映画『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』川越淳監督、脚本家・米村正二氏インタビュー

映画『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』の公開決定が報じられた2024年1月5日。ばいきんまんが主役!?という内容とともに、絶体絶命のピンチの中、ゲストキャラのルルンに「アンパンマンを呼んでこい!」と伝えることが明らかになると、“胸アツ”というコメントでSNSは盛り上がった。なぜ、今作ではばいきんまんが活躍するのか、そのセリフの背景には何があるのか、アンパンマンはそれにどう応えるのか。本作で描かれるアンパンマンとばいきんまん、ルルンについて、川越淳監督、脚本家・米村正二氏に語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

何度負けてもへこたれずに立ち向かうばいきんまん

──本作ではばいきんまんが大活躍をします。ばいきんまんをメインキャラにされた理由からお聞かせください。

脚本家・米村正二氏(以下、米村):コンセプトについて川越さん、プロデューサー陣と打ち合わせをした際に、いろいろな案が出て、なかなか1つに決まらなかったので、「とりあえず僕がまとめてきます」と引き取ったのです。次の打ち合わせで、ばいきんまんがメインとなる話を出したところ、ストーリーは変更になりましたが、ばいきんまんがゲストキャラを励ますという部分だけは残って、そこからみんなで形にしていきました。

基本的なラインとして、アンパンマンが主役で、ゲストキャラとアンパンマンの出会いがあり、ゲストキャラが抱えている問題をアンパンマンが解決するのですが、今回はアンパンマンがばいきんまんに置き換わったのです。

──絵本の世界を舞台にされたのはどうしてでしょうか。

米村:アンパンマンは映画に限らず、テレビシリーズでもいろんな世界に行きます。やなせさんの原作に絵本の世界に入るという話があるのですが、ストーリーを作っていく上でばいきんまんが主役の絵本があって、その中に入って、物語が展開するとおもしろいなと思ったことがきっかけです。

──脚本開発はいかがでしたか。

米村:ばいきんまんがゲストキャラを助けるというラインができてからは、あまり苦労しませんでした。ばいきんまんは自分でメカを開発し、アンパンマンにやられて、それでもめげずにまたメカを作る。失敗を繰り返しても諦めないばいきんまんに対するゲストキャラですから、設定が作りやすいのです。今回は「私はできない」「私は怖い」と逃げてしまうルルンというキャラクターが作り上げられていきました。

川越淳監督(以下、川越):ルルンはヘタレな子で、みんなが戦っているときも陰に隠れていました。それで1人残されてしまい、ばいきんまんに助けを求めにいく。ばいきんまんと出会い、何度負けてもへこたれずに立ち向かうばいきんまんの姿を見て、段々感化されていくという話をわかりやすく作っていきました。

──もう1つのゲストキャラ、すいとるゾウはネーミングが面白いですね。

米村:ゲストキャラが怖すぎると、小さなお子さんが劇場で見たときに泣いてしまいます。怖いけれどユニークさが必要。それでやなせさんもよくやっていましたが、ちょっとダジャレを入れることで、少し怖いけれど柔らかめのキャラになるのです。

普段は描かれていない姿に焦点を当てて、ばいきんまんを描く

──今回はばいきんまんがメインということで、アンパンマンの登場が遅かったようにも思います。

川越:絵本の世界はあまり人がいないので、どうしようかと話をしていたときに、米村さんから「ルルンとばいきんまんが濃密な関係性を積み重ねていくと、それが後からルルンに響くのではないか」という提案がありました。僕は対比が多い方がいいと思い、すいとるゾウがこっちの世界に来たらどうなるだろうかと考えていたのですが、米村さんの話を聞いて、そちらの方がいいと思いました。

米村:今回の作品はアンパンマンの出番が遅い。「アンパンマンはどうしたの?」と子どもたちが寂しがるのではないかという意見もあり、もう少し早く展開させて、ばいきんまんとアンパンマンの世界という形で並行して2つの世界を描こうという話もありました。

しかし、幼い子はAストーリーがずっと展開して、Bストーリーに移るのなら流れを理解できますが、AストーリーとBストーリーを行ったり来たりと並行して描くと難しい。結果として、アンパンマンの出番は遅くなるものの、絵本の世界の話がある程度終わったところで、ストーリー展開上の理由で話がアンパンマンワールドに移るという流れにさせてもらいました。

川越:しかも、ばいきんまんとルルンの関係性を深めるためにたくさんのカットを積んでしまったので、当初の予定よりもアンパンマンの登場が後ろになってしまったんです。

──ばいきんまんの描き方で意識されたことはありましたか。

米村:僕が初めに書いたときはもう少し暴走していたので、プロデューサーに止めていただきました(笑)。

テレビシリーズを見ていると、ばいきんまんは毎回メカを作って、やられてしまう。しかし、また平気な顔をして出てくる。ばいきんまんは本来のキャラクターとして、やられても、やられても、めげずにがんばる精神的強さが根底にあります。しかも、これまで描かれることはありませんでしたが、バイキン城でコツコツと次のメカを作っているばいきんまんがいるはず。そういった普段は描かれていない姿に焦点を当てました。

そして、毎回、アンパンマンに負けてしまうものの、「俺様が世界でいちばん強い」というプライドを持っている。だから、すいとるゾウにプライドを傷つけられると、本当は怖いけれど、立ち向かおうとがんばるわけです。

今回のばいきんまんは普段のばいきんまんとは違うように見えるかもしれませんが、本来、ばいきんまんが持っているキャラクターではあるのです。

──そのプライドの高いばいきんまんがルルンに「アンパンマンを呼んでこい!」と言います。このセリフに驚きました。

米村:ばいきんまんはルルンと濃密な関係性を積み重ねたが故に、何とかしてルルンを助けたいと思った。しかし、悔しいけれど、それを成し得るのはアンパンマンしかいない。ばいきんまんは苦渋の決断をしたと結論付けられるのではないかと思い、そのセリフを書きました。

川越:万策尽きて、ルルンにアンパンマンを呼びに行かせましたが、ばいきんまんはその場に1人残って、戦いに挑んでいく。ばいきんまんは決して諦めてはいないのです。

──「アンパンマンを呼んでこい!」というセリフに呼応するように、アンパンマンもまたばいきんまんにあるセリフを伝える場面があり、ばいきんまんとアンパンマンの信頼関係を感じます。

米村:結構泣けますよね。自分で考えておきながら、何ですが(笑)。

川越:ばいきんまんとアンパンマンはお互いに託しあっている部分があるのです。あのセリフでフラグは立ってしまいましたけれどね(笑)。

米村:「アンパンマンたいそう」の中に「アンパンマンは君さ」という歌詞がありますが、あれはやなせさんが全ての子どもたちに向けた言葉だと思うのです。アンパンマンは苦境に陥ったとき、ばいきんまんに対して「アンパンマンは君さ」という思いが芽生えたような気がします。

──頼りなかったルルンもアンパンマンやばいきんまんに感化され、やられてもへこたれずにがんばりました。その姿は見ている子どもたちに大事なことを教えてくれる気がします。

川越:ルルンも森の力をもらって戦いに挑みますが、結局は負けてしまう。「自分はやっぱりダメなんだ」となったときに、ルルンはアンパンマンとばいきんまんの言葉を思い出します。それによって、森の力という実質的な力ではなく、心の中の思いこそが強さだと気づいて、最後に覚醒する。その辺りもカットを積み重ねて、丁寧に作っていきました。

──ルルンの性別がはっきりとは描かれていません。あえて描かなかったのでしょうか。

米村:あえてというところはあったと思います。僕の中では萩尾望都さんの「11人いる!」というコミックに成長後、初めて性別が確定するジェンダーレスのキャラクターがいることを思い出し、今回は森の妖精なのでジェンダーレスでいいのではないかと思ったのです。

川越:僕も作る中で、基本的に自分のことを「ルルン」と呼ぶようにして、男女の別を立たせないように作りました。

「ストーリーはシンプルで、展開は面白くということを心掛けてほしい」

──映画は大人も一緒に見ることが多いかと思います。大人の目も意識して作られるのでしょうか。

米村:基本的には意識していません。テレビシリーズに初めて入った頃、テレビシリーズ監督の永丘(昭典)さんから「ストーリーはシンプルで、展開は面白くということを心掛けてほしい」と言われました。確かに子どもは展開が面白くて早いと夢中になって見てくれます。ですので、テレビシリーズでも映画でも、それを大事にしています。

とはいえ、「来年も子どもを映画館に連れて行こう」と思ってもらえることは大人が見てもよかったということなので、そこは微妙に意識していると思います。

川越:ばいきんまんがDIYをしますが、あれはお父さんたちが喜んでくれるのではないかと思っています。

──本作が初めての映画体験となるお子さんも多いかと思います。制作するうえで気をつけているところはありますか。

川越:大きな画面ですから、迫ってくるすいとるゾウが怖く見えてはいけないということがまずありました。以前、アンパンマンの映画を作ったとき、加減をしなかったので、戦いのシーンで子どもが泣き出してしまったことがあったのです。今回、すいとるゾウとウッドだだんだんは結構激しく戦っていますが、子どもたちが怖くならないように、明るい画面にしています。

──最後に本作の見どころを教えてください。

米村:アンパンマンが大事な役割を担って出てくるので、アンパンマンも見てほしいのですが、今回はシンプルに“ばいきんまんが大活躍するぞ”というところですね。

川越:ばいきんまんのハイスペックなところをぜひご覧いただきたいです。

映画『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』6月28日(金)より元気100倍!全国ロードショー

<STORY> 
ばいきんまんが愛と勇気の戦士に!?   
ある日、一冊の絵本を見つけたばいきんまん。絵本から「愛と勇気の戦士ばいきんまん、助けにきて!!」と声が聞こえ、絵本の中に吸い込まれてしまいます。砂漠の先に広がる大きな森で出会ったのは、森の妖精・ルルン。怖がりで勇気が出せないルルンは、森で大暴れする“すいとるゾウ”をやっつけてほしいとばいきんまんにお願いします。最初は嫌がりながらも、諦めずに立ち向かうばいきんまんの姿にルルンは勇気がわいてきます。しかし、すいとるゾウの強さに大苦戦!絶体絶命のピンチの中、ばいきんまんはルルンに「アンパンマンを呼んでこい!」と伝えるのでした ――。アンパンマンとばいきんまんが力を合わせて大活躍!さぁ!今年の夏は、みんなで一緒に〈絵本の世界〉を大冒険しよう!

<STAFF&CAST>  
監督:川越淳  
脚本:米村正二  
音楽:いずみたく 近藤浩章  
声の出演:アンパンマン/戸田恵子、ばいきんまん/中尾隆聖、ルルン/上戸彩、すいとるゾウ/岡村隆史(特別出演) 他  
原作:やなせたかし(フレーベル館刊) 
テーマ曲:「アンパンマンたいそう」  
配給:東京テアトル   
©やなせたかし/フレーベル館・TMS・NTV ©やなせたかし/アンパンマン製作委員会2024 

映画『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』公式サイト|6月28日(金)全国ロードショー!

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