【感染症ニュース】「梅毒」原因で脳梗塞か… 2024年の梅毒感染者6000人超えの流行続く 医師「神経梅毒の増加危惧」

感染初期でも発症の可能性が!

国立感染症研究所の感染症発生動向調査週報2024年24週(6/10〜16) 速報データによると、この1週間の梅毒の感染者報告数は全国で190人。今年の累積報告数は6183人となりました。去年のこの時期(2023年24週)の累積報告数も6762人と6千人を超えており、梅毒の流行はいまだに続いている状況です。
今年の都道府県別の累積報告数では、東京都1569人、大阪府797人、愛知県358人、福岡県348人、神奈川県345人、北海道220人、千葉220人と大都市圏が多く、次いで埼玉、兵庫、岡山、茨城、静岡、広島が100人を超えています。

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梅毒とはどのような感染症?

梅毒とは、梅毒トレポネーマという病原体により引き起こされる感染症で、主にセックスなどの性的接触により、口や性器などの粘膜や皮膚から感染します。オーラルセックス(口腔性交)やアナルセックス(肛門性交)などでも感染します。また、一度治っても再び感染することがあります。感染者の年齢は、男性は20〜50歳代、女性は20歳代が多くなっています。男性の場合、以前は同性間の性的接触による感染が多かったのですが、近年では異性間での性的接触による感染が多くなっています。

感染症に詳しい医師は…

感染症に詳しい大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長の安井良則医師は「梅毒は2022年、2023年と2年連続で患者報告数が1万人を超えています。今年もこのペースでは1万人を上回る可能性があると思います。梅毒は治療が遅れると、命に関わることもありますし、妊娠している方が梅毒にかかると、胎盤を通じて胎児に感染し、死産や早産、また先天梅毒となることがあるので、注意が必要です」としています。

梅毒に感染すると?

梅毒に感染すると数週間後に、主に口の中や肛門、性器などにしこりや潰瘍ができることがあります。これらの症状は痛みが伴わないことが多く、治療しなくても自然に治ります。しかし、その間にも病気が進行する場合があります。感染から3か月程度すると、今度は手のひら、足の裏、体幹部などに淡い赤色の発しんがでます。小さなバラの花に似ていることから「バラ疹(しん)」とも呼ばれますが、この時にはすでに梅毒の原因である梅毒トレポネーマが全身に広がっています。しかしこの症状も数週間以内に自然に消えますが、治ったわけではありません。他にも肝臓や腎臓など、全身の臓器にさまざまな症状を呈することがあります。そして、感染後数年後には、ゴム腫と呼ばれるゴムのような腫瘤が皮膚や、筋肉、骨などに出現し、周囲の組織を破壊してしまうことがあります。また、大動脈瘤などが生じる心血管梅毒や、精神症状・認知機能の低下などを伴う進行麻痺、歩行障害などを伴う脊髄癆(せきずいろう)がみられることもあります。

「神経梅毒」

また、梅毒トレポネーマが中枢神経系に浸潤した状態になる「神経梅毒」も気がかりです。早期神経梅毒でも髄膜炎や脳梗塞等を呈する場合があります。
安井医師は、「脳梗塞で入院された患者さんの診察結果を目にすることがありました。この方は、入院時の検査で、梅毒の感染が判明。その後の検査で、髄液からも梅毒トレポネーマが検出され、入院前に、ふらつきなどの症状があったことから「神経梅毒」と診断されました。感染経路は不明ですが、とにかく治療しなければならないとのことで、ペニシリン系の抗菌薬が点滴投与されました。その後、脳梗塞の後遺症に対するリハビリを行うことになったとのことです。梅毒に感染すると血管の変化や、髄液を通じて脳内に病原体が侵入し、結果、脳梗塞を引き起こす可能性があります。この患者さんもおそらく、梅毒が原因で脳梗塞になったと考えられます。神経梅毒は、早期に発症するケースと晩期に発症するケースがあり、感染してすぐに発症する場合もあります。梅毒の感染者が増えると、こう言ったケースも増えるのではないかと危惧しています」としています。

梅毒の検査・治療法は?

梅毒の検査・治療については、男性は泌尿器科、女性は婦人科などで受けられます。また地域によっては保健所などで匿名・無料で検査できるところもあります。検査当日に結果が出る即日検査もあるので、事前に相談の上検査を受けるといいでしょう。
治療についてはペニシリン系などの抗菌薬が有効です。国内では抗菌薬の内服治療が一般的に行われてきましたが、2021年9月には、世界的な標準治療薬であるベンジルペニシリンベンザチン筋中製剤の国内での製造販売が承認され、治療に使われるようになりました。内服治療の場合は、内服期間は病期などを考慮して医師が判断します。医師の許可を得るまでは、症状がよくなっても、自己判断で内服を中断しないことが重要です。また、医師が安全と判断するまでは、性交渉等の感染拡大につながる行為は控えるようにしましょう。

引用
国立感染症研究所 感染症発生動向調査週報 2024年24週(6/10〜16)、梅毒とは、IDWR2022年第42号〈注意すべき感染症〉梅毒
厚生労働省HP:梅毒、梅毒に関するQ&A

取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏

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