ポルシェ 911カレラGTS(997型)はGT3に近いスポーツ性を持っていた【10年ひと昔の新車】

2010年秋、997型ポルシェ911カレラに、カレラシリーズの頂点に君臨する「GTS」が登場した。すでにカイエンに「GTS」が設定されていたが、911カレラに「GTS」が設定されたのはこの時が初めてだった。カレラRS2.7を彷彿とさせる「新しいモデル」はどう受け入れられたのか。今回は発表間もなくアメリカ・カリフォルニアで行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2011年1月号より)

“パッと見”の印象はどこかGT3の雰囲気にも似ている

カレラシリーズの頂点に君臨する1台とポルシェ自らがそう紹介するのが、2010年のパリサロンでヴェールを脱いだ911カレラGTSだ。

クーペとカブリオレという2タイプを用意するこのモデルは、後輪駆動ながら4WDシリーズが用いるリアフェンダー周りが44mmワイドなボディを採用し、リアエンドにはカレラS用をベースとしながら主に吸気系に手を加えた3.8Lの専用エンジンを搭載。さらに、“ワイドボディ”の採用でトレッドが拡大された後輪には、カレラSの295/30Rに代え305/30Rタイヤを装着する。

サスペンションは、電子制御式ダンパー“PASM”を標準装備。また、クーペに限ってはさらに20mmのローダウン化を図った上でLSDも加えた“PASMスポーツ”をオプション設定する。ただし今回、カリフォルニアでテストドライブしたクーペには、LSDのみがオプション装着されていた。

そのルックスが、カレラSよりも多少なりともスポーティで迫力を増して見えるのは、前出ワイドボディの採用と共にフロントのセンターエアインテークに斜めのリブが加えられ、“パッと見”の印象がどこかGT3の雰囲気にも似ているためだろう。実際、「最もスポーツ性の高いカレラ」というフレーズを謳うこのモデルでは、カレラSとGT3の間に開いた狭間を埋めるポジショニングが間違いなく意識されている。

このところのポルシェの好調ぶりは、巧みなマーケティング戦略も大きく奏功してのものに違いないが、このモデルもやはり同様に、計算し尽くされたマーケティングの結果から生まれたと言って良いはずだ。

インテリアの雰囲気が意外なまでに新鮮なのは、シートのセンターセクションに加え、ステアリングホイールやドアグリップ、ドアポケットのリッドまでが、ブラックのアルカンターラ素材でコーディネイトされているゆえ。ちなみに、このモデルでは2シーターが標準で、リアシートは無償のオプション扱い。すなわちここでも、GT3にオマージュを抱きつつ誕生したのは明らか。もっとも、リアシートの省略は実際に軽量化にも貢献していて、ボディとリアタイヤのワイド化が図られたにもかかわらず、車両重量はカレラS比で5kgのマイナスを実現する。

エンジンに火を入れると、この911カレラGTSが決して「イメージだけのトップモデル」ではないことを教えられる。何しろ、スターターモーターによってクランキングが行われ一瞬の間を置いて“完爆”に至った際のそのサウンドは、カレラSのそれよりも明らかに迫力あるもの。実はこのモデルは、スポーツエキゾーストシステムを標準装備。それがGT3ほどではないとはいえ、スポーティで迫力あるサウンドを生み出しているのだ。

内装はブラックのアルカンターラが標準仕様。

専用チューニングエンジンと絶妙にバランスする後輪駆動

かくして、そんなサウンドからいよいよ期待が高まる動力性能は、いざ走り始めると「まさに期待どおり」という印象だった。

街乗りシーンではカレラSとの差異はさほど明確ではないが、アクセルペダルを踏み加えて4000rpm付近へと達すると、そこでは十二分に太いトルクがさらに上乗せされているのを実感。そこから上の回転域でも、パワフルさは「カレラS用ユニットの1割増し」という印象が強い。実際、このモデルの心臓が408psという最高出力を発するのは7300rpmで、それはカレラS用ユニットが385psの最高出力を発するポイントよりも800rpmも高いのだ。

もちろん、そうは言ってもGT3用エンジンが生み出す、高回転域にかけての圧倒的なパンチ力とは明確な差は存在する。が、それでも専用チューニングを施された心臓が生み出すパワフルさは、ノーズの動きの機敏さを狙った結果の“2WDシャシ”が生み出すシャープで軽快なハンドリング感覚と、なかなかお似合いのバランス感覚を演じている。

今回は公道上でのテストドライブゆえ、高速道路上でハイスピードゾーンでの安定性は確認できなかった。が、「カレラSとGT3のライン上」というポジショニングの狙いどころからすれば、例えスタビリティ面でさらなる余裕が稼げるとしても、このモデルに4WD仕様が存在しないことに文句をいう人は少ないかも知れない。ちなみに、クーペとカブリオレを乗り比べると、そこでは少なくないボディ剛性感の違いがあって、当然ながら走りの質感の点でより好感が持てたのはクーペの方だった。

日本では7速PDKに限定される仕様の価格は、クーペで1604万円、カブリオレで1852万円という値。なるほど、GT3が「クーペでMTオンリー」ということを考えると、これもまた、実に巧みなポルシェ流のマーケティングの成果であるのかも知れない。(文:河村康彦)

11カレラよりリアフェンダーが44mmワイドとなるボディにRRを組み合わせ、フロントトレッドは2mm、リアドトレッドは32mmもワイド化される。

ポルシェ 911 カレラGTS クーペ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4435×1852×1300mm
●ホイールベース:2350mm
●車両重量:1420kg
●エンジン:対6DOHC
●総排気量:3800cc
●最高出力:300kW(408ps)//7300rpm
●最大トルク:420Nm/4200-5600rpm
●駆動方式:RR
●トランスミッション:6速MT(7速DCT)
●駆動方式:RR●最高速:306(304)km/h
●0→100km/h加速: 4.6(4.4)秒
※EU準拠

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