自費で再来日、WBCチェコ代表右腕が語る東京での衝撃 まさかの謝罪で「日本式の礼儀に感動」

WBCでの楽しい思い出を語るメルガンス【写真:羽鳥慶太】

チェコ代表のメルガンス、WBCで大谷やダルビッシュに仰天

昨年3月に行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では、日本とも対戦したチェコ代表選手が初の大舞台でのプレーを楽しむ様子が話題となった。それから1年強が経った今年6月、代表の一員だったダビド・メルガンス投手が自費でガールフレンドと来日。隙間を縫って「THE ANSWER」の取材に応じた。当時受けた衝撃の一つとして挙げてくれたのが、日本のファンからの応援だった。

チェコ代表にとっては、昨春が初のWBC本大会出場だった。日本との対戦では、死球を与えた佐々木朗希投手との交流が話題となり、チェコ代表の人気も急上昇。ついには大谷翔平投手がチェコの帽子をかぶって米国入りするほどになった。そしてメルガンスは、グラウンドレベルで見た日本代表からいくつもの衝撃を受けたという。

大谷のフリー打撃は、外野スタンド上部の看板を軽々と直撃した。「対戦前に打撃の映像なども見ていましたが、実際に見たら信じられない飛距離でした、まさかあそこまでは行かないだろうという打球を飛ばしていた」とため息が出た。

さらに、投手の目線から驚いたのはダルビッシュの投球だった。「小さいころから見ていて、ベースボールカードも持っているんです。腕も長いし、すごい球を投げていた。もし誰かと話をできるのなら、ダルビッシュ選手と一番話してみたかった」。実際には日本代表の周囲は厳戒態勢で、話せるような“スキ”はなかったのを今も残念がる。

同じ投手として、ダルビッシュの強さをどこに感じたのだろうか。「精神面ですね。いつもクールというか、とにかく顔に出さない。WBC決勝戦の8回に投げた時も、決してベストの投球ではなかったと思うんですが、感情が出ていなかった。読めないんです」。自身のプレーでもまねているという。

WBC2023本大会に出場したチェコ代表【写真:荒川祐史】

日本のファンに驚き「名前も知らない国を応援してくれるなんて…」

チェコ代表が日本で受け入れられた大きなきっかけが、日本戦でエスカラが佐々木から膝に死球を受けたことだった。「当たった瞬間は、ベンチにいた僕も固まりました。すげえことをやっちゃったと。幸いエスカラ選手は無事でしたが、数センチずれてたら今もプレーできてないんじゃないかと思います」。エスカラは打席で悶絶したものの、しばらくすると何事もなかったかのように立ち上がり、一塁へ向かった。

スポーツマンシップあふれる場面に、スタンドからは大歓声。そしてメルガンスも驚いたのが2日後の休養日、ロッテのお菓子を手にした佐々木があやまりに来たことだった。「チェコにはない習慣です。わざとやったことではないですし。でも日本式の礼儀、親切さが現れたんじゃないでしょうか。佐々木選手の内面が良く分かったし、感動しました」。お菓子は選手で分けて、おいしく食べたという。

東京ドームを埋めたファンの行動も驚きでしかなかった。「名前も知らない国を応援してくれるなんて、可能なら1人1人と握手したいくらいだよ。チェコのために応援してくれて本当にうれしかった」。チェコ代表の選手や家族が、東京での日常をSNSで拡散し、日本人からの声援もどんどん増えていった。

今回の来日は、ロッテとチェコ野球の提携プログラムのロゴをデザインしたのが縁だ。そこに至る、すべてが始まったのがWBCだった。6月12日にはZOZOマリンスタジアムでDeNA戦を見た。「すごい声援で……。プレーより観客を見るのが楽しかったくらい。チェコだったらみんな帰っちゃうところでも、残って声援を送っていた。ロッテファンの忠誠心を感じました」。ここでも日本のファンには驚かされたという。

チェコ代表は、次回2026年に行われるWBCでは予選が免除される。前回大会では本戦での登板がなかったメルガンスも「雰囲気がいい」という東京ドームでの登板を目指している。「日本で練習すれば、スピードももっと出るだろうし、もっとうまくなると思うんだけどね」。野球がきっかけで、すっかり日本の虜となったメルガンス。またふらりとやってくることもありそうだ。

THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori

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