いざ、百花繚乱の地へ。ブリヂストンが臨むコンペティションの新たなステージ

 今シーズンからオフィシャルサプライヤーとしてスーパー耐久の全9クラスにワンメイクタイヤを供給するブリヂストン。駆動方式や排気量などがことごとく異なる車種群に、どのようなコンセプトのタイヤを用意しているのか。富士24時間レースの現場を主体にST-2クラスにて、その実態を探ってみた。

* * * * * *

「大ベテランやGTドライバーを除くと、ハコ車でブリヂストンのスリックタイヤを使ったことのある人って意外と少ない。だからみんなびっくりするんだよね、『こんなにすごいんだ!』と」

「去年のST-4とST‐5クラスで暫定的に供給されていた市販スポーツタイヤでも『これで充分』と思っていたけど、自分でもスリックを履いたら本当にすごかった」

 こう語るのは、スーパー耐久のST‐2クラスで今年からSPOON リジカラ CIVICをドライビングするピストン西沢だ。

 前タイヤサプライヤーの工場火災のトラブルにより、2024年からの予定を前倒しして緊急対応したブリヂストン。その供給が始まったのが昨年の第2戦、富士24時間レースだった。そして、当時からブリヂストンのタイヤには驚きの声が上がっていた。

 昨年ST‐5クラスでチャンピオンを獲得し、今季はST‐2クラスでOHLINS CIVIC NATSを操る山野哲也もこう語る。

「スリックも万能ですね。ひとことで言うとブリヂストンらしいタイヤ。剛性が高く、それをつぶしながら走れればグリップがより安定します。ドライバーを育ててくれるタイヤですね」

 “現役のレジェンド”として23回のタイトル獲得を誇る、山野の全日本ジムカーナ選手権マシンの足元を支えるのはブリヂストン。過去のシビックワンメイクレースでもブリヂストンでF1チャレンジカップの頂点を極めており、その知見もパートナーである若手ドライバー育成にひと役買っているという。

 スーパー耐久にはアマチュアドライバーが主体となって参加するため、タイヤ開発にあたってもその点が重要視されていることは言うまでもない。しかし一方でプロの使用にも対応できる懐の広さも必要だ。

「開発に際しそのあたりは意識しています。そしてそれ以上に大事だなと思うのが、タイヤの使い方についてコミュニケーションを取ることです」

「設計チームにも人数を多めにして来てもらったり、エンジニアを各所に配置して、何か困ったことがあったらすぐに問い合わせいただけるような体制も採りました」と語るのはブリヂストンの国内モータースポーツオペレーション部の鈴木栄一氏だ。

 この言葉を裏付けるとおり、今年の富士24時間にいたっては300人近くのドライバーが参加しているものの、タイヤに起因するトラブルや、使い勝手の悪さを指摘する声は聞かれない。

 ST‐2クラスは排気量や駆動方式が一様でない3車種がエントリーしているが、それぞれのドライバーのコメントもこれを具体的に証明する。

 Honda R&D Challenge FL5を操り昨年チャンピオンを獲得した石垣博基は「FFは操舵も駆動も行なうので前輪に負荷が集中しますが、極端なセッティングやドライビングをしなくてもとにかく安定しています」と語る。

 対極に位置する重量級の新菱オートDXL夢住まい館EVO10のドライバー、菊池靖の言葉も同様だ。

「高いパフォーマンスが長く続くので、セッティングやアライメントにも新しいチャレンジができます。ランサーだと連続スティント(での使用)は厳しかったけど、それができるようになった」。

 一方で、バランスのいい最新4駆、GRヤリスにとっては、「タイヤの保ちを活かして決勝での強みを持っていましたが、ライバルも保つようになってしまいました(笑)。でもドライバーとしては瀬戸際の戦いが続いて楽しくもありますね」とENDLESS GRヤリスの花里祐弥は語る。

 各クラスで異口同音に語られるブリヂストン製スリックタイヤの高バランス性。そしてそのことが、スーパー耐久にこれまで以上の競技性をもたらしている。

車格も三様ながら、同クラスに属するタイプR、エボX、GRヤリス。タイヤ性能の安定化で、「戦いがより激化した」と各ドライバー。
パドックには巨大なサービステントが用意された。
富士24時間レースに持ち込まれたタイヤはドライ4000本、ウエット2500本の計6500本。国内レースでは最大規模となる。
今年の24時間では夜間雨に見舞われたがタイヤを履き替えずドライのまま走行を重ねたマシンも多かった。KTMS GR YARISの小林利徠斗は今季から初めて耐久用のタイヤを履いたが、安定感に驚いたという。

* * * * * *

■スーパーGTチャンピオンに聞いた耐久用タイヤならではの寛容性と難しさ

■平峰一貴/2022年 GT500クラスチャンピオン

平峰一貴/2022年 GT500クラスチャンピオン

S耐にはさまざまなドライバーが参戦しているなかで、このタイヤは誰が乗ってもしっかりとウォームアップできてグリップの感覚をつかめる良いタイヤだと思っています。路面温度の低い高いにかかわらず、最初からちゃんとしたグリップを感じられるので、アマチュアにとってもすごく恩恵のあるタイヤですね。

■吉田広樹/2023年 GT300クラスチャンピオン

吉田広樹/2023年 GT300クラスチャンピオン

ウォームアップが悪くなくて長く保つという印象を持っています。特にS耐に関してはジェントルマンドライバーが乗ることも意識されているのか、ウォームアップ性がすごく意識されていると思います。あとスーパーGTでもそうですけど、タイヤトラブルがないんです。ドライバーとして、この安心感はとても重要ですからね。

■今年の富士24時間レースにいたっては300人近くのドライバーが参加。

しかし、タイヤに起因するトラブルや、使い勝手の悪さを指摘する声は聞かれない

シンリョウレーシングチームのオーナードライバーの冨桝朋広(右から2人目)は「ライフが長く、本当のピークはあるんだろうけど予選アタックで1、2周多く走れるのがジェントルマンには助かるはず」と言う。
チューニングカーなどでもブリヂストンタイヤを履く機会の多いSPOON リジカラ CIVICの山田英二(右)は「タイヤを完全に信頼してるからね。車をどう合わせ込むか、そこに尽きるね」と評価。
山野(右から3人目)は「当時もブリヂストンタイヤだったけど、ホンダのFFにまた乗れることになったのも何かの縁」だという。
2024年6月29日発売 autosport No.1598

株式会社ブリヂストン https://ms.bridgestone.co.jp

2024年6月29日発売 autosport No.1598より転載

投稿 いざ、百花繚乱の地へ。ブリヂストンが臨むコンペティションの新たなステージautosport web に最初に表示されました。

© 株式会社三栄