キダ・タローさん、ヤクルトレディへ応援歌 風雨の中の配達励ます 社歌作曲「会社全体が一体に」

兵庫ヤクルト販売60周年懇親会の歌合戦で審査委員長を務めたキダ・タローさん=神戸市内(同社提供)

 「浪花(なにわ)のモーツァルト」の愛称で親しまれ、5月14日に93歳で死去した作曲家キダ・タローさんは6年前、兵庫ヤクルト販売(神戸市西区)の社歌をつくっていた。テンポがいい歌謡曲風で、風雨の日も宅配に出かけるスタッフらを励ますような勇ましいメロディー。残した作品は3千ともいわれ、晩年まで創作意欲が盛んだったキダさんは、故郷・兵庫でも優しい人柄とプロ意識で、知る人ぞ知る楽曲を含め多くの仕事を残した。(津谷治英)

### ■「聞くたびに励まされる」

 1930年に宝塚市で生まれ、関西学院中学部、高等部を経て関西学院大に進学。バンド活動のため中退した。作曲家になってからは「アホの坂田」などのヒットを飛ばした。代名詞といえるCM曲は「かに道楽」「くいだおれ」、神戸の旅館「有馬兵衛向陽閣」などを手がけた。

 兵庫ヤクルト販売との出合いは2017年1月、前年の同社60周年行事を兼ねた従業員懇親会だった。当時社長だった阿部泰久会長(68)が、ヤクルトレディと呼ばれる宅配員らの歌合戦を企画し、審査委員長にキダさんを招いた。

 プロの作曲家の前で披露するとあって、出演者らは元気な歌やダンスで盛り上げた。キダさんは「楽しい人ばかり。こんな会社の社歌ならつくってもいいな」と話した。

 阿部さんは「サービストークと思っていました。でも依頼したら本当に引き受けてくれた。テレビで見るのと同じく気さくな方でした」と振り返る。

 〈頬(ほほ)笑みを絶やさずに/幸せを願う心もつ〉〈ヤクルト・スタッフ/人々を支える/地域社会を支える〉〈集うは兵庫/兵庫ヤクルト〉

 作詞はもず唱平さんが担当し、地域貢献を目指す企業理念を盛り込んだ。レコーディング現場には阿部さんも立ち会った。この時、キダさんはプロらしい表情を見せたという。

 「笑顔はなく、真剣そのもの。室内は緊張感にあふれ、怖いくらい。演奏は何度もやり直し、ほぼ丸1日かかりました」

 曲が仕上がり、キダさんは「皆さんが泣きながら、感動しながら拍手して歌ってほしい」とコメントを寄せたという。

 翌年の懇親会で社員に披露すると、全員が自然と肩を組んで合唱した。「会社全体が一体になりました」と阿部さん。

 訃報に接し、「最近までテレビに出演していたのに」と残念がる。同社は追悼の思いを込め、5月下旬に開いた顧客向け健康イベントで社歌を紹介した。「元気が出る曲をいただき感謝している。聞くたびにキダさんに励まされます」としのんだ。兵庫ヤクルト販売の社歌は同社ホームページで聴ける。

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