ホタル舞う 水辺再び 高萩・大北川 19年台風で激減 環境回復、住民ら感慨 茨城

ホタル幼虫の餌となるカワニナの生息を確認する矢吹勉さん(手前)と鈴木勝一さん=高萩市横川

茨城県高萩市横川の小山ダム周辺の大北川に、2019年の台風19号(東日本台風)で減少したホタルが戻りつつある。例年200~300匹が乱舞していたが台風による河川増水で生息環境が失われ、20年には数匹に落ち込んでいた。今年は既に60~70匹が確認されており、遊歩道整備などに取り組んできた地元住民が温かく見守っている。

市などによると、ホタルは、県などが05年のダム完成前に放流。ダム底に住宅が沈む地域住民がにぎわい創出につなげようと要請して実現した。放流されたのはゲンジボタルで、ダムから下流域で観察できるようになったという。

放流されたホタルは大北川に定着。同市のNPO法人「里山文化ネットワーク」によると、13年に約300匹、17年には約1000匹が確認できたという。

地元団体や住民は地域活性化に生かすため、ホタル観賞が楽しめるよう遊歩道の草刈りを実施。毎年6月になると近隣住民らがホタル観賞するのが恒例になっていた。同NPOの矢吹勉理事は当時の光景について「木々にホタルが集まり、まるでクリスマスツリーのようだった」と振り返る。

住民を魅了していたホタルの生息環境は、19年10月に茨城県を襲った台風19号で一変。同市では降り始めからの総雨量が391ミリに達し、被害は山間部に集中した。このため、ダム下流域ではホタルが好む緩やかな流れをつくる土やヨシなどの植物が流失。幼虫が羽化のため上陸できる環境がほとんど失われ、翌20年の調査では数匹しか確認できなかった。

現在は植生も回復しつつあり、川には幼虫の餌となるカワニナも増加しているとみられる。ホタルの生息数は台風前に及ばないものの、矢吹さんは「人の手を極力加えず、自然の力で戻ったことがとてもうれしい」と目を細める。

ホタルの復活を信じて遊歩道の草刈りを続けてきた「市里山づくり委員会」の鈴木勝一副委員長も、大北川に舞ったホタルについて「とてもきれいだった」と感慨深そうに話した。

大北川のホタルは7月上旬まで楽しめる見通し。2人は「今後もホタルの復活を見守っていきたい」と声をそろえた。

大北川上空を飛び交うホタル=2017年6月、高萩市横川(東海林正作さん提供)

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