「葬儀代は自分で準備してある」という母。もし亡くなった場合、勝手に口座から引き出していいのでしょうか?

母親が亡くなった後に故人の口座から葬儀代は引き出せる?

銀行口座の名義人が亡くなった場合は、金融機関にその旨を連絡する必要があります。この連絡を受けると、個人の口座は凍結されて、お金の出し入れができなくなります。口座凍結は、相続人全員の同意によって遺産分割協議が終了するまで続き、所定の手続きを行うことで解除可能です。

葬儀代などまとまったお金が必要な場合に、口座凍結前なら個人の口座からお金を引き出せると考える人もいるでしょう。物理的にお金を引き出すことは可能ですが、相続人が複数人いる場合は、全員の同意を得てから引き出すことが賢明です。また葬儀代に使ったことが証明できるようにしましょう。遺産分割の際にトラブルにならないよう注意が必要です。

口座凍結を解除するために必要な書類

母親が亡くなった後に銀行に連絡すると、預金口座は凍結されて、お金の出し入れはできなくなります。口座凍結を解除して、お金を引き出せるようにするための必要書類は、金融機関や相続方法により異なりますが、一般的には以下のような書類を用意します。

【遺言書・遺産分割協議書がない共同相続の場合】

__●戸籍謄本
●印鑑証明書
●通帳__

【遺言書がなく遺産分割協議書がある場合】

__●遺産分割協議書
●戸籍謄本
●印鑑証明書
●通帳__

【遺言書がある場合】

__●遺言書
●家庭裁判所の検認済証明書
●戸籍謄本
●印鑑証明書
●通帳__

金融機関によって必要書類が異なる場合もあるため、事前に確認してから用意することをおすすめします。

相続分割前の相続預金の払戻し制度を利用する方法もある

口座凍結を解除する手続きは、金融機関にもよりますが、10営業日ほどかかるといわれています。場合によっては、葬儀代の支払いなどが必要で、口座凍結の解除まで待てないといったケースも考えられます。

そこで利用できるものが「相続分割前の相続預金の払戻し制度」です。これは2019年7月に施行された制度で、遺産分割が終了する前でも、相続人が当面の生活費や葬儀費用の支払いなどのために相続預金の払い戻しが受けられるようになりました。

以下では、一般社団法人 全国銀行協会が公表した資料を基に、2つの払戻し制度についてご紹介します。

・家庭裁判所の判断により払い戻しができる制度

家庭裁判所に遺産の分割の審判や調停が申し立てられている場合に、各相続人は家庭裁判所へ申し立てて審判を得ることで相続財産の全額または一部を取得し、銀行から単独で払い戻しを受けられます。払い戻しができる額は、家庭裁判所が仮取得を認めた金額です。

・家庭裁判所の判断を経ずに払い戻しができる制度

必要な金額が一定額以下の場合は、家庭裁判所の判断を経ずに銀行から単独で払い戻しを受けられます。単独で払い戻しができる額は「相続開始時の預金額×3分の1×払い戻しを行う相続人の法定相続分」で、同一の金融機関からの払い戻しは150万円が上限とされているようです。

原則として故人の口座は遺産分割が終了するまで凍結される!葬儀代の工面は早めの対策が必要

母親が亡くなった後は、死亡の連絡を銀行にしたときから預金口座が凍結されて、お金を引き出せなくなります。「葬儀代は自分で準備してある」と言っていたとしても、遺産分割が終了するまでは、預金に手を付けられなくなるため注意が必要です。

口座凍結前に引き出せばいいと考える人もいますが、相続人全員の同意が必要だったり、相続放棄ができなくなる可能があったりするため、慎重な判断が求められます。

口座凍結は、所定の手続きを踏むことで解除できますが、葬儀代がすぐに必要な場合などは、遺産分割前の相続預金の払戻制度を利用するといいでしょう。いずれにしても、親が亡くなった後はさまざまな手続きで忙しくなりますから、預金口座の整理なども含めて、早めの対策をしておくと安心です。

出典

一般社団法人全国銀行協会 2019年7月1日(月)施行 ご存知ですか?遺産分割前の相続預金の払戻し制度

執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー

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