコラボが興味深いのは、BABYMETALもElectric Callboyも1990年代のユーロダンスからの影響を全面的に取り入れ続けてきたアーティストであるという点だ。〈Ra-ta-ta-ta-ta-ta〉や〈Bun-bun-bun〉といったフレーズの数々やトランシーなシンセサイザーの音色がダサくならず、むしろ観客をモッシュピットへと誘う原動力となっているのは、ひとえに両者が恐れることなく、そこにある強烈なエネルギーを探求し続けてきた結果だろう。

PolyphiaとElectric Callboyはともに2010年結成であり、実はBABYMETALとは同期にあたるアーティストである。それぞれの音楽性は異なっているものの、(ともすれば枠組みが特に重要視される場所でもある)メタルシーンを相手に、恐れることなくさまざまなジャンルを飲み込んだ唯一無二のサウンドを提示し、長年にわたってブレることなく戦い続けてきた3組にはどこか共振するものが感じられるのではないだろうか。それは、2つのコラボ曲が今までに聴いたことのないようなユニークなものであるにもかかわらず、堂々たるキラーチューンとして鳴り響いている理由でもあるように思う。

ビッグネームとのコラボ曲が示すBABYMETALの重要性

一方で、ファンの枠を超えてシーン全体に衝撃を与える巨大なコラボレーションにおいても、近年のBABYMETALの立ち位置の変化を感じ取ることができる。

「The End (feat. BABYMETAL)」(Lil Uzi Vert/2023年)

現代のヒップホップシーンにおいて、トレンドに振り回されることなく、自分がクールだと思うものを徹底して追求することによって唯一無二の存在感を放ち続けるLil Uzi Vert。昨年リリースされたアルバム『Pink Tape』は、System Of A Down「Chop Suey!」の完コピ(「CS」)やBring Me The Horizon(以下、BMTH)との共作(「Werewolf (Feat. Bring Me The Horizon)」)、プロレスラー 中邑真輔の入場曲を大胆にサンプリングした「Nakamura」など、まさに自身の趣味性がジャンルの枠を超えて存分に発揮された作品となっていたが、そんな同作のラストナンバーとして配置されたのが「The End」だ(ボーナストラックは除く)。

もはやヒップホップアルバムとは形容できないほどの要素をぎっしりと詰め込んだ本作だが、カオティックなサウンドに振り切りながらもポジティブなエネルギーで満ちた「The End」が最後に配置されていることで、ともすれば散漫な印象を与える危険性すらあったアルバムに見事な一貫性が生まれている。それは本楽曲がアルバム中もっともブッ飛んだ、それでいてポップな仕上がりとなっているからであり、間違いなく(制作チームも含めた)BABYMETALの協力がなければ実現しなかったものだろう。Lil Uzi Vertは作品における自身の姿勢を明確に示すためにも、BABYMETALという劇薬を必要としていたのだ。

「Kingslayer (feat. BABYMETAL)」(Bring Me The Horizon/2020年)

言わずと知れた、BABYMETALと最も交友の深いロックバンドであるBring Me The Horizon。とはいえ、2020年にリリースされたアルバム『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』に収録されたこの曲が、同作、あるいはBMTH自体の立ち位置を何段階も上へと引き上げたのは間違いない。昨年、彼らが主催した『NEX_FEST』において最大のハイライトを演出していた本楽曲は、イントロの強烈なシンセサイザーのフレーズを皮切りにフロアを熱狂のカオスへと導く、現在のBMTHを最も象徴する楽曲の一つとなっている。

当時、パンデミックが生み出した先行きの見えない世界と、その中で戦う人々の姿を描こうとしたBMTHにとって、孤高のままシーンに挑み続けるBABYMETALの存在は、まさに楽曲のテーマと合致するものであり、バンドが必要としているものでもあった。その判断がいかに正しかったのかについては、本楽曲が(絶賛された先行シングル群を超えて)作品における最大のヒット曲となったことが証明しているだろう。かつてはBABYMETALをフックアップする側だったBMTHが、今度は彼女たちの助けを借りることによって、現状を打破するための突破口を切り開いたのだ。

Lil Uzi VertとBMTHに共通しているのは、BABYMETALがいなければ作品の性質がまるで異なっていたであろうという点だ。求めているのは単なる話題性ではなく、カオティックでありながらも劇的にポップで、親しみやすさを感じさせながらも孤高のままに戦い続けるBABYMETALという存在そのものであり、自身の中にある理想やビジョンを彼女たちに託すことによって、その作品を完成させているのである。

Bring Me The Horizon - 'Kingslayer' ft. BABYMETAL (Live In Tokyo)

デビュー当初はシーンにおける異物中の異物だったはずのBABYMETALは、今では海外フェスティバルの主要アクトの一つとして名を連ねるほどに確固たる地位を確立し、気づけばシーン全体の動きを先導する側に立っている。『FOX_FEST』の開催に象徴される近年の活動は、そうした状況を自覚し、新たな役割を引き受けようとする姿勢の表れでもあるのだろう。だからこそ、こうしたコラボ曲は単なる客演という範疇を超えて、いかにBABYMETALがブレることなく戦い続けてきたのかを証明しているように感じられる。

10年以上にわたって戦い続けてきたその姿こそが、カオスが広がり続けている現代において、BABYMETALを象徴する新たなイメージの一つとなり、一際美しく輝いている。

(文=ノイ村)

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