東京都心の不動産価格は上昇の一途を辿っています。絶好の契機と考え、不動産の売却を検討する人も多いのでは。しかし条件の良い物件でありながら、買取相場以下という結果に涙するケースも。その理由を、不動産業界のトップセールスマンだった齊藤郁織氏が解説します。
賃貸管理の「大きな分岐ポイント」
筆者はセールス時代、物件の売却を検討している40代のサラリーマンから「港区の中でも好立地なマンションなのに、業者の買取金額が全然伸びないんです」と相談を受けたことがあります。確かに確認してみると条件はどれも一等地、購入時期も良く売却利益が出ても全く違和感がない物件。何が問題だったのでしょうか。
「あなたの物件、相場以下の価格でしか買い取れません」と業者に言われたとき、実は時すでに遅しという場合もあります。不動産投資を始めると、賃貸管理の方法として「管理委託」と「サブリース(=家賃保証)」が選択できます。この選択の分岐は今後の売却時の価格と賃料に大きく関係してくるので、必ずどちらの仕組みも理解しておいてください。
管理委託
管理委託とは、
①オーナーが入居者と直接、賃貸借契約を結ぶ
②集金などの業務を管理会社に委託し、オーナーは集金した家賃をそのままもらえる
なので、入居者がいればお金はもらえるますが、空室期間は集金する家賃がないので、その期間は家賃収入がゼロになります。つまり、通常の管理委託においては「空室リスク」はオーナーが負うことになりますね。
ただし、賃貸借契約はオーナー・入居者の間で締結されますので、「礼金・更新料」はオーナーがもらうことができます。もちろん、管理を委託する分の費用は「賃貸管理費」として別途発生します。
サブリース(=家賃保証)
サブリースとは、
①オーナーは入居者とではなく”管理会社”と賃貸借契約を結び、管理会社が入居者に部屋を転貸する
②管理会社は入居者からの集金額に関わらず一定額をオーナーに支払う
という特殊な管理形態です。「空室リスク」を管理会社が負い、入居者がいてもいなくてもオーナーは毎月安定した収入を得ることができる(もらえる家賃を保証してもらえる)管理形態となります。こちらも入居者の対応は管理会社が行い、通常の管理委託と同じく「賃貸管理費」が発生します。
サブリースに潜む注意点、3つ
ただし、この説明した『サブリース』には注意すべき点がいくつかあります(※誤解の無いようお伝えすると、最後に説明しますがサブリース契約には利点もあります)。「知らなくて契約した」ということが問題であって、サブリース自体は合法な制度です。
1)貰える家賃が少ない
管理会社から毎月もらえる家賃は、実際に入居者が管理会社に払っている家賃より少ないです。管理会社は空室リスクを負っている分、実際の家賃の一部を手数料としてもらっていると考えると分かりやすいかもしれません。さらに、管理会社が保証してくれる毎月の家賃は、数年に一度見直される場合がありますので、必ずしも将来にわたって同じ家賃の支払いを保証してもらえる訳ではない点も注意が必要でしょう。また、真に注意すべきポイントとして、もらえる賃料が少ないということは、売却価格にも影響します。サブリースによって毎月の家賃収入が10%減っていた場合、売却価格も10%低く評価される可能性があります。
2)礼金・更新料をもらえない
オーナーではなく管理会社が入居者との契約を結んでいますので、礼金・更新料は入居者から管理会社に支払われます。オーナーは礼金・更新料をもらうことができません。
3)中途解約のハードル
通常の管理委託の下でオーナーが入居者と賃貸借契約を結ぶ場合、契約期間は2年である場合が多いです。一方で、サブリース契約は長期間(10~30年等)にわたる場合があります。ここで論点になるのは中途解約です。「借地借家法」という法律により、賃貸人(借りてる側)は手厚く保護されていますので、賃貸人である管理会社からの解約はできても、賃貸人(貸してる側)となるオーナーからの解約は難しいと言われています。同様に契約更新の拒絶のハードルも高いです。「管理会社から保証してもらっている家賃が、実際に入居者が払っている家賃より少なそうだから通常の管理委託に切り替えようかな」と思っても、オーナー都合で切り替えはとても困難です。私もよく解約の相談をいただきますが、かなり慎重な交渉が必要となります。
ただ、デメリットだけではなくサブリース契約には空室リスクを回避して安定収入を得られる利点もあります。解約の難しさ等からトラブルになる場合も多いですが、検討して自分にはメリットの方が大きいと思われる場合は、利用を考えてもいいかもしれません。