【社説】止まらぬ円安 政府の無策ぶり、目に余る

 37年半ぶりの円安水準を更新する流れが止まらない。きのうの東京外国為替市場で、円は一時1ドル=161円台にまで下落した。

 日米の金利差が原因とする見方もあるが、欧州通貨のユーロに対しても最安値を更新している。まさに「円の独り負け」状態である。

 円安は物価高を招き、国民生活に負担を強いる。にもかかわらず政府は「急激な変動は望ましくない」と決まり文句を繰り返すだけで、円安に本気で立ち向かう姿勢がどうも感じられない。

 物価高は消費税収増につながる。貨幣価値が下がることで国の借金も実質的に目減りする。政府にとって都合が良いことも多いから円安を歓迎しているのかと勘繰りたくもなる。しかし、さすがにこの水準は行き過ぎではないか。

 民間調査によると、家計の支出負担は2023年度に比べ24年度は10万円余り増えるという。ただ、試算は原油価格が横ばいで、円安は年度末にかけ1ドル=154円から143円へと和らぐ想定だ。160円を超す状況が続けば物価高で負担はさらに重くなり、定額減税など吹き飛んでしまいかねない。

 家計消費は既に落ち込み、不景気なのに物価高が続くスタグフレーションの様相を見せている。円安歓迎の経団連でさえ「行き過ぎ」と懸念している現状は軽視できない。

 日銀は7月末の政策決定会合で利上げなどを検討する。しかし、消費がしぼむ中での利上げは景気を腰折れさせる危険もはらむ。

 そもそも為替対策は財務省の所管である。日銀任せにせず、財務省が責任ある対策を講じるのが筋だろう。

 日本には外貨準備が200兆円近くもある。4~5月の介入実績は過去最高だったというが10兆円にも満たない。必要なら介入をためらう場面ではないはずだ。

 介入以外にも手段はある。例えば政府が外貨準備のために保有する米国債。満期償還されたドルをそのまま米国債に再投資せずに、円に戻すだけでもかなりの円買い効果を生むだろう。

 企業が海外で得た外貨を国内に戻す際に一時的に減税をすれば円買いを促す。これは米政権も行ったことがある。

 新しい少額投資非課税制度(NISA)の対象商品から外国株や外国債を一時的に除くことを検討してもいい。投資の際に発生するドル買い需要を抑えることになる。

 国民の不満は、円安で得られた果実を十分に還元せず、物価高という負担だけを押し付ける政府の無策ぶりにも起因している。取り組むべきは介入などで一時的に対応しつつ、日本経済を底上げしていく根本的な浮揚策を急ぐことに尽きるのではないか。

 賃上げの具体的な促進や企業の設備投資強化、海外企業の国内誘致など、取り組むべき課題は山のようにある。求められるのはアベノミクスの焼き直しやばらまき補助金ではなく、信頼に足る政策である。米国の利下げをただ待つようでは、今の円安はとても食い止められない。

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